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騎馬戦記⭐︎ガールズナイツ  作者: mutsu!


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【外伝】陰陽師、山ノ井瑠衣 弐拾八話 〜四連打〜

『また首が取れたではないかぁぁぁぁぁっ!?』


 鬼穴に、軍神の悲痛な叫びが響き渡った。


 淡い光が消える。


「……あれ?」


 遥は恐る恐る肩を回した。


 先ほどまで全身を襲っていた痛みが、ほとんど消えている。


 脇腹を押さえてみても、ひび割れるような痛みはない。


「治ってる……」


 瑠衣もゆっくりと立ち上がった。


 傷のあった脇腹を軽く押さえる。


「うん。傷だけなら、ちゃんと移せた」


「ほんとだ!」


 遥はその場で軽く跳ねてみる。


 だが。


「……あ」


 着地した瞬間、膝がふらついた。


「身体、重っ……」


「疲労は残ってるから」


「そっちは移らないのね」


『当然であろう! これ以上なにを拙者へ押しつけるつもりだ!?』


 床では、首の取れたみょんみょん丸が、綿を撒き散らしながら抗議している。


「帰ったら縫ってあげるわよ」


『……念のために聞くが、おぬし、縫い物はできるのか?』


「? ……たぶん」


「たぶん!?」


「授業で雑巾を縫ったんだけど、どうしてか輪っかになるのよね」


「輪っか!?」


「細かいことは気にしないでいいでしょ」


「気にするわ!!」


 そんなやりとりの横で、瑠衣が小さく息を吐いた。


「……そろそろ帰りたい」


「そうね。私も。さすがに疲れたもん」


「巫女パワーが、もう切れそう」


「ぶっ! なにその巫女パワーって!」


 遥が即座に突っ込む。


「瑠衣、あんた巫女じゃなくて陰陽師でしょ!? せっかく雰囲気出してたのに、語感だけで全部台無しじゃない!」


「霊力とか、巫力とかはありきたり。陰陽師パワーだと、語感が弱い」


「語感なんだ!?」


『今代の山ノ井は、めちゃくちゃであるな……』


「みょんみょん丸は黙る」


『首を落とされたうえ、発言権まで奪われた!?』


「あとで、みょんみょん丸と山ノ井家の関係は詳しく聞く」


 瑠衣は床に転がるみょんみょん丸の胴体を拾い上げる。


 遥は少し離れた場所に落ちていた首を拾った。


『なぜ頭と身体を別々に持つ!?』


「荷物を分担した」


「共同名義だから」


『共同名義とは、そういう意味ではない!!』


 みょんみょん丸は一つため息を吐き、鬼穴の奥へ目を向けた。


 暗闇の向こうから、低い音が響いている。


 どくん。


 どくん。


 まるで巨大な心臓が脈打っているような音。


『……まだ終わっておらぬぞ』


 みょんみょん丸の声が、わずかに低くなった。


「なにが?」


『鬼穴核である』


「……」


「……」


『なぜ二人して露骨に嫌そうな顔をする!?』


「もう帰りたい」


「巫女パワーも切れそうだし」


「巫女パワー……」


 二人は互いに支え合いながら、鬼穴の最深部へ向かった。


 やがて。


 暗闇の奥に、赤黒い光が浮かび上がる。


 そこにあったのは、巨大な勾玉だった。


 人の背丈ほどもあるそれは宙に浮き、無数の血管のようなものに覆われている。


 どくん。


 どくん。


 鼓動に合わせて、勾玉の表面が脈打つ。


「これが鬼穴核?」


「そう。でも、ここまで大きい鬼穴核は初めて見る」


 瑠衣が静かに頷く。


『軽々しく触れるでないぞ』


 みょんみょん丸の声から、先ほどまでの軽さが消えた。


『あれは、単なる核ではない』


 勾玉の表面に亀裂が走る。


 その隙間から白い光が漏れ出した。


 空気が変わる。


 田村麻呂と対峙した時とも違う。


 古い。


 ただひたすらに古く、巨大な気配。


『田村麻呂』


 声が響いた。


 男とも女ともつかない、幾重にも重なった声。


『先遣として遣わしたそなたが、人に降るとは……流石に余も驚きを隠せぬ』


『……申し開きの言葉もござらぬ』


 先ほどまで首だけで騒いでいたみょんみょん丸が、初めて神妙に頭を垂れた。


 遥が首を傾げる。


「知り合い?」


『我が名は――』


「長くなる?」


『……何?』


 遥はピコハンを構えた。


『待て、牛島殿! その御方は――』


 ぴこん。


 鬼穴核が、小さく揺れた。


『貴様、何を――』


 ぴこん。


 表面の亀裂が広がる。


『我は日本武尊(やまとたけるのみこと)――』


 ぴこん。


『名乗っている途中であるぞ!!』


「あと一回」


『待てぇぇぇぇぇっ!!』


 ぴこん。


 ぱきん。


 鬼穴核が、真っ二つに割れた。


 内部から眩い白光が噴き出し、巨大な気配が急速に遠ざかっていく。


『覚えておれ、人の子よ! いずれ必ず――』


「あ、うん。ごめん、間に合ってる」


 声が途切れた。


 静寂。


 遥はピコハンを肩へ担ぐ。


「終わった」


 瑠衣が満足げに頷く。


「四連打。有意」


『日本武尊を締め出しおった……』


「倒してないわよ?」


『るんるんで出かけ先に到着し、玄関の引き戸を開けた瞬間、内側から叩き出されたようなものだぞ!?』


「だって、めんどいし」


「うん。めんどい。巫女パワーも、もうない」


『……』


 顔らしい顔もないみょんみょん丸が、過去一微妙な顔をした瞬間であった。

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