第202話『精霊王の加護LV4』
「仕方がない……こんな場所で使うものじゃないんだけど……そうは言ってられないようだ……くっ……」
ビャッコが何やら非常に覚悟を決めたような面持ちで手を合わせて三角に形作る。
彼の額からはタラリと汗が滲んでいた。
「おいおい、何するつもりだ?」
何かさぁ。
雰囲気的に決死の最終奥義くさいもんやろうとしてないっすか?
彼の放つ、ビリビリした覇気で石壁から少し砂っぽいものがポロポロ落ちてきている。
神殿が微動してんですけど?
確かにここは個人の居室にしては広めの部屋だが、そんな死に物狂いの強力な魔法を使っていいほどのスペースではないと思うけど。
お前はさぁ!
今まで滞在してた部屋に愛着ってもんはないのか!
「『スーリャストラ』」
さっきまでの攻撃の光とは比べものにならない真っ白な明るさの雷光の塊がビャッコの目の前に爆誕し、何らかの形に変化を遂げていく。
その出来上がった形……。
四本足で佇む獣のシルエット。
イヌ科とは違う短めな鼻口部の形状。
頭部と思しき箇所からピョコンと飛び出た耳のような突起。
きゅるんと長い尻尾。まさか猫か……!?
違う。
絶対猫ではない。真っ白な輝きだけで模様とかの着彩はないけど俺にはわかる。
シルエットはそっくりだが恐らく虎だ。
耳っぽいところが何か丸いし。
いや、猫でも丸に近い耳の猫はいるけど、アレはなんか猫とは思えない……。
俺のセンサーがそう言ってる。
虎のような姿をかたどった稲妻は走って突進してくるようなモーションでこちらに放たれてきた。
これも本来は目にも映らぬスピードで迫っているのだろう。
だが、なんかのスキルで俺には普通に見えているので避けるのは簡単である。
しかし、俺の後ろにはスチルたちがいた。
回避したらそりゃあ……そうなるっしょ?
というか、避けたら神殿ぶっ壊れるだろうし。完勝狙いの苦労が無駄になる。
だからその選択肢はとれない。
当然、結界はみっちり隙間を作ることなく大量に展開している。
けど、根拠はないが、間違いなくこれでは防ぎきれない。
なら、剣で斬れるか? どうにもこの技に関してはそれも難しそうだ。
なんせ、魔王クラスが必死な顔で絞り出したヤツだもんね。
しゃあねえ……。
身体強化とか諸々のスキルを使って肉壁になってやりすごそう。
俺のスキルをいくつか組み合わせればそんな痛手にはならんだろう。
雷の魔法とかも帯びておけば相殺できるはず……。
できなかったらちょっと痺れるかもしれん。
身体の目の前にある最後の光の障壁がもうじき破られる。
俺が剣を構えつつ、この世界に来てから初になるかもしれないレベルの痛さを少し覚悟していると、
…………。
ほわっ? なにごと!?
虹色に輝く結界が新たに張られてビャッコの最終奥義的なものを完全に防いでいた。
俺は何もやっていない……。
何気なく振り返ると、
「はえっ? はええええ~?」
スチルが間抜けな声を上げながら、なんかゲーミングパソコンみたいにピカピカ虹色に光ってる月牙の剣を抱えてポカンとした様子でそこにいた。
【月牙の剣】
【フェンリスヴォルフの牙を素材に用いて作られた伝説の剣。選ばれし者が使うと隠された力が解放される】
【付加スキル:精霊王の加護LV4 ※※※LV3 ※※※LV5 ※※※LV2 ※※※LV5】
「スチルがやったのか……?」
ベルナデットが武器屋で持ったときとも、ウレアの街の決戦でフェリシテが持ったときとも違うスキルがそこに表示されていた。
「な、なんかヒョロイカを助けたいって思ったらできちゃった……まあ、変な声みたいなのにお願いしただけだけど……」
どうやら彼女も選ばれし者だったらしい。
「精霊の力……!? まさかあの勇者以下の聖女がそんな力を……! くそっバカな……」
見くびられているうちに俺を倒そうとしていたはずが、自分が見くびっていた聖女に最終奥義的なものを防がれるとは皮肉なものだ。
俺のレベル5の結界を何枚もくぐり抜けたと思ったら、精霊王とかいうすごそうなヤツの結界が新しくおかわり。
さしもの魔王の最終奥義も力尽きるというもの。
消失していく白光の虎。
それを見たビャッコが落胆で注意散漫になったところを突いて俺は光魔法の杭を放ち、彼を後方の壁に縫い付けた。
「ぐあああああああっ!」
叫び声を上げるビャッコ。
この杭、ヒザマ戦で使ってたけどスキルが多すぎて存在を半ば忘れてたぜ。
でも、普通に初っ端に使ってたら恐らく回避されてたと思う。
その程度にはビャッコは油断ならない存在だった。
しかし、精神の動揺で動きが鈍ればこのように形勢は一気に決まる。
「じゃあな、魔王ビャッコ」
俺は手の平をかざし、壁に固定されたビャッコに聖水を浴びせた。




