果報が来たりて深淵を覗く。
とうとうこの日が来た。
役所の使いが来て俺と摩周に箱を渡して帰っていった。
屋敷の居間に俺と摩周が箱を挟んで向かい合い、その周りを楊家の者たちが囲んでいる。
棗色の蓋にかかる紐を慎重に解き、蓋に手をかける。
俺は勢いに任せて蓋を開け、それにつられたように摩周も蓋を開けた。
右の者、技量が足るとし
科の合を賜るを記す。
黄 銀雄
真新しい紙に書かれた自分の名前を確認し、顔を上げれば摩周と目が合った。
そのゴツい顔が緩み、口郭がつり上がり、頬が紅潮し、その目が涙で満たされていくのがしっかり見えた。
「やったああぁぁァァアアッッッ!!!!!」
摩周にとっては一年ぶりの悲願であり、俺にとっては真新しい紙に書かれた自分の名前があまりにも輝かしい。お互いに鬨を挙げ、お互いにその戦果を噛み締めた。
それに応えるように楊家の者たちは沸き、開慧は俺に抱きつき、劉夫人も涙ぐみながら屯所へ使いを出した。
嬉しい。嬉しいのだが、俺はこの熱狂の最中に真新しい紙に書かれた名前の「主」の事が脳裡に過った。
本当にあの朝目覚めたのは俺でよかったのか? この喜びは本来「彼」の努力に依るものではないか? いや、そもそもこれはまだ夢から覚めていないだけで、まだ俺は寝ているだけではないか?
「銀雄? どうかしたの?」
開慧の声で我に返る。
浮かれすぎて熱が出たみたいだ、と言い訳して早々に離れに戻った。
開慧も摩周も心配してくれた。劉夫人もお祝いは後日にしましょうと気を遣ってくれた。
誰もが「黄 銀雄」を気遣い心配してくれた。それが、皆の気遣いが、つらかった。
その夜は久しぶりに、少し泣いた。




