↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎馬戦記⭐︎ガールズナイツ  作者: mutsu!


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
76/104

【外伝】陰陽師、山ノ井瑠衣 拾八話 〜山ノ井の血を継ぐ者〜

 この怪異は山ノ井を知っている。


 これが意味するところはおそらく……


 瑠衣本人ではなく、山ノ井家と何か因縁のある相手ということなのだろう。


 普段の騎士部、騎馬戦(ナイツゲーム)において、結女が戦局の先をあまりに読み過ぎるため、ともすれば猪突猛進型の馬鹿だと思われがちな遥だが、馬鹿ではない。それくらいの推測は当然できる。


 武器を失い心許ない状態ではあるが、その闘志はいささかも衰えていなかった。


「あんた何者? 瑠衣は知らないって言ってるけど?」


 遥の声は震えていなかった。


 武器を失っても、退く選択肢はないとでも言うように、拳を軽く握って一歩前へ出る。力みすらない。


 穴の中の目が、


 一斉に、遥へと戻った。


『ほう』


 声が笑う。


『代替わりの度に、山ノ井は面白い連れを拾ってくる』


「質問に答えなさいよ!」


『答える義理はない』


「じゃあ聞き方変える。あんた、いったい瑠衣の何なのよ」


 一瞬。


 穴の奥の目玉たちが、渦を巻くのを止めた。

 興味深そうにこちらを見やる。


『なんだ、貴様、今代山ノ井のオトコか?』


「……は?」


 一瞬のフリーズ。意味を咀嚼し真っ赤になって遥は怒鳴る。


「……ちがうわアホー! この可愛い可愛い私のどこを見て男に見えんのよ! 瑠衣! あんたも照れてる場合じゃない!」


 微妙に嬉しそうな瑠衣が無表情を引き締め直す。怪異は瑠衣の方を一瞥し、遥にその視線を戻した。


『……嘘はよくないな。人間の女であればもう少し胸のあたりにボリュームがあるように記憶しておる』


「なんですって!?」


 ブチギレる遥を無視して、怪異はもう一度瑠衣の方を見た。


『……そう睨むな、小娘』


「睨んでない。ただの真顔」


『山ノ井の血は、いつもそうやって物怖じせん』


 声が、僅かに掠れる。


『――だからこそ、都合が良い』


「都合が良いって?」


 答えは返らなかった。


 代わりに、軍服の怪異の輪郭がぐにゃりと歪んだ。


 肩章が溶ける。


 軍帽が崩れる。


 その下から現れたのは——


 顔の無い、人の形をした黒い塊。


 無数の顔が、その体表に押し込められている。


「……っ、瑠衣!」


「あれは、おそらく複合体」


 瑠衣の声は低い。

 いつもの淡々とした声ではあったが、その奥に、初めて聞く硬さがあった。


「さっきから見てたら分かるわよ、あの気持ち悪い数の顔。たぶん、数えきれない怨念の塊かなんかなんでしょ!?」


『くく……勘がいいな。あたらずとも遠からずというところだ』


 塊の中心が、ゆっくりと裂ける。


 まるで口のように。


 いや、


 本当に口だった。


『山ノ井の血を継ぐ者よ』


 塊が、瑠衣だけを見据える。


『我が名を、思い出せ』


 瑠衣の眉が動いた。


 思い出す、も何も。


 知らないはずの名前。


 なのに――


 頭の奥、まだ言葉にならない何かが、


 小さく疼いた。


「……っ」


 こめかみを押さえる瑠衣。

 膝をついた隙を狙って怪異の腕が伸びた。


「瑠衣!!」


 間一髪で遥が瑠衣を抱えて横っ飛びに回避する。


「っく、はるちゃんありがとう。大丈夫」


 答えながらも、額には薄く汗が滲んでいた。


 札子のフリップが、慌てたように上がる。


『瑠衣様、ご無理は』


「分かってる」


 言い切って、瑠衣は圧縮刀印を流れるように組んだ。


「——鎮」


 短く唱える。


 こめかみの疼きが、僅かに引く。


「今のは無視していい。はるちゃんは自分の身だけ考えて」


「無視できるわけないでしょ! あんた今、頭抱えたじゃない!」


「平気」


「平気そうに見えない!」


 言い合う二人を、塊はただ、面白そうに眺めていた。


『問答は好かん。だが……』


 塊の口が、三日月のように裂ける。


『山ノ井の血がどこまで耐えるか、見てみたくもある』


 その言葉と共に、


 塊から、無数の腕が一斉に伸びた。


 だが——


「ちょっと待って」


 瑠衣が制止する。軽い感じで片手を上げた。


「は?」

「え?」


 前者は怪異、後者は遥である。


「あなたは今の私より、かなり霊格が上。格上の怪異なら少しくらい待てるはず」


「え? あ、はい……」


 理不尽だった。とても理不尽な制止だった。理不尽すぎて怪異も止まる。遥も止まる。


「はるちゃん、これ」


「あ、はい」

 目が点のままの遥がうけとったそれ、


「山ノ井家に代々伝わる退魔のオープンフィンガーグローブ。刃物タイプの武器もあるけど、慣れていないと人型相手に斬り付けるのは躊躇するから、これ使って」


「あ、はい……」

 山ノ井家に代々伝わる、とか絶対嘘だった。でも遥はそのツッコミは飲み込んだ。今突っ込んだら多分負けだ。何に負けたのかはわからないが、そんな気がした。

 いそいそと両手にグローブを嵌める。両手の拳を軽く打ちつけて感触を確かめた。問題なし。


「……もう、いいか?」

 律儀に尋ねる怪異さん。


「いい」


 半瞬、


 一時停止にしていた動画に再生ボタンが押された。


「来る!」


 瑠衣の警告と、遥が地を蹴るのは、ほぼ同時だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。