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宇恵井戦3 結女は斜めに持ち上げる。

宇恵井戦、最終局面!

マップ兵器登場

 両陣営の間に、一瞬の膠着が生まれる。

 まるで仕切り直しだとばかりに、双方がじりじりと後方へ退いた。ひり付いた空気は試合がまだ終わっていないことを語っている。


「はぁ、はぁ……遥っ! ありがと、助かったよ!」


 瑠衣の絶技による股間無双も、会場を()かせた遥の大立ち回りも、郁佳が本陣を崩さず支えていたからこそ成立したものだった。

 目立たないが一番重要なポジションにいたのは間違いなく郁佳だった。流石に疲労困憊といった様子だ。

 

 その影の功労者、郁佳の声を受けて、遥もまた軽く息を弾ませながら、にっと笑った。さすがに激しく動き続けたぶん呼吸は荒れていたが、目の光はまだまったく(おとろ)えていない。


「どういたしまして! 予定通りね」


「ははは、僕もまさか初戦でいきなり守備部隊の指揮を任されると思ってなかったからね。どう? 良い仕事、できてた?」


 遥が太陽みたいな明るい笑顔で、瑠衣が無表情のまま口の片方だけを僅かにあげて、同時に親指を立てる。


 乱れた前線のすぐ後ろ。ようやく一息つけるだけの距離を作った瀬戸際高校の面々を、結女がいつものふわりとした笑顔で見渡した。


「みんなお疲れ様―。さて、ここからが本番なんだけどー、体力はまだ残ってるー?」


 総大将であるはずの少女は、戦場のど真ん中にいるとは思えないほど柔らかい口調でそう言った。だがその目だけは、しっかりと盤面を読んでいる。


 遥が即答する。


「私はまだまだ大丈夫よ!」


 瑠衣も平坦な声で続いた。


「私もまだだいじょうぶ」


 重音は大鉈を握り直し、騎士然とした顔で頷く。


「うむ、問題ない。我が身も心もまだ息絶えておらぬ」


 まだ魔王モードだ。

 対して郁佳は、苦笑しながら肩を落とした。


「僕は結構……ギリギリかなぁ」


 それを聞いた結女は、ふむ、と小さく首を傾げた。何かを計算するような間が、ほんの一瞬だけ落ちる。


「ん~……じゃあー、ちょっと試してみたいことがあるんだけど、やってみてもいいかしらー?」


 遥が目をぱちくりさせる。


「へ? 試してみたいこと?」


「そう!」


 結女はにこっと笑った。

 遥が向日葵(ひまわり)なら、結女の笑顔は薄桃色の麝香連理草(スイートピー)だろう。フリルの様な可愛らしくも美しい花。

 ……ただしその種には毒がある。


「やってみて損はないと思うのー。上手くいかなくても体力回復の時間稼ぎにはなるしー、うまくいけば宇恵井高校のチームを全部うちに取り込めるかもしれないわー」


 重音の眉がぴくりと動く。


「お主、一体何をする気であるか?」


 結女はそれには答えず、ただ楽しげに笑った。


「ふふふー」


 その笑みを見て、遥はちょっとだけ嫌な予感がした。結女がこういう笑い方をするときは、大抵ろくでもない策が飛び出す。


 そして案の定――ろくでもないことを始めた。


 結女は数歩前に出ると、戦場の真ん中に向かって、やけにのんびりした声を張った。


「ねえー? 宇恵井高校のみなさ~ん? このまま降参しませんかー?? そのほうが良いと思いますよー??」


 その言葉に、宇恵井高校側の前線がざわつく。田中よしおが槍を構えたまま、呆れたように叫んだ。


「ウエーイ? 貴様何を言っている?? 降伏の勧告だと? もう勝ったつもりか??」


 結女はまるで田中の敵意など意に介さない。むしろ、ここからが本題だと言わんばかりに、笑みを深くする。


「そうじゃなくてぇ――」


 にっこり。首を横に可愛く(かし)げた。


 ……。


「あなた達、降参して瀬戸際高校に編入になったらぁ、来年から男女共学になるわよぉ~~??」


 盤面破壊である。特大の。マップ兵器……


 全ての当事者、全ての観客の共通認識、


 ——……は?


 戦場に、奇妙な静寂(せいじゃく)が落ちた。


 誰もが一瞬、意味を理解しきれず止まる。風が吹き、遠くで歓声が揺れ、実況席のざわめきすら一拍遅れた。


 次いで。


 からん。


 からん、からん、かららん――。


 宇恵井高校の選手たちの手から、一斉に武器が(こぼ)れ落ちた。


 それは、あまりにも見事な同時多発だった。


「「その手があったか―――!!」」


 国立競技場に、男子高校生たちの魂の叫びがこだました。


 ——後の腹黒ふわふわ姫、爆誕。


 遥はぽかんと口を開けた。郁佳も目を丸くしている。瑠衣だけが無表情のまま「なるほど」とでも言いたげに瞬きをした。


 そして審判は、プロであった。


 迷いなく笛を吹いた。


 ピーッ――!


「宇恵井高校、戦意喪失により試合終了!! 勝者! 瀬戸際高校!!!」


 一瞬遅れて、瀬戸際高校サイドから歓声が爆発する。


「「っわー―――――!!!」」


 勝鬨(かちどき)は上がる。武器は(かか)げられる。だが、勝った当人たちの顔はなんとも言えず微妙だった。


 遥が引きつった笑顔のまま、手を上げる。


「えっと……初戦、大勝利――――!!!」


 郁佳が戸惑いを隠せずに言う。


「えぇ~……い、いいのかな?? こんな勝ち方で??」


 瑠衣は真顔で現実だけを述べた。


「もやっとするのは事実、でも勝ちは勝ち……」


 そして、しばらく背中を見せていた結女が——


 ふわりと仲間へ向き直る。

 ふわりと髪が舞い落ちる。

 そしてふわりと微笑んだ。


「そうよー。勝ちは勝ちよ~」

 笑顔もふわりである。


 ただし、ふわりと投げた爆弾の効果は——

 もはやマップ兵器だった。


 重音は大鉈を肩に担いだまま、遠い目をした。


「体力を温存できた、と思ったら……良いのか……これ?」


 誰も即答できなかった。


 ただ一つ確かなのは――瀬戸際高校が、初戦を制したという事実だけだった。


 ◇


 実況席でも、空気はなんとも言えないものになっていた。


「「っえ~~……」」


 木戸と羽月の声が、完璧に揃った。


 木戸はしばらく言葉を探すように口を開き閉じし、それからようやく苦笑混じりにまとめた。


「……最後は宇恵井高校の戦意喪失により瀬戸際高校の勝利で終わりました。ただ、なんていうか、その……微妙な終わり方……」


 羽月も困ったように(ほほ)()く。


「ま、まあ、健全な男子高校生としては当然? な結果かも知れないですね……。まだ騎馬戦ゲームも一戦目ですから、次回以降に期待するとしましょう。以上、中継でした!」


 実況として限界まで頑張った言い回しだった。


 ◇


 その頃、宇恵井高校の校長室では。


 宇恵井校長が机に突っ伏しそうな勢いで頭を抱えていた。


「……そ、そんな。我が校が男子校だったばかりに! 全試合でこんなことをされたら、来年から私は無職。どうやって元妻に慰謝料を払えば良いのだ……」


 もはや試合の敗北以上に、学校経営と人生設計の破綻が差し迫っている声だった。


 そこへ、無情にも電話が鳴る。


 嫌な予感しかしない着信音に顔を歪めながら、宇恵井校長は受話器を取った。


「っく、わたしだ。瀬戸際校長……何のご用ですか?」


 受話器の向こうから聞こえてきた瀬戸際校長の声は、妙に穏やかだった。穏やかだからこそ、余計に怖い。


「宇恵井校長、裏切りの代償は高く付きましたな。波理日の校長は、我が校と隣接する校区を潔岳に渡した詫びだと、二校区を無償贈呈(むしょうぞうてい)してくださるようです。なので向こうとは手打ちにしました」


 そこまではまだいい。


 だが、本題はその先だった。


「ですが貴校の騎士部の場合は、普通に宣戦布告すれば全ての試合を棄権されるでしょう。どの様に落とし前を付けて頂けますかね。よく考えての返答をお待ちしておりますよ、ではまた」


 ぷつり、と通話が切れた。


 あまりにも一方的だった。


 しばしの沈黙のあと、宇恵井校長の顔が真っ赤に染まる。


「ちくしょう!!」


 次の瞬間、受話器が勢いよく床に叩きつけられた。


 ガシャンッ!!


 校長室に虚しく響くその音は、宇恵井高校のあまりにも締まらない敗北を象徴しているようだった。


 ——翌週、宇恵井校長は辞職する。本来ならば校区がゼロになった翌年からの統廃合のルールだったのだが、前倒しで同校は瀬戸際高校に統合された。

 瀬戸際校長の慈悲により、同校の社会科教師として宇恵井校長は再雇用されることになるのは、少し先の話であり、余談である。

まだまだ続きます(=゜ω゜)ノ


フォローと応援、コメントも待っています(=゜ω゜)ノ

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