コネから始める異世界就活
夏の盛りも過ぎた頃、楊家の屋敷に来客が二件あった。
一つ目は役所から、仕官先の希望を問うものだ。
摩周は即座にあの巌のような義父の元、都の屯所を希望した。
科を通った人間なら文官として兵站部か戦術部に就くことになるそうだ。
摩周はゴツイが、その見た目によらず繊細だ。細かいところに気がつくし、書物の扱いもうまい。兵站はなかなか合っているかも知れない。
問題は俺だ。ぶっちゃけ軍に行くのは気が進まないし、かといって役所の中でデスクワークも違う気がする。
ひとまず保留にして役所からの使いにはお帰りいただいた。
さてどうしたものか…と困る俺に手を差し伸べてくれたのが二つ目の客人だった。
海 俊峰という、かつて楊家の食客(有体に言うと摩周と同じ書生のような立場)だったという。
物腰が柔らかい優男、という楊家とはちょっと縁遠い人物に見える。そして彼は俺がこの世界に来てから初めて見る元の世界では馴染のある物を身につけていた。
眼鏡だ。よく見るとガラスではない、薄い緑色を帯びた透明度の高い石を磨いたものに真言を刻んだ金属製の縁がついている。
お互いに名乗り、挨拶を交わしたところで俺はまじまじとその眼鏡らしきものに見入った。
「なにか、顔についてますか?」
海氏の声に我に帰る。
「申し訳ない。見たことのない道具でしたので仙具ではないかと思いまして…」
「ああ…黄家の仙術はあまり仙具を使わないのでしたね?」
「はい、海殿。それについて詳しく教えていただけませんでしょうか?」
「では夕餉の後にゆっくりと…あと、僕のことは俊峰でかまわないですよ」
夕餉の席に着いた時、食卓がいつもと違うところが二点あることに気づいた。
一つは俊峰氏がいること、もう一つは開慧の席が空いていること。
劉夫人に開慧のことを尋ねると具合が優れないので臥せっていると言われた。
気になりつつも、夕餉の後の俊峰氏との約束もある。粛々と食事は進み、そして食後の一服は離れで行うことになった…。




