【外伝】陰陽師、山ノ井瑠衣 拾伍話 〜ばっちぐーはやめようか!?〜
すみません。
昨日は急用があり、アップロードできませんでした。
楽しみにしてくださっていた方、ごめんなさい( ; ; )
『ちなみに苗字は花鳥院です』
「……」
「……」
「……花鳥院?」
『はい』
「そんな由緒正しそうな苗字だったの!?」
『花鳥院家は貴族怪異の中でも代々、術式・禁言の間を継承してきた家系です』
「急に設定が重くなった! 貴族怪異ってなに!?」
『ただ、私の代で負けました』
札子は「どや?」とでも言いそうなほどに、胸を張って次のフリップを掲げる。
『禁言の間・歴代最短敗北記録です』
「自慢げに言うところじゃない!」
『無言祓舞用への対策は、歴代の記録にもありませんでしたので』
「それはそうだった!」
遥は無理矢理納得させられた。
でもきっと、誰も思いつかない。
ご先祖様は悪くない。
札子は少し照れるようにさらにフリップする。
『だから、不可抗力ですね♡』
「開き直っちゃった!」
『あと、あの顔芸は無理です』
「やっぱりものすごく気になる! ねぇ、瑠衣——」
遥の台詞が途切れた。振り返った時には瑠衣はすでに着替え終わっていたのだ。
黒を基調とした陰陽師装束。
袖や裾には白い紋様が走り、腰には札入れと短刀。赤い組紐だけが、薄暗い通路の中で鮮やかに浮かんでいる。
凛々しく、端的に言ってすごいかっこいい。
遥は軽く見惚れてしまった。
さっきまでゴ◯ラだったとは思えない。
少し頬を染めた瑠衣がぼそりと言った。
「お着替え完了」
「早っ!?」
『一・一秒でしたね』
「札子ちゃん、計ってたの!?」
『記録は大切です』
「何の為の記録なのか教えてもらっていい?」
瑠衣は袖を整え、鬼穴の奥へ視線を向けた。
「行こう」
「あ、花鳥院家の話、そこでもう終わりなんだ」
「時間が惜しい」
瑠衣の声が少しだけ低くなる。
「この先は、遊びじゃない」
その一言で、遥も表情を引き締めた。
「……うん」
遥は自分の身体を見下ろす。
「……うん?」
スライムに溶かされたゴ◯ラの残骸は、右肩も腹部も大きく裂け、尻尾も途中から消えていた。
もはや怪獣というより事故現場である。
「……私はどうするの?」
「脱いだ方がいい」
「そうよね」
遥は諦めたようにゴ◯ラの頭を外し、腕を抜き、残骸を床へ脱ぎ捨てた。
べちゃり。
現れたのは、黒っぽいスクール水着姿の遥だった。
断崖絶壁の胸元には白い名札。
『山ノ井瑠香』
遥は無言でその文字を見下ろす。
もう一度瑠衣の凛々しい陰陽師姿を見る。右手に握ったピコハンの重みを感じながら、顔に縦線が入る。
そして、ゆっくりと顔を上げた。
「……瑠衣」
「? なに?」
「この格好で最深部まで行くの?」
「うん」
「友達のお母さんの名前入りスクール水着で?」
「うん」
「うんじゃない!」
『とても似合っています』
「札子ちゃん、褒めないで! 今は褒められるほどつらいの!」
「巫女装束が汚れてしまったから仕方ない。それに、はるちゃんは何を着ても可愛い」
「瑠衣も追い打ちしないで!」
「せめて、何か羽織るものないの?」
「ある」
「あるの!?」
瑠衣は袖へ手を入れた。
遥の顔に希望が浮かぶ。
次の瞬間、取り出されたのは透明なレインコートだった。
「透明じゃん!」
「濡れない」
「今ほしいのは防水じゃなくて遮蔽!」
『視認性は、ばっちぐーです』
「札子ちゃんは黙っていようか! あとミイラ語もやめようか!」
瑠衣は透明なレインコートをしまった。
「あとはゴ◯ラ」
「選択肢が雑!」
遥は深く息を吐いた。
もういい。
ここまで来た。
河童に尻子玉を狙われ。
アカナメに舐められかけ。
禁言の間でツッコミを封じられ。
ゴ◯ラになり。
スライムに脱がされた。
今さらスクール水着くらいで止まってはいられない。
「……わかった。行く」
「うん」
「でも絶対、写真は撮らないでよ」
瑠衣が目を逸らした。
「瑠衣?」
「もう撮らない」
「もう!?」
『すでに三枚保存されています』
「瑠衣!? 札子ちゃあああん!?」
『バックアップも完了しています』
「完了しなくていい!」
遥はスマートフォンを振った。
画面の中で札子が上下に揺れる。
『酔う。吐く。遥さんのスマホの中で吐いちゃう』
「う、うわぁああっ! それはダメ!!」
スマホに宿った怪異がスマホの中で吐いたらどうなるんだろう?
瑠衣はちょっと気になったが、思考を切り替え、黒い陰陽師装束の袖を整えた。
その横に、友達の母親の名前入りスクール水着を着た遥が並ぶ。
黒衣の陰陽師。
名前入りスクール水着。
退魔の札。
ピコピコハンマー。
どう考えても、最終決戦へ向かう二人には見えなかった。
札子がフリップを掲げる。
『核まで、あと十分ほどです』
「意外と近いのね」
札子が次の札を出した。
『ただし』
一拍。
『鬼穴の主は、ベロリンチョスさんより、ずっと話が通じません』
「ベロリンチョス基準なんだ……」
軽く呟いた遥だったが、札子は次のフリップを出さなかった。
鬼穴の主。
この空間を生み出した元凶。
その名を出した途端、札子の動きから、さっきまでの軽さが消えていた。
瑠衣もまた、通路の奥をまっすぐに見据えている。
遥はピコピコハンマーを握り直した。
「……早く壊して、もう帰ろう」
「うん」
『承知しました』
三人は、鬼穴の核へ向かって歩き出した。
黒衣の陰陽師と。
友達のお母さんの名前入りスクール水着の少女と。
スマートフォンに住み着いた、フリップ芸の怪異。
絵面だけなら、とっくに負けていた。
だが、本人たちはまだ負けていなかった。
いや、そもそも負ける気など一切なかった。
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