【外伝】陰陽師、山ノ井瑠衣 弐話 〜瑠衣さん、これは羞恥プレイというやつでは?〜
瑠衣と遥は衣装を着替え終え、瑠衣の家——山ノ井神社を出た。
そして、バスに乗る。
もちろん、陰陽師と巫女服で……。
もちろん、車内の空気が変わる。
もちろん当然である。だって、陰陽師と巫女が乗ってきたのだから。
後方の席のおじさんが二度見をした。向かいの女子学生二人組が小声で何かを囁き合っている。運転手はルームミラーで一瞬だけ確認した後、努めて前を向いた。
ちょっとした羞恥プレイであった。
遥は顔を真っ赤にして俯いた。
「ねぇ、ちょっと、瑠衣? これめちゃくちゃ恥ずかしいんだけど」
「大丈夫」
瑠衣は平然と吊り革を掴んだ。
「可愛いは正義だから問題ない」
少しご満悦そうだった。
照れるはるちゃん尊い、とかきっと思ってる。
「えぇっ……!」
目をぐるぐるにしながら、この子は一体なにを言ってるのだろう? と、すぐさま両手で顔を覆う遥であった。
◇
三十分ほど揺られて、目的地最寄りのバス停に到着した。
二人は石段を登り、町外れの細い道を歩く。
まだ遥の顔は少し赤かったが、さっきまでよりは随分とマシになっている。慣れたのかもしれないが諦めただけなのかもしれない。それは本人のみぞ知る事実だった。
太陽は今日の役目を終え、残業なんかするもんかと、地平の向こうへと沈みかけていた。
街灯がぽつぽつと灯り始める時間。
民家の明かりが、遠くに見える。
そして、それらの明かりが途絶えたあたりに……
「……なにこれ」
遥は足を止めた。
古い洋館が、そこにあった。
周囲の木々に半ば飲み込まれるように建っており、蔦が壁を這い、窓ガラスは曇っている。鉄製の門扉は錆びついており、押すとぎぎぎ、と鈍い音を立てた。
夕闇の中で見ると、それはひどく場違いで、ひどく異質だった。
「洋館」
「見たらわかる! なんでこんなとこに洋館があるの!?」
「明治の終わり頃に建てられた。外国人技師の別荘だったらしい」
「瑠衣って物知りよね……」
感心している場合ではなかった。
「いる……」
瑠衣の声が、わずかに低くなった。
遥は背筋がひやりとするのを感じた。
「……いる、って?」
「怪異。妖怪とか、幽霊とか、そういう類の何か……。この洋館に棲み着いている」
ぞわり、と悪寒が遥の全身を駆け巡った。
「あ、あはははは。冗談よね」
瑠衣は一瞬だけ遥を見てから、洋館へ視線を戻した。軽く目を細めると、流れるように印を結ぶ。
鮮やかな一連の手さばきに、思わず目をキラキラさせちゃう遥。
だが——
人差し指と中指を立てた右手の刀印に左の掌を添え、そのまま前へ差し出す。左手は滑るように、右肘の内側へ添えられた。
一枚の人型の紙が、手品のように刀印から飛び出す。
そして、門に触れる前に一瞬で燃え尽きた。
「ひょえっ!?」
驚く遥。
対して瑠衣は、無表情のままだった。
さらに低い声で、言葉を落とす。
「いる……間違いない」
「や、やばくない!?」
「やばい」
即答だった。
「う、嘘よね!?」
「嘘をついても意味がない。想定より少し、厄介なものがいそう」
陰陽師としての真剣な顔を覗かせた瑠衣が、ふわりと微笑んだ。
「ここから先は、はるちゃんが選んで。一緒に来る? それとも、ここで待つ?」
迷う遥。だが、逡巡は一瞬だった。
友人をひとりで危険地帯へ行かせるような遥ではなかった。
「行く」
「わかった。はるちゃんはわたしが守る。だから安心して」
いつか一度は言ってみたかった台詞を言えて、少しテンションが上がり気味の瑠衣である。
瑠衣はそのまま門をくぐり、迷いのない足取りで洋館の扉に手をかける。
遥はその後ろをついて行った。
少しだけ早足で。
洋館と陰陽師と巫女——
既にジャンルはメチャクチャであった。
まさかの和洋折衷笑笑
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