第203話『大聖国の顛末』
「なあ、君は……すべての魔王を倒したら一体どうするつもりだい? やはり……この世界に留まるのか?」
聖水によって意識が朦朧としつつあるなかで、壁に縫い付けられたままのビャッコが俺に問いかけてくる。
「なんだ? その質問は? そりゃ元の世界に帰るに決まってるだろ。最初からそういう話で異世界に来てるんだから」
俺が淀みなくそう答えると、
「フッ……そうか……この世界をあっさり手放すことができる君のようなヤツにやられるとはね……でも、きっと君のそれが正解の……だろうな……」
ビャッコは自嘲気味に笑いながら息絶えたのであった。
ビャッコを倒した俺たちは部屋を出る。
ダスクやリリーフたちは魔王と四天王の半分が討ち取られたことを伝えるため速やかに神殿中を駆け巡り出した。
「いい? 魔王ビャッコは『ハルン公国の勇者ジロー・ヒョロイカ』によって倒されたと通達するのよ! 他国にもそのようにね! 特に公国には民衆にも広まるように!」
スチルが大きな声で指示を出している。
早くも俺を勇者として扱い、各所に周知させてくれるらしい。
そういやリクが街中で大暴れしてくれたおかげで四天王の半分や他の幹部クラスはそっちに行っていたぽいね。
そして、そいつらはリクの手ですでに討伐済みと報告が入った。
指揮してくれる存在を失った魔物たちはただの烏合の衆。
大聖国の騎士たちが中心となって残党の討伐を始める。
俺やリクも手伝うと言ったが、これくらいは自国民だけで対処させてくれと真顔で言われたので俺たちは客室で歓待を受けながらそのときを待った。
やがて――
日没までにはすべての魔物の掃討が終了し、聖都は再び人間が統治を取り戻した。
こうして、俺の大聖国遠征もとい、魔王軍による聖都制圧騒動は幕を閉じたのである。
その後の大聖国の顛末について語ろう。
傭兵団を雇うことを多数派の意見として押し通し、魔王軍を引き入れる結果を招いた者たちは更迭されたり、永久追放に等しい巡礼の旅に行かされることが決定したらしい。
信徒としての務めを疎かにしていた者たちも、それに見合った評価を下されるそうだ。
不適切に立場を追われた者たちは元の地位に戻され、何人かは空席となった高い地位に昇格となった。
そして勇者のビッチJK。
知らなかったとはいえ魔王を従者にして傍に置いていたという、勇者の歴史としては後世に残すのもはばかられる前代未聞の愚行を犯した彼女だが……。
大聖国の勇者はまだ勇者としての力を完全に覚醒させる前に卑劣な魔王の手によって洗脳され意のままに操られていた。
神殿での行動はすべて洗脳のせい、現在は正気に戻ったが、長期間精神を支配された影響で心身共に衰弱して病んでしまい床に伏せっている――
と、対外的にはそうアナウンスされることになった。
おわかりだと思うが……。
もちろん実際には洗脳なんかされていなかった。
だから衰弱して床に伏せてもいない。
まあ、言ってしまえば政治家なんかが不祥事を起こしたときに体調不良といって入院するようなやつだね。
いや、本当に体調が悪くなって入院した政治家さんだっているかもしれないからこれは失言かなぁ……。
それはさておき。
振る舞いの順序に割と矛盾があるのは関係者なら明白な公表だが、正常な思考の勇者が魔王を国の中枢に招き入れ、唆された挙げ句利用されまくっていたなんて事実を大っぴらにできるわけもない。
その辺の事情を鑑みた結果、こういうことだったとするのが穏当という結論になったのである。
そして彼女の身柄も表向きでは神殿内で療養中ということにして、実際はニコルコで秘密裏に預かるという話に落ち着いた。
自業自得ながら、彼女の影響を受けて自堕落に陥り処罰された者たちの恨み。
蔑ろにされた聖女ヘイスティールを信奉する過激派たちの怒り。
魔王軍から聖都を守ってくれなかったことに対する国民たちの不満――
大聖国にいたままだと異世界から帰る前に原因不明の死を遂げてもおかしくないからな。
監視と保護の名目を兼ねて、俺の目の届く範囲に置くのが一番トラブルを避けられると見做した結果だった。
ゴネられるかと思ったが、従者にしていたビャッコが魔王で自分を利用していたことは彼女なりにショックであったらしい。特に短気を起こすこともなく、ビッチJKはしょげた様子で領主邸の一室に押し込まれてくれた。
心優しき主人公体質な人間ならメンタルケアとかをやってあげるんだろうけど。
俺はただの小市民なので放置。
まあ、全部の魔王が倒されて異世界から帰るときまで大人しく軟禁されていてもらおう。
残る魔王はハスミの担当する共和国のみとなった。
ハスミの進捗が今どれほどかは知らんが、その日が来たら俺たちは異世界を去る……。
リクとハスミはなんか残りたそうな感じだが。
最初に神様言っていた通りなら魔王を全部倒したら願いを叶えてくれるらしいから、それで残留の権利を貰うのかな。
どちらにせよ、猶予はあまりない。
ハルンケア8世の悪事を白日の下に晒し、憂いなく異世界にアバヨできるよう頑張っていくのみだ。




