【外伝】陰陽師、山ノ井瑠衣 六話 〜遥と鬼穴と河童と危機一髪〜
なんとか隙間時間で書き上げれました。
もしかしたら後で修正するかも(゜ω゜)
「ここから先は鬼穴」
「キケツ?」
「そう。鬼の穴。簡単に言うと、幽界と現世を繋ぐ亜空間。さっきの視線縛りなんか序の口。ずっと危険」
そこで遥が言う。
「まさか、ダンジョン?」
ちょっとワクワクしちゃうのは仕方ない。だが、
「……違う」
「……そうなんだ。レベルアップとかある?」
諦めない。
「そんな都合のいいものはない」
「ドロップアイテムは?」
「ない」
「宝箱は?」
「ない」
「よし、帰ろう」
……テンション、ダダ下がりである。
「だめ。放置すると、妖魔がこちら側に溢れてくる」
「ヤバ。それ、やっぱりダンジョンじゃない?」
「違う」
「スタンピード的な?」
「……近い」
「ほらダンジョン!」
「違う」
瑠衣は即座に否定した。だが、否定の勢いは少しだけ弱かった。
遥はじとっと瑠衣を見る。
「今、ちょっと認めかけたよね?」
「……少し。でも、近いだけ」
「やっぱり」
「ここから先は、館の中だけど館の中じゃない」
「なにそれ、怖い言い方しないでよ」
「実際、怖い場所……」
「瑠衣がそう言うと本当に怖いんだけど」
「本当に危険な場所。本当なら、はるちゃんを連れていきたくない。でも、たぶん、はるちゃんのことだから、わたしが一人で行ったら怒る。だから、一緒に来てくれる?」
ふわりと瑠衣が笑う。
「……当たり前じゃない!」
少し驚いた顔をした遥が、ニヤリと笑った。
「でも……」
遥は手元のピコピコハンマーを見下ろした。
退魔の武器だと説明されてはいるが、見た目は完全に宴会芸のそれである。しかも今の遥は、瑠香さんの名前入り体操着とブルマ姿だった。
状況だけを抜き出すと、どう考えても悪ふざけだった。
「ねえ瑠衣」
「なに?」
「この格好で鬼穴に入るの、絵面的に大丈夫?」
瑠衣は遥を見た。
体操着。
ブルマ。
ピコピコハンマー。
しばし沈黙。
瑠衣は顔を逸らして答えた。
「大丈夫」
笑いを堪えている気がするのは、きっと気のせいだ。
◇
扉の奥は、さらに廊下が続いていた。
碁盤の目のように伸びる横道の奥から、緑の皮膚、醜悪な顔、言葉とも叫びともつかない不快な声を発する、何匹もの影が迫ってくる。
河童。
「待って? ここはほら、ゴブリンとかコボルトとかじゃないの? 定番のやつ! なんで河童が襲ってくるのよ! うわ! キモっ!!」
「鬼穴だから」
無駄話をしながらも、遥はその手に持った退魔の剣、ならぬピコハンで河童の頭の皿を叩き割っていく。
まるでゲーセンに置いてあるワ◯ワ◯パニックだ。
だが、実際にピコハンには特別な力があるらしく、頭の皿を叩いた途端に皿が割れ、河童たちは白目を剥き、鼻血を出して倒れていく。
そのとなりでは、瑠衣がどこからともなく取り出した、退魔祓鈍器と書かれたトンファーで河童の群れを刈り取っていた。
さすがは柳流古武術の師範代。そして玉狩姫の名は伊達ではなかった。皿か股間を押さえて倒れ込んでいく河童たち。
九字切りや法術ではなく、物理で怪異を屠っていく。
陰陽師とは?
一瞬の隙。
河童の一匹が床を這うように滑り込み、遥の背後を狙ってきた。いや、お尻の辺りをロックオン。
「きゃっ!?」
動きは素早く、姿勢は低い。顔は最悪。しかも手つきがものすごく嫌だった。なんかワキワキしてる。
遥は反射的にピコハンではたき落とした。
「はー、はー、あ、危なかったー……」
「河童は尻子玉を抜く妖怪として有名」
瑠衣が淡々と解説する。
「尻子玉ってなに!?」
「尻子玉。霊的架空の臓器。取られると……垂れ流しになる」
「乙女の尊厳が終わる!? 先に言って!? そういう大事な情報は先に言って!?」
「はるちゃんがダンジョンの話で忙しそうだったから」
「る、瑠衣のアホー!?」
「大丈夫。倒せば尻子玉は元の持ち主の元へ帰る。あと、時間や経過とともに回復する」
「それでも嫌っ」
半泣きで叫びながらも、遥は迫ってきた河童の頭をピコピコハンマーで叩く。
ぴこん。ぱりん。
ぴこん。ぱりん。
可愛い音がするたびに、河童が沈む。
「ぎゃぱっ!?」
「ぶへっ!」
「ひでぶっ!」
白目を剥き、鼻血を出して床に倒れていく。
「……音と結果が合ってない!」
「退魔用だから」
「退魔用って便利な言葉よね!」
遥がぼやいた直後、別の河童が飛びかかってくる。
「あー、もう!」
隣では瑠衣のトンファーが唸る。
ごん。
こつん。
どすっ。
次々と河童たちの皿が砕けていく。九字も護符もない。ありがたい祝詞もない。ただ、陰陽師の衣装を着た少女が、退魔祓鈍器で河童を物理的に鎮圧しているだけだった。
もう一度問いたい。
陰陽道とは?
「瑠衣、ほんとに陰陽師なのよね!?」
「そう」
「今やってること、ただの近接格闘じゃない!?」
「陰陽師も、最終的には体力」
「身も蓋もない!」
河童の一匹が、懲りずに遥の背後へ回り込もうとした。
その瞬間、瑠衣が間に滑り込む。
左右のトンファーの短い方の先で、河童のこめかみのあたりを挟み込む。
めっきょり。
河童は白目を剥いて崩れ落ちた。
「……キリがない」
低い声だった。
次の瞬間、瑠衣が武器を上へと投げる。
中指と人差し指を胸の前に立てた。ついで親指を立て、小指を立てる。流れるように中指を畳み込む。
――急急如律令、祓え祓え、悪しき魂の残滓に安らぎを――
山ノ井家に伝わる簡易九字切りの印であった。
「玉を狙う者は、玉を刈られる覚悟が必要」
最後の一句が紡がれる。
「散」
同時に、瑠衣の左手からばら撒かれた鉄の玉が弾け飛ぶ。
ひとつ残らず、河童の群れに——
着弾。
股間を押さえながら倒れ込んでいく河童たち。
落ちて来たトンファーをしゅたっとキャッチする瑠衣。やはり玉狩姫の名は健在であった。
初戦を終えて遥は思う。
……鬼穴。
思っていたより、ずっと最低だった。




