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魔導師を好きし者  作者: ヨベ キラセス
二章 急転の三月
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 今だから思うけど本当にギリギリだった、と彼女たちは思っている


 ほぼ刺さる直前の一秒間

 その一秒で、この目の前に背中を向ける一人を助けた

 もう、フードの人間はいない。いるのは…


 昔からの馴染みの、少し困った男だ

 いえ、彼女らから見ればこれが普通

 周りから見れば、何の変哲も無い


 しかし、元の世界では本当におかしな、『元』魔道師だ

 今は、なぜかパーカーを着ていた


「やあ、久しぶりだな二人とも」

 彼はひとまず片手を上げながら言う

 さっきの今でこれなので、いままでの鬱憤が爆発しそうだった

 だから、逃がす気はない。しかし『元』とはいえ世界に一石を投じた魔道師、逃がさないようにするのには一苦労かも、と思っている

 ひとまず、影で視認しにくい彼に聞く

「……怒ってる意味、わかってる?」

「ああ、何と無くな」

「……じゃあ、逃げないでよ?」

 彼の十八番おはこの《シャドウ・フェイク》、つまり『影による偽物』を見破り彼の手を、マオは右を、ユウカは左を、それぞれ拘束する。昔からよくそれで逃げられたものだけど、今のふたりに通じるはずがなかった

 言ったでしょ?逃がす気はないって

「あんた、1日早く出発したでしょ」

「ああ、俺一人で調査するためにな」

 彼のことだから、本音の本音は『本当は一人でのんびりしたかったから』だと思う。これがあの混沌におとしめようとした男のノーマルの姿

「で、付き添いはどうした。てか…」

 彼は今更ながら、制服を見て言う

「なんで、俺の受けた学校の制服を着てんだ?」

 彼女らは、笑ってしまった。彼は今も昔も鈍感なままだということを知って

「「あんた(あなた)と一緒の学校に入学するからよ」」

 彼はさすがに驚きを隠しきれなかった。ではもう一声...


「それに、私はお金持ちよ?」


 彼は首を振る

「いや、ないだろ」

 俺は首を横にふる

「あたしもよ」

 今度は頭を抱えてしまった

 ...もしかして、彼、すごく苦労していたの?

「……証拠は?」

「「はい」」

 と、紙切れを突きつけられた

 書いてあるのには、一と無数の0が––––

「はあああああああ!!」

 彼は真っ青で大声を出した。そんなに珍しいものかな、とはさすがに思っていなかったものの、ここまで驚いてもらえるとは思っていなかった二人

「「これ、一部よ」」

「...え、じゃあ二人って今––––」


「『坂棚財閥』の坂棚の一人娘って設定よ」

「『幸畑製薬』の社長の一人娘と言う設定よ」

 彼は空を見上げていた


「…まさか」

 彼は一つの仮定、と言うより結論を出した

「マオ」

「何?」

「魔王城の遺産は?」

「王冠とかいらないからここで換金したよ」

「...ユウカ」

「はい?」

「薬草って、どのくらい持ってきた?」

「魔法の鞄で持ってきたから、1万は超えてるかな。それに、不定期だけど発送してもらってるし」


「マオ。お前『ルシファー』を始めとする、あらゆる幹部級の奴らに運ばせて、換金して、その金を膨れ上がらせることのできるとこを探して出資して、今の地位になったろ。あと、お前の保護者は『ルシファー』さんだろ」

「おお、大正解だよ〜」

 拍手するマオ

 そういえば、あれってルシファーが中心でがんばってくれていたな、とマオは思っていた

「…で、ユウカ。お前はセンサに探させ、カナコに判別してもらって、ギンキに持たせて、ここに来た時『何でもヒール』を生成、販売してたちまち大儲け、ガンなどの重い病気の治療薬にもと進め、被検体がうまくいったこともあってさらに売れて万々歳。ちなみに社長兼保護者はセンサと思ったが」

「ユウマ、探偵向いてるわ」

 …センサ、頑張ってたなー、とユウカは思った

「で、ユウマ」

 マオが切り出す。本題を言う前に逃げられないために

「あたしね、お金持ちになったしね?」

 彼は汗をにじませていた

「私も、お金持ちなのよ?」

 今度は固唾を呑む

「だから、ね」

「その、さ」


「「一緒に暮らさない?」」


 彼は一呼吸おいて

「無理」

 とキッパリ言った

「なんで?」

「どうして?」

 彼は当然のように

「俺には帰る家があるんだ」

「うちに引っ越してきなよ!」

「いえ、私のとこなら裕福な生活が」

「俺は、苦労のある、刺激的な生活がいいんだ」

 二人は呆然と立っていた。言ってる意味が分からない。苦労?もう十分したのに?

「なんていうかさ、金を体で稼いでいる人は、元からある金で上の地位にいる人より偉いと思う。それに、師匠が『働かざるもの、食うべからず』と言っていた。俺は、この生活を続けたいと思う」

「「………」」

「気持ちはありがたく受け取っとくよ。ありがとう。じゃあ、始業式の日にな」

 そう言い残し、いつの間にか離れていた彼は走っていってしまった

「ま、待っ」「まだ話は」

 しかしそのあとに出るべき言葉は、でなかった

 忘れてはならないことが一つ、彼女たちは忘れていた


 今日が、『あの日』だということを......

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