黄昏時より茜色な
翌朝、開慧は朝起こしにくることも朝餉の席に着くこともなかった。
俊峰氏は報告にいくと役所へ赴き、何か落ち着かない俺は離れで水面を見ながら書架から持ち出した地理の書物に目を通していた。
地図というものはどうしてこうも見ているだけで心踊るのか…、昔何気なく見た架空の都市の地図ばかりが載ってる本を思い出す。
まぁ、それでも飽きてきたので摩周を誘って出掛けようかと離れを出たら、あの巌のような義父が帰ってきた。
いつもは屯所に詰めているが、三日に一遍の割合で帰ってくる。今日はその日だった。
門で使用人たちと義父を出迎えると摩周も駅亭から帰ってきた。
「今日はやけに書簡が多いな」
丸太のような腕に薪かのように抱えられ書簡はいつもの比ではない。
「ほとんど旦那様宛てですが、銀雄殿宛ても預かってますよ」
黄家に科の合格報告をした返事だろう。簡単な事は早文にしたが、近況報告を兼ねた書簡は通常の書簡で送っていた。
「摩周! 一段落したら儂の部屋に書簡を持ってきなさい、話がある」
巌のような声が響き、摩周に話の心当たりを尋ねるが、摩周当人もピンと来ていないようだ。
自分宛ての書簡を受け取り、摩周に礼を行って俺は離れに踵を返した。
封を切ると予想どおり黄家の母からだった。科の合格の祝辞と仕官先を教えろという内容だった。
どう返すか…西行探吏への推挙の件、今書くのは早すぎるだろうし、かといっていつまでも報告しないわけにはいかない。
季節の挨拶と近況と…新しい竹簡に何を書くか。そんなことを考えていたら空が茜色になっている。
水面を覗き込む。目つきの悪い銀髪がこちらを見ている。
今日も夕餉の誘いに開慧は来なかった。別に摩周でもかまわないが、同じ屋根の下で一日あっていないだけで、こうも居心地が悪くなるものだろうか?




