016. 〈寂しさ〉と〈出会い〉
旅に出てから、今日でもう三ヶ月目。倒した支配者級は四体。アイラちゃんは嬉しそうに、「順調ですね」って言ってた。
「明日は雨らしいので、出発は明後日にしましょうか」
「ん」
この街、キャプテルに着いたのは、ついさっきのこと。宿に荷物だけ置いて、晩ご飯を食べに酒場に来た。
「――その帽子……お姉さんひょっとして、魔導院の人ですか……?」
ご飯が来るのを待っていると、別のテーブルにいた若い子たちが、アイラちゃんに声をかけてきた。
「あっ、えと……いちおう、そう……かな……?」
「やっぱりそうですよね!?」
「あの! 私たち、いつか魔導院に入りたいなって思ってて……!」
「お姉さん、専攻はなんですか?」
「え、えとっ、私は戦闘魔法専攻で……! あと、今はもう魔導院には所属してなくて……」
そう言って、アイラちゃんはふと、私のほうを見た。
「……こほん! 今はこの人、勇者様と、魔王討伐のために旅をしてるの!」
……アイラちゃんが、またわたしのことを紹介してる。たぶんまたちやほやされちゃうだろうから、勇者として相応しい返事をしなきゃ。
「ふ〜ん」
「へぇ〜」
……あれ、思ってた反応と違う……。
「それより、魔導通信についてどう思いますか!?」
「えっ、そんな専門的な話……?」
そしてすぐにアイラちゃんに向き直って、別の話が始まった。……まあ、変に持ち上げられるよりは楽でいいかな。
「あ、もしかして分野違いでした?」
「いやまあ、そうなんだけど……う~ん」
少し考え込んでから、アイラちゃんは口を開いた。
「……波動理論ってわかる? 魔力を空中で伝播させるために、あれこれ変質させてみようって話なんだけど」
「あ、わかります! たしか、一年くらい前に発表された……」
「そ。あれの基礎研究を手伝ってたんだけど……」
「「「え……えええぇぇ!?」」」
よくわからないけど、みんなが驚いている。……魔法の話、難しくて苦手……。
「すごぉ!? 超エリートじゃないですか!?」
「五十年ぶりの技術革新って言われてるやつ!! あれに関わってたんですか!?」
「そ、そんな大したことはしてないよ〜!」
……なんの話してるのか、全然わかんない。でも、アイラちゃんが楽しそうだから、いっか。
……つまんない。
「――ってか、浮遊魔法の動物実験に成功したってほんとなんですか!?」
「あ、もう発表したんだ。一旦理論まとめたいから黙ってて言ってたのに」
「え!? そっちにも関わってたんですか!?」
「すっご~!!」
――アイラちゃん、さっきからずっとあの子たちと魔法の話してる。ご飯も食べ終わったし、そろそろお風呂入りたいのに。
「詳しく聞かせてください!」
「わ、私たちが生きてる間に、実用化できそうですか……!?」
「え~? ん〜……。手伝ってただけの私が、あれこれ言うのもな〜……」
……でも、楽しそうだから邪魔したくないな……。
「お、教えてください!」
「お願いしまーす!」
「う〜ん……。じゃあ、他のところでは言わないって、約束できる?」
「も、もちろんです!」
「はい! 秘密にします!」
……あーあ、また盛り上がりはじめちゃった。しょうがない、どこかで時間潰してこよう。
「アイラちゃん、ちょっとおトイレ行ってくるね」
「あ、はーい! んじゃ、まず軸となる研究があって……」
……わたしのほう、一瞬しか向いてくれなかった。なんだかもやもやする……。風、当たりに行こう。
酒場の外に出て、店先の手すりに体を預ける。夜風が涼しくて気持ちいい。
「――はぁ……」
……もやもや、消えないなぁ……。
「お姉さん、ひとり?」
女の人の声。振り向くと、綺麗な人が立っていた。
「あたし、友達とお酒飲みに来たんだけど〜、友達が他のお客さんとすごい盛り上がっちゃって、仲間外れにされちゃったんだ〜」
「ん……わたしも……」
「ほんと!? ぐうぜ〜ん!」
――薄緑色の髪の、大人っぽい雰囲気の人。楽しそうに笑いながら、こっちに一歩近付いた。ふわっと、甘くてとてもいい匂いがした。
「あっちはあっちで楽しそうだし、邪魔したくはないんだよね〜。でもやっぱ、寂しいな〜って」
「ん……」
……そっか。わたし、寂しくてもやもやしてたんだ。
「あたし、『クリスタ』って言うんだ〜。お姉さんは、なんて名前なの?」
「ん、わたしは、レオナ」
「レオナ! いい名前〜! じゃ、なーちゃんって呼ぶね!」
「な、なーちゃん……?」
……いま会ったばっかりなのに、もうあだ名……? この人、すごく馴れ馴れしい……けど、不思議と嫌じゃない、かも……?
「ねね、せっかくだし、一緒に飲まない? 実はあたし、あっちでお店やってるの。静かでいいとこだよ? 時間潰すのにもピッタリ!」
「飲む…………お酒?」
「そ! あたしの奢りでいいからさ、ね?」
……アイラちゃんのお話がいつ終わるかもわかんないし、このまま一人でいたって寂しいだけ。それに、この前アイラちゃんと飲んだワインおいしかったし、他にもわたしが飲めそうなの、あるかも。
「……ん、行く」
「やった! じゃ行こ! こっちこっち〜!」
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