【外伝】陰陽師、山ノ井瑠衣 壱話
瑠衣と遥の冒険譚、はじまりはじまりー✨
夕方になる少し前の時間。
終業のチャイムが、校舎全体に鳴り響いた。
「終わったー!」
遥は椅子に座ったまま、大きく伸びをした。
窓の外では、冬の光が少しずつ傾き始めている。
今日は部活もない。
宿題も、まあ、たぶん後でなんとかなる。
つまり、自由時間である。
遥は隣の席へ顔を向けた。
「瑠衣ー、放課後なにか予定ある? 今日は部活もないし、一緒にカラオケでも行かない?」
いつもの調子で誘う。
だが、瑠衣はわずかに目を伏せた。
表情はほとんど変わっていない。
けれど、遥には分かった。
今の瑠衣は、無表情の中に絶望を一瞬だけ混ぜるという、極めて高度な表情芸を披露している。
「……今日は家の用事があって行けない。せっかく誘ってくれたのに、ごめん」
言葉は淡々としている。
だが、声の底に悔しさが滲んでいた。
「そっかー。家の用事っていうと神社だし、巫女さんかー」
「ちがう」
瑠衣は首を横に振る。
「陰陽師のほう」
「え!?」
遥の目が輝いた。
「陰陽師ってなに? 安倍晴明とか役小角とか、なんかあんなやつ!?」
「安倍晴明はそう。役小角は少し違う。あれは修験道の開祖」
瑠衣は、すらすらと説明する。
「蘆屋道満とか、賀茂忠行あたりが有名」
「へー!!」
遥は机に身を乗り出した。
「カッコいいわね! 瑠衣もやるの? あの有名なやつ。えっと、臨兵、なんとかおぜんざい??」
「臨兵闘者皆陣列在前」
「それそれ!」
「おぜんざいではない。あ。でもそれは美味しそう」
「惜しかった!」
「惜しくない。美味しそう」
瑠衣は静かに言った。
それから、ほんの少しだけ遥を見る。
「はるちゃんが良かったら、見にくる?」
「へー! すごい……って、え?」
遥は一拍遅れて、意味を理解した。
「いいの!?」
「いい」
「行く!」
即答だった。
瑠衣の目が、わずかに明るくなる。
「わかった。それだったら、私の家に来て。はるちゃんにも衣装を渡す」
「衣装?」
「必要」
「え、なにそれ。ちょっと楽しみ!」
遥は笑った。
この時点では、まだ知らなかった。
その衣装が巫女服であることも。
このあと、本当に怪異と対峙することになることも。
そして、自らが触手的な怪異に弄ばれそう、になることも。
◇
山ノ井家の神社は、町外れの小高い場所にあった。
古い石段。
苔むした狛犬。
境内を囲む木々。
夕方の光が沈みかける時間帯になると、そこは学校や商店街とはまるで違う空気を帯びる。
静かで、冷たくて、どこか近づきがたい。
そこで遥は、白衣に緋袴という巫女装束に着替えさせられていた。
「遥ちゃん、よく似合ってるわ」
瑠衣をのまま大人にしたような母、瑠香が瑠衣と同じように無表情のまま遥の巫女姿を褒めた。
遥の普段の得物である、バスターソード。その巨大な剣の元々の所有者であり、使い手。過去には四騎士として、瀬戸際高校で伝説にまでなったすごい人、と言われても、多分誰も信じないだろう。
ちょっと情報がバグってる人でもある。
そんな瑠香だが、瑠衣の母らしく無表情のまま、その目に優しい光を帯びさせて、柔らかく笑っているように見える。
満面の笑顔で遥が向日葵のように笑った。
「瑠香さん、これめちゃくちゃ可愛いねっ!」
くすりと瑠香が微笑んだ気がした。
「おおー……」
自分の袖をつまんで、くるりと回る。
「なんか、それっぽい! かっこいい!」
その横では瑠衣が陰陽師の衣装を纏っていた。
黒を基調にした装束。巫女ではなく、陰陽師だ。
いや、瑠衣が着ると、もはや何を着ても瑠衣だった。
「はるちゃんもとても似合ってる」
「そ、そう? ありがと」
瑠衣は無表情のまま、じっと照れる遥を見る。いや、ガン見する。
「後で写真撮ろう、いや撮るべき」
「瑠衣? 目が血走ってない?」
「気のせい」
「そうよねー」
「百枚くらいあれば大丈夫」
「多い!」
いつものやりとりをひと通りやり終え、二人は現地へ向かうのだった。
外伝です。
現在、今年度の声優専門学校での音声ドラマ収録に向けて新しい本編【キャッスルブレイク編】の台本を書いているところなのですが、そちらの公開がされるまでは表に出せないので、しばらく外伝をお楽しみ下さい٩(^‿^)۶
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