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今だから思うけど本当にギリギリだった、と彼女たちは思っている
ほぼ刺さる直前の一秒間
その一秒で、この目の前に背中を向ける一人を助けた
もう、フードの人間はいない。いるのは…
昔からの馴染みの、少し困った男だ
いえ、彼女らから見ればこれが普通
周りから見れば、何の変哲も無い
しかし、元の世界では本当におかしな、『元』魔道師だ
今は、なぜかパーカーを着ていた
「やあ、久しぶりだな二人とも」
彼はひとまず片手を上げながら言う
さっきの今でこれなので、いままでの鬱憤が爆発しそうだった
だから、逃がす気はない。しかし『元』とはいえ世界に一石を投じた魔道師、逃がさないようにするのには一苦労かも、と思っている
ひとまず、影で視認しにくい彼に聞く
「……怒ってる意味、わかってる?」
「ああ、何と無くな」
「……じゃあ、逃げないでよ?」
彼の十八番の《シャドウ・フェイク》、つまり『影による偽物』を見破り彼の手を、マオは右を、ユウカは左を、それぞれ拘束する。昔からよくそれで逃げられたものだけど、今のふたりに通じるはずがなかった
言ったでしょ?逃がす気はないって
「あんた、1日早く出発したでしょ」
「ああ、俺一人で調査するためにな」
彼のことだから、本音の本音は『本当は一人でのんびりしたかったから』だと思う。これがあの混沌に貶めようとした男のノーマルの姿
「で、付き添いはどうした。てか…」
彼は今更ながら、制服を見て言う
「なんで、俺の受けた学校の制服を着てんだ?」
彼女らは、笑ってしまった。彼は今も昔も鈍感なままだということを知って
「「あんた(あなた)と一緒の学校に入学するからよ」」
彼はさすがに驚きを隠しきれなかった。ではもう一声...
「それに、私はお金持ちよ?」
彼は首を振る
「いや、ないだろ」
俺は首を横にふる
「あたしもよ」
今度は頭を抱えてしまった
...もしかして、彼、すごく苦労していたの?
「……証拠は?」
「「はい」」
と、紙切れを突きつけられた
書いてあるのには、一と無数の0が––––
「はあああああああ!!」
彼は真っ青で大声を出した。そんなに珍しいものかな、とはさすがに思っていなかったものの、ここまで驚いてもらえるとは思っていなかった二人
「「これ、一部よ」」
「...え、じゃあ二人って今––––」
「『坂棚財閥』の坂棚の一人娘って設定よ」
「『幸畑製薬』の社長の一人娘と言う設定よ」
彼は空を見上げていた
「…まさか」
彼は一つの仮定、と言うより結論を出した
「マオ」
「何?」
「魔王城の遺産は?」
「王冠とかいらないからここで換金したよ」
「...ユウカ」
「はい?」
「薬草って、どのくらい持ってきた?」
「魔法の鞄で持ってきたから、1万は超えてるかな。それに、不定期だけど発送してもらってるし」
「マオ。お前『ルシファー』を始めとする、あらゆる幹部級の奴らに運ばせて、換金して、その金を膨れ上がらせることのできるとこを探して出資して、今の地位になったろ。あと、お前の保護者は『ルシファー』さんだろ」
「おお、大正解だよ〜」
拍手するマオ
そういえば、あれってルシファーが中心でがんばってくれていたな、とマオは思っていた
「…で、ユウカ。お前はセンサに探させ、カナコに判別してもらって、ギンキに持たせて、ここに来た時『何でもヒール』を生成、販売してたちまち大儲け、ガンなどの重い病気の治療薬にもと進め、被検体がうまくいったこともあってさらに売れて万々歳。ちなみに社長兼保護者はセンサと思ったが」
「ユウマ、探偵向いてるわ」
…センサ、頑張ってたなー、とユウカは思った
「で、ユウマ」
マオが切り出す。本題を言う前に逃げられないために
「あたしね、お金持ちになったしね?」
彼は汗をにじませていた
「私も、お金持ちなのよ?」
今度は固唾を呑む
「だから、ね」
「その、さ」
「「一緒に暮らさない?」」
彼は一呼吸おいて
「無理」
とキッパリ言った
「なんで?」
「どうして?」
彼は当然のように
「俺には帰る家があるんだ」
「うちに引っ越してきなよ!」
「いえ、私のとこなら裕福な生活が」
「俺は、苦労のある、刺激的な生活がいいんだ」
二人は呆然と立っていた。言ってる意味が分からない。苦労?もう十分したのに?
「なんていうかさ、金を体で稼いでいる人は、元からある金で上の地位にいる人より偉いと思う。それに、師匠が『働かざるもの、食うべからず』と言っていた。俺は、この生活を続けたいと思う」
「「………」」
「気持ちはありがたく受け取っとくよ。ありがとう。じゃあ、始業式の日にな」
そう言い残し、いつの間にか離れていた彼は走っていってしまった
「ま、待っ」「まだ話は」
しかしそのあとに出るべき言葉は、でなかった
忘れてはならないことが一つ、彼女たちは忘れていた
今日が、『あの日』だということを......




