西ゆく探求者。
離れに俊峰氏を招き、摩周も誘う。使用人に人数分の茶を用意させる。
(俺もこういうの抵抗なくなってきたな)
開慧や劉夫人はこともなく使用人に用を頼んだりするが、この世界に来たての俺は使用人を使うことに抵抗があった。
どうも知らない人に手間を煩わせるのは…というか家に家族でない人間がいるというのも、元の世界では無かったことだし、それを顎で使うのは…と思うことが多かった。
しかし使用人たちだって仕事として用事を頼まれてくれるし、彼らの衣食住と給金は楊家が賄っている。そう考えることで徐々に抵抗は薄れていった。
「千里鏡…ですか」
俊峰氏の眼鏡の正式な名称である。
「既知に蔡家の傍流の仙術士がいてね。作ってもらったんです」
なんでもし視力の矯正と霊的物質をみる事が出来ると言う。
「鑑定なんかも出来るのですか?」
「いや、それは無いよ。私は目利きではないし、そういうことをする仕事ではないですから」
どうも異世界あるあるスカウターというありきたりチートのようなアイテムではないようだ。
そんなやり取りとしていると摩周が口を開いた。
「俊峰殿も仕官としてお勤めしてると伺いました。どのようなお仕事をされているのですか?」
来年からのことを考えて、俺も聞いてみたい質問だ。
「僕はね、西行探吏なんだ」
この東幻、東幻というからには西のほうにも土地がある。しかしある程度西北に進むと突如険しい山脈に行く手を阻まれる。
「西行探吏は主には西の山脈より先に進む事を目的としている。今はその目的にとらわれず国土内の実地調査を行う役職なんだ」
「何を調査するんです?」
「地方で体系化されていない仙術・錬丹術を調べてまとめる…っていうのが最近の仕事かな?」
練丹術は医術と仙術の合せたような技術だ。
「近年は海を越えてきた仙術もあるらしくて、仙術が関わった出来事なども調べることもある」
「それで千里鏡を…」
「んー、それなりに役に立ってるよ」
そして俊峰氏は最近の仕事の内容を当たり障りの無い範囲で教えてくれた。
怪しいアイテム、村の言い伝え…それを調べる探求者。
なるほど…フィールドワーク、そういうのもあるのか。
「俊峰殿、俺も西行探吏になれますか?」
「科は受かっているんだっけ?」
「はい、役所から仕官先の希望を聞かれてたところでして」
「フム」
「役所や屯所の中だけの仕事には食指が動かなくて、せっかく村から出たんだし東幻のいろんなところをみて見たいですし、それに…」
「何か他にも目的が?」
「西に行ってみたいです」
おぼろげなこの世界の俺の記憶が確かならば、俺が育った村は西の山脈の麓にある。
あの山の向こう…もし行けるのであれば、そこになにがあるか確かめてみたい。そんな憧憬にも似た感情をこの世界の俺は抱いていたようだ。
「なるほど、うちはそんなに志願者はいないし。上司に掛け合って推挙してもらうことも出来なくはない」
「本当ですか?!」
これはチャンスだ。逃すわけには行かない。
「僕の上司に会ってもらおう、で上司が向いていないと判断した時は残念だけど」
「ありがとうございます、是非ともお願いします」
俊峰氏の上司に俺がどう判断されるかなんてわからない。もし向いていないと判断されても恨みっこナシだ。
ほんの少しだけ、俺の異世界就活は確実に進み始めた。




