書を捨て都城へ出よう。
「書架なんかに篭ってたらじきに黴ちゃうわよ」
開慧に促されて屋敷の外に出ることになった。
「市場とか見てみたいな」
その国の文化を知りたいなら市場に行け、古い旅行家の金言だ。
「なにか欲しいの? 人をやって買いに行かせてもいいのに」
情緒のない、しかし名家のお嬢様らしい開慧の発言にこう返す。
「自分の目耳で集めてこその情報なのだよ、開慧クン」
そういうものかしら、と独白する開慧と付き人を従えて屋敷から市場まで歩く。
道は整備されてても舗装はされてない。足の裏に砂利の感覚がある。
並ぶ屋敷は十のあたりで数えるのを止めた。
「都なんだなぁ…」
ぼそりとつぶやく。道の先に旗や看板が見えてきた。
「端田舎の術士様には早すぎたかしら?」
開慧の鼻につく言い方…悪いやつじゃないのだろうが(婚約もしてるし)、ちょっと俺を下に見すぎじゃあないか?
「端田舎っていうけどなぁ…」
思い出す限りのこの世界での記憶を引っ張り出して、この世界の俺の田舎の利点を論った。
「山は豊かだし、ここいらの屋敷はうちの山から切り出された木が使われてるんだぞ。村の野菜や穀物だってここの市場に卸されてるんだ。」
「そっか…、田舎がないと都も成り立たないのね…」
こういうところで妙に素直なところが開慧の長所だんだろう。
「いつか黄家にちゃんとご挨拶行かないと」
え? あっ…
「それって…」
「銀雄が科に合格して!仕官が決まって!それから…」
顔を真っ赤にする開慧。話は読めた。
「祝言もきちんとあげて、な」
こういうままごとじみたイチャイチャも悪くない。
真っ赤な顔の開慧をみてほくそ笑む付き人もそう悪いやつでもないようだし。




