005. 〈半裸〉と〈パニック〉
今日宿泊するのは、小さな宿場町の、とある質素な宿。見た目の古さとは裏腹に、ここは部屋も綺麗でサービスも行き届いていると評判だ。
……え? なんでそれを知ってるのって? それはもちろん、私が事前に調べたから! こういう下調べも、勇者様をサポートする者としての重要な役割なんです!
「ふー……」
ベッドに腰掛け、大きく息をついた。
――これまでの二年間で、基礎的な肉体トレーニングも欠かさずやってきたし、体力もしっかり付いたと思ってたけど……さすがにちょっと疲れたなぁ。
……あとたぶん、憧れの人と一緒っていう緊張もあるんだろうけど……。
「足、大丈夫?」
「――わっ、すみません! 大丈夫です……!」
軽く足を揉んでいた私を見て、レオナさんが心配そうに声をかけてくれた。……うーん、気を使わせちゃったかな……。
「ゆ、勇者様こそ……っていうか、そんな鎧付けたまま歩いて、しんどくないんですか……?」
「うん。慣れてるから」
「ほえー……」
やっぱり鍛え方が違うんだろうなぁ。そんなことを考えながら、ローブを脱いで帽子を置く。その間、レオナさんはなぜか私のことをじっと見つめていた。……あんまり見つめられると、照れちゃうよぉ……!
「……あれ? 勇者様、鎧脱がないんです?」
あとはもう宿で休むだけ。なのにレオナさんは、まだ鎧姿のままでベッドに腰掛けていた。
「あー……」
ばつが悪そうに声を漏らし、彼女は目を逸らした。
「……その、いつもは、母様に脱がせてもらってて……」
「えっ……」
……なんだか嫌な予感がする……。
「も、もしかして……脱ぎ方、わかんない感じです……?」
「ん……」
私の問いかけに、彼女は恥ずかしそうに小さく頷いた。
「う、うそぉ……」
……薄々気付いてはいたけど……この人、実はすごくポンコ……いやいや! ただちょっと不器用なだけ! きっとそう!
「……だから、その……」
顔を伏せ、チラチラとこちらを伺うように見ながら、彼女は言う。
「――アイラちゃん、手伝って……?」
「はい喜んで!!!!!」
恥ずかしそうな微笑みと、上目遣い。その破壊力に、考える暇もなく叫んでいた。
「ありがと」
ほっとしたように微笑み、彼女は言った。おもむろに立ち上がり、私に背を向ける。
「じゃあ、お願い」
「はい!!! 失礼します!!!」
跳びかかるようにレオナさんの背後へ。鎧の脱がせ方なんて全く知らなかったが、『レオナさんからのお願い』という状況が私の脳をフル回転させた結果、どこをどうすればいいかが直感でわかるようになっていた。
「わっ、すごい。もう外れた」
外れ落ちた胸部の鎧を両手で抱えながら、レオナさんは驚いたように呟く。
「こちらも失礼します!!!」
「ん」
そのまま、手足の鎧も順に外していく。……ってかやばい……!! めっちゃいい匂いする……!! なんで……!? 汗とか、かかないんですか……!?
「やったこと、あるの?」
「ないです!!!」
「ないのにできるんだ、すごいね」
「はあっ!!! ありがとうございます!!!」
わー!!! 褒められたーー!!! うれしーーー!!!
「んっ、ふぅ……。ありがと、助かった」
「いえっ!!! とんでもないです!!!」
――ショート丈の黒いキャミソールに、膝上のミニスカートと黒いタイツ。重い鎧から解放された彼女は、気持ちよさそうに軽く伸びをして、またベッドに腰掛けた。
……いや胸デッッッカ!?!?! 鎧のせいで気付かなかったけどすごいの持ってる!!! どこに仕舞ってたのそんなの!!! そんでボディラインめっちゃ引き締まっててやばい!!!! 腹筋バッキバキなんですけど!!!!! スタイル良すぎ!!!!!! 足長すぎて五メートルくらいある!!!!!!!
「……どうかした?」
「はっ!?! すみません!!! なんでもないです!!!」
やばいガン見しすぎた!!! ってか興奮しすぎてる!! ちょっと落ち着かないと!
「すぅっ、ふうぅー……!」
レオナさんに背を向けて、立ったまま深呼吸……。あんまりテンション高いと、変なやつだと思われちゃう……。
「――んっ、しょっ」
背後から聞こえるレオナさんの声と、衣擦れの音。ベッドに寝転がったのかな、気になって振り返る。
「……え゛」
無意識に、喉から変な音が漏れた。なぜなら目に飛び込んできた光景が、あまりにも予想外だったから。
「ご飯、まだかな」
――そう呟いた彼女の隣、ベッドの上にキャミソールが、なぜか脱ぎ捨てられていた。
そして彼女の手には、おそらくほんの数秒前まで彼女の胸を守っていたであろう、可愛らしい『ブラジャー』が握られている。
……つまり、そういうことである。
「ほわあああああぁぁ!?!?!?」
「わっ……!? ど、どうしたの……?」
私の絶叫に驚いたのか、彼女は軽く体を跳ねさせた。それによって彼女の『胸』が、ぽよんと弾む。私よりも遥かに大きな、『おっぱい』が。
「どっ!??! どうしたもこうしたもないですよ!!!!! なんで脱いでるんですか!!!???」
私の慌てぶりをよそに、彼女はきょとんとした顔で私を見つめていた。
「わたし、部屋ではいつも裸だから……」
「ここはあなたの自室じゃありません!!! なんで『人前で』脱いでるんですかって聞いてるんです!!!!!」
「……?」
頭にハテナを浮かべたまま首を傾げる、そんな些細な動きですら、彼女の胸は柔らかそうにほよほよ揺れる。
「女どうしなのに……?」
「そっ……!! それでもです!!!!!」
そんな光景を前に、私はなんだか後ろめたさを感じて、つい大声を出してしまった。
……恥じらいってもんはないんですか!? とは思いつつ、会ってまだ数時間しか経ってない私に、そんな無防備な姿を晒せるほど気を許してくれてるのは、素直に嬉しかった。ただ問題は、私がこの人に対して恋愛感情を抱いていて……それどころか、その……『性的』に、見ちゃってること……。
「……蒸れるから、ヤなんだけど……」
彼女はなおも引き下がり、あろうことか上目遣いで私を見つめてきた。その破壊力は先ほど実証済みである。だがしかし……!
「〜〜〜っ……!! ダメッ!!! 我慢してください!!!!!」
……じゃないと私が我慢できなくなるので!!
「――お食事をお持ちしました〜」
そのとき、扉の向こうからノックの音とともに、女性の声が聞こえてきた。たぶんこの宿の女将さんだろう。
「わー!! ちょっと待ってください!!」
ドアの向こうに向かって声を張り上げる。そんな私の視界の端で、レオナさんはすごく不服そうに、こっちを睨み付けていた。
「とっ、とにかく服を着てくださあああい!!」
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