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騎馬戦記⭐︎ガールズナイツ  作者: mutsu!


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【外伝】陰陽師、山ノ井瑠衣 拾六話 〜遥のひとこと〜

 二人(三人?)は鬼穴の奥へ歩き出した。

 周囲の風景は変わらず古い館の内装ではある。ただ、一定の距離より向こう側は灯で照らしても見えない。

 ぽっかりと穴が空いたように暗闇が広がっていた。


 かつ。


 かつ。


 かつ。


 靴音だけが、やけに大きく響く。


「……静かね」


 遥がぽつりと呟いた。


 さっきまで感じていた湿った空気が、少しずつ変わっていく。


 冷たい。


 というより、空気そのものが重い。


 瑠衣が歩みを止めた。


「止まって」


「え?」


 遥も足を止める。


 その瞬間。


 かつ。


 ……。


 また足音が聞こえた。


 遥は首を傾げる。


「今、誰か歩かなかった?」


「歩いてない」


「え?」


 もう一度。


 かつ。


 ……かつ。


 今度は後ろから聞こえた。


 遥が勢いよく振り返る。


「誰!?」


 誰もいない。


 ただ、真っ直ぐ続く廊下だけだった。


 札子が静かにフリップを掲げる。


『歓迎されていますね』


「歓迎されたくないんだけど」


『大丈夫です』


「ほんと?」


 次の札。


『たぶん』


「たぶん!?」


『まだ食べられていませんから』


「基準がおかしい!」


 札子は続ける。


『鬼穴は獲物が近付くと喜びます』


「穴なのに!?」


「鬼穴は生きてるから」


 瑠衣が短く答えた。刹那、目を軽く細め、すぐに訂正する。


「……違う。生きてはいない。鬼穴は幽界と現世を繋ぐ喉そのもの」


「どういうこと?」


「鬼穴は、この世とあの世を繋ぐ回廊。その中は足を持った目であり(あぎと)


「つまり……」


 遥は周囲を見回した。


「今、館そのものに見られてるってこと?」


「うん」


「この恥ずかしい格好を?」


「そう」


 どよーんとする遥。


「……帰りたい」


「ごめん。無理」


「謝らなくていいわよ! 知ってる。私は私の意思で付いてきたんだから!」


 ため息を吐き、ピコピコハンマーを肩へ担ぐ。


「どうせ帰れって言われても帰らないし」


「うん」


「ただし、次からもう少しまともな服を用意してよね」


「……わかった」


 珍しく、少し驚いたような顔を見せた瑠衣が、微笑んだように見えた。


 ——また、一緒に来てくれるんだ。


 瑠衣は胸の奥を温かく抱かれた気がした。


「そうする。だからここは……」


 遥に向けていた視線を、前方の闇へと移した。


「さっさと終わらせよう」


 その時だった。


 通路の先。


 何かが、


 いた。


「お出まし」


 人影。


 いや。


 人型に見えるナニカ……。


 旧日本軍の軍服。


 肩章。


 軍帽。


 そして、


 顔だけが、


 なかった。


「……え」


 首から上が、


 真っ黒な穴になっている。


 まるで……この通路を縮めて、そのまま顔の中へ押し込んだように見えた。


 そして、その穴の中で、


 いくつもの、瞳孔の開ききった目が、


 ゆっくり渦巻いていた。


「…………っ!」


 遥の全身に鳥肌が立つ。


 そしてその全てが——


 遥だけを見ていた。


 札子が震える手でフリップを掲げる。


『先遣』


『来ました』


 瑠衣は静かに札へ手を伸ばす。


 指先に一枚の退魔札を挟んだ。


「……はるちゃん」


「な、なに?」


「たぶん」


 一拍。


「ここから本番」


 人影が。


 にたり、と笑った。


 顔は無い。


 なのに、


 確かに笑ったのだ。

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