最終決戦2
「むふふふふふーん❤」
波理日校長が、ゆっくりと一歩を踏み出す。
それだけで、空気が歪んだ。
重い。
あまりにも重い。
筋肉という名の質量が、戦場そのものを押し潰してくるようだった。
全てを飲み込み破壊する存在感。
まさにブラックホールと呼べるほどの圧を放っている。
「うふふふ❤ 健気ねぇ。いいわぁ。そういう男の子、あたし嫌いじゃないわよぉ❤」
波理日校長は、倒れたよしおを見下ろし、艶っぽく笑った。
「く……そ……」
スポチャンの武器だとて、超高速で打撃を打ち込まれれば、ダメージはある。
「でも、残念❤ 守り切るにはあと一歩、実力が足りなかったわねぇ」
太い腕が、再び持ち上がる。
狙いは、結女。
今度こそ、結女の正面には遮るものがない
重音が落ち、よしおが落ちたことで、波理日校長との距離はあまりにも近くなりすぎていた。
「「結女!」」
遥と郁佳が、波理日校長へ即座に飛びかかる。
瑠衣は無言で、刈り取りに行く。
だが——それでも間に合わない!
結女は槍を構えた。
受けられるとは思っていない。
逃げきれるとも思っていない。
それでも、何もしないという選択肢だけはない。
波理日校長の腕が、振り下ろされようとした。
その瞬間。
横から、一本の槍が割り込んだ。
ズバンッ!!
乾いた衝突音が、戦場に響く。
波理日校長の一撃が、わずかに逸れた。
結女のすぐ横を、圧の塊が通り抜ける。
刃はないはずの武器が、その速度だけで結女の長い髪の一部を切り落とした。
そして、その前に立っていたのは――
「そこまでよ」
潔谷保志だった。
元潔岳高校騎士部部長、潔谷保志。
尼剃根栖高校――女子高のはずなのに、なぜかそこにいる男。
いや、正確には、この一戦において尼剃根栖を率いる実戦指揮官であり、もう一人の総大将である。
彼は、結女の前に立っていた。
勝つためではない。
守るために。
「潔谷君!」
結女が名前を呼ぶ。
だが、潔谷は振り返らない。
視線は、波理日校長から外さない。
「下がれ、日野」
まるで、異星の戦士たちが地球に襲来した時、ギリギリで現れた伝説の戦士のように。
颯爽と。
「助けに来てくれたのー?」
「勘違いしないで」
……だが喋りはオネェだった。
「……」
一瞬の間。
微妙な空気が流れる。
「勘違いするな」
潔谷は決め台詞を言い直した。
「お前が落ちたら負ける。それだけだ」
その声に、迷いはない。
ただし、キャラは相変わらず迷子だ。
潔谷は理解していた。
この場には二人の総大将がいる。
自らと、結女。
だが、この戦いの本当の総大将は、日野結女であると。
今この盤面を作り、瀬戸際・潔岳・尼剃根栖の戦力をひとつの流れに押し込んでいるのは彼女だ。
ルール上はどうあれ、彼女が倒れれば終わる。
瀬戸際・尼剃根栖連合は敗北する。
尼剃根栖が後方でどれだけマッスル部隊を止めていようと、すべてが無駄になる。
だから、ここは通せない。
たとえ相手が、波理日校長であっても。
「うふん❤ あらぁ、またいい男が出てきたわねぇ❤」
波理日校長が、にたりと笑う。
「でも、あなた一人であたしを止めるつもりぃ?」
「止めるわよ」
潔谷は短く答えた。
「……倒せるとは言っていない」
「あら、正直❤」
「時間を稼ぐ。俺の役目はそれで十分だ」
その言葉に、結女がほんの少しだけ目を細めた。
潔谷は勝つつもりで来たのではない。
倒すつもりで来たのでもない。
日野結女を倒させないために来た。
ただ、それだけ。
だからこそ、強い。
「潔谷君」
「なんだ」
「十秒!」
「……任せろ」
潔谷が一歩前へ出る。
波理日校長もまた、一歩前へ出た。
両者の間にある空気が、ぎちりと軋む。
後方では、まだ尼剃根栖の雄叫びが響いている。
郁佳の部隊は中央乱戦を押し込み続けている。
遥が切り開いた左翼の道は、今も細く残っている。
重音が落ちた。
よしおが落ちた。
それでも、結女はまだ立っている。
全ては、この一瞬のために繋がっていた。
結女は、槍を持ち直す。
波理日本陣は目の前。
波理日校長も目の前。
だが、その前に立つ潔谷の背中が、ほんの十秒だけ時間を作る。
それだけあれば、十分だった。
結女は、いつものように笑った。
「はるちゃん、瑠衣ちゃん、ふみちゃん!」
その声は柔らかい。
だが、目だけは笑っていなかった。
「ラスボス戦、始めましょうかー」
潔岳元部長、潔谷保志。作中、一度も実戦を見せることのできなかった不憫な強者が立つ!
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