002. 〈過去〉と〈再会〉
「明日から団長は、お前に任せる」
夕食の席で、父様が言った。
「――えっ、ちょっ!? ま、待ってくださいよ! そんなっ、なんでいきなり……!?」
わたしの隣で、兄様がすごく驚いている。
「……魔王の支配が年々弱まりつつある、今この時こそが好機だ。伝承の通り、『勇者』を選定して彼の地へ送り込む」
「勇者……あの、お伽話のですか……?」
父様の隣で、母様が眉をひそめながら言った。
「ああ。しかし魔導院の見立てでは、単なる御伽話では片付けられないほどに、現状と重なる点が多いと……。つまりあれは、予言ではないかと、そう推察されている」
――勇者のお話、母様に聞かせてもらったことがある。魔王を倒して、世界を救ったすごい人。内容は……聞いたのが二十年くらい前だから、もう覚えてないけど。
「それと父さんが退くのに、なんの関係が……?」
「……レオナを、勇者にする」
「なっ……!?」
「…………わたし?」
わたしが勇者? なんで?
「……なぜ、この子なのですか……」
母様が、声を震わせながら問いかけた。
「お前も、よく知っているだろう。レオナには才能がある。……五年前、私が自分の実力に、最も自信を持っていた頃だ。こいつは稽古とはいえ私を……史上最強とまで謳われた男を、打ち負かしたのだ」
――その日のことは、よく覚えてる。すごく晴れた暑い日、騎士団に入る前の最後の稽古だと言って、父様が本気で戦ってくれることになった。憧れの父様が全力を出してくれたのが、すごく嬉しくて、夢中で剣を振った。
気付いたときには、父様はその場に倒れ込んでいた。
「……レオナの才は天賦の物だ。特に、剣に関しては頭抜けて覚えも早く、磨けば磨くほど鋭く重く、そして速くなっていく」
……わたしのこと、そんなふうに思ってくれてたんだ。なんだか、すごく嬉しいな……。
「とはいえ、完成にはまだ程遠い。二年後に予定されている『勇者選定戦』……それまでの間、私はこいつを育てることに、全力を注ぐことにした」
「……だから、俺に団長を任せると……」
「そうだ」
兄様はなぜか、少しだけ寂しそうな顔をしていた。けど、すぐに笑顔になって立ち上がった。
「――わかりました! そういうことであれば、俺が父様の跡をしっかりと継ぎ、立派な騎士団長として皆を導いてみせましょう!」
「うむ。お前も、我がサーイェンテ家に恥じぬ優秀な剣士だ。自らの力を信じ、胸を張って戦え」
「はっ!」
姿勢を正して、兄様は返事をした。
――ふと、母様のほうを見てみると、なぜか母様は顔を伏せて、泣いていた。
地獄のような二年が過ぎて、迎えた『勇者選定戦』当日。他の候補者たちは、はっきり言って鍛錬不足にもほどがあった。実力の半分も出さないうちに、気付けばわたしは、『勇者』になっていた。
「――そして其方を支えるため、魔導院より選ばれたのが、その者じゃ」
玉座に腰掛けた王様が、隅にいた女の子を指差した。
その子は一瞬、ビクッと体を跳ねさせたあと、ぎこちない歩き方でこっちにやってきた。
「まだ若いが、心配は無用じゃ。その者は学園を首席で卒業し、魔導院に所属してわずか一年で、序列一位まで登り詰めた稀代の天才。『勇者』である其方を支えるに相応しい実力を有しておること、儂が保証しよう」
黒いローブに、大きなとんがり帽子。身長と同じくらいの長さの杖を持ったその子は、真っ赤になってしまった顔を伏せて、上目遣いでわたしのことをチラチラと見ている。……なんだか、緊張してるみたい。
「そして――各地を巡り――民のため――旅は長く――」
……ん、この子なんだか、見覚えがある……?
「――しかし其方は――困難に打ち勝ち――信じておるぞ――」
帽子の下から飛び出た黄色い髪と、大きくて丸い、真っ赤な瞳……。どこかで見たような……。
「コホン! では改めて……。往け、『勇者』よ! 『魔王』を討つため! 世界に平和を取り戻すために!」
……あっ。王様の話、聞いてなかった。
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