軍門令嬢の嗜み
科の合否が届くまで最低7日はかかるらしい。
脳味噌の中に詰め込んだモノを一挙に出し切った影響か、離れで庭を見るか、たまにあの巌のような義父に庭に引っ張り出される日々を送っていた。
そんなある日、屋敷に来客があった。南から来た行商だ。しかし屋敷に出入りするだけあってその印象は御用聞きに近い。髪はきれいに巾にまとめ髭は整え、着ている物も市場の小売とは違ういい物を着ている。
応接間にぞろぞろ持ち込まれ、部屋中に広げられた様は、高級デパートの一角をそのまま持ってきたような豪華さだ。
摩周と共に応接間に呼ばれ、劉夫人と開慧と共に行商の高説を賜ることになった。
「服とかはないんだな」
ふと疑問が口を出る。壁に所狭しとかけられた色とりどりの布地はあるが、衣服の形になったものはない。
「布を選ばないと仕立て屋が困るじゃない」
開慧の言葉に、未だに俺は元の世界の感覚を引きずっていることに気づく。
「仕立てから上がってくるのを待つのも、楽しみの一つでなくて?」
劉夫人はそういって行商に、殿方向けのものを見せてと声をかける。
「来年からのお勤めに礼服が必要でしょう?」
そう言って俺と摩周に布地を選ばせようとする。
「まだ合否の報も届いていません。少し気が早いのでは?」
俺の言葉に摩周も同調するが、
「いいじゃない、前祝と思って。あって困るものでなくてよ?」
そう劉夫人に促されて俺は開慧と、摩周は劉婦人と行商と相談して布地を決める。
「ねえ、ワタシにも何か選んでよ銀雄」
そういって小間物が並ぶ一角に俺を引っ張っていく。
こういった類のものにはとんと疎いが、物の良さはなんとなく感じる。
その中で銀細工の髪飾りに目が留まる。花を模した細工に翡翠のような石のビーズがアクセントに入ってる。
「これとかどうだ」
開慧の明るい髪色にも映えるだろう。そう思って俺は薦めた。
「んー…」
開慧にはいまひとつだっただろうか?
「両把結えるのはもうそんなに…」
よく見ると髪飾りはもう一つある。二本一組のものだ。
「なんでだ? その髪型似合ってるじゃないか?」
「いや…祝言挙げたらもう結えないよ?」
ふと劉夫人を見る。この世界の既婚女性は髪を一つにまとめている。どうやらツインテールは独身女性限定の髪型のようだ。
「銀雄のお母様が両把を結うの、ちょっと考えてみて?」
この世界の母は少しおぼろげで想像しづらいが、元の世界のオカンがツインテにしているのは…
「ナシ…だな」
「でしょう?」
「でも…俺その髪形好きだけどな」
溌剌とした開慧にはとてもおあつらえ向きな髪形だと思う。実際よく似合ってる。
「んーわかった。出来る間は両把結う。これも使う。だから…」
「なんだ?」
「両把結ってた頃のワタシ、忘れないでね」
気軽に写真や映像に残せるわけではない、この世界ならではのお願いだった。元の世界で言われるより、重い。
「わかった。忘れない」
こうして後日銀の髪飾りはたまに開慧の髪に彩を添えるようになる。
俺と摩周はこのあと市場から来た仕立て屋にめちゃくちゃ採寸された。




