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騎馬戦記⭐︎ガールズナイツ  作者: mutsu!


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最終決戦1

「大胸金之助選手、リタイア! 三角近一郎選手、リタイア! 僧帽欽也選手もお尻が大変なことになってリタイア!! そして――松栖流高校総大将、大殿欣二選手もここでリタイアァァァ!!」


 実況席で、羽月鋼が絶叫した。


「筋肉特戦隊、主力四名が立て続けに脱落! 松栖流高校、ここで中核戦力を大きく失いました!!」


 スタジアムが揺れる。


 歓声。

 悲鳴。

 どよめき。


 大胸金之助が落ちた。

 三角近一郎が落ちた。

 そして、大殿欣二も落ちた。

 刺客として放たれた僧帽欽也も落ちた。


 それは、ただ強い選手が四人消えたというだけではない。


 松栖流高校の攻撃の芯が、まとめて折れたということだった。


 中央の空気が変わる。


 松栖流の長槍隊が、一拍だけ止まる。

 波理日高校の近衛兵が振り返る。

 後方にいたマッスル部隊にも、明らかな動揺が走った。


「これは大きい! 松栖流高校、完全に崩れたか!?」


「いえ、まだです」


 木戸菜月は、冷静に首を振った。


「松栖流高校は中核を失いました。しかし、長槍隊とマッスル部隊の残存戦力はまだ残っています。そして波理日本体の前には、近衛兵も健在です」


「つまり、まだ波理日校長までは遠い!」


「はい。ですが、今の一瞬だけは違います」


 木戸が、モニターの一つを指した。


 そこに映っていたのは、後方で待機していた瀬戸際高校本体。


 その中心にいるのは、日野結女だった。


「日野選手を含む瀬戸際高校本体は、ここまで後方で待機していました。つまり、消耗は最小限です。今なら、まとまった戦力として動けます」


「おおっと! 日野選手が動いた! 瀬戸際高校が、前進を始めました!」


 結女が、槍を持ち直す。


 その周囲で、残っていた瀬戸際高校の本体が動き始めた。


 だが、中央へは向かわない。羽月がモニターを食い入るように見つめる。


「進路は中央ではありません! これは……左翼側か!?」


 困惑気味の羽月を横目に木戸が冷静に実況を進める。


「はい。中央はすでに乱戦状態です。そこへ総大将を突っ込ませるのは危険すぎる。日野選手は、牛島遥選手が切り開いた左翼側の空間を使うつもりでしょう」


「左翼側から回り込む!?」


「ええ、反時計回りですね。瀬戸際高校本体は、最後尾から前線の長谷部郁佳選手の守備部隊と合流し、波理日本陣前へ回り込む構えです」


 羽月が、モニターに再度食い入る。今度はプロとして分析の目で動きを追った。


「なるほど! 比較的安全な左を回って本陣を直接叩きに行く!」


「ただし、それでも危険はあります」


「危険?」


「中央を避けて外側を回るということは、波理日本体の前へ到着するまでに、時間がかかります。最終決戦に時間を掛けてしまうと、乱戦に持ち込まれている松栖流の部隊が、尼剃根栖を削りきって背後を突き、挟撃される可能性があるということです。」


「それはまずいですね」


「ですが――」


 木戸が、別のモニターへ視線を移す。


「その松栖流部隊を、今もまだ尼剃根栖高校が止めています!」


 画面の中では、尼剃根栖高校の女子生徒たちが、松栖流の部隊と激しく入り乱れていた。


 掴まない。

 組まない。

 ただ、前へ進ませない。

 ただ、結女たちの背中へ向かわせない。


 ナイツゲームにおいて、相手の身体を継続的に掴み、拘束する行為は反則である。


 だが、一瞬の接触は許される。

 進路を塞ぐことはできる。

 盾で受け、槍で牽制し、相手の踏み込みを潰すことはできる。


 尼剃根栖高校は、それを徹底していた。


「尼剃根栖高校、松栖流マッスル部隊を乱戦に固定しています! これは組みついて止めているわけではありません!」


「はい。進路妨害、牽制、一瞬の接触、盾による受け流し。それを連続させることで、松栖流の再加速を封じています」


「筋肉の加速を殺している!」


「その通りです。松栖流高校のマッスル部隊は、前進し、押し切る時に最も強い。ですが今は、尼剃根栖高校がその行動の選択肢を奪っている」


 掴まない。

 組まない。

 ただ、動かさせない。


 後方では、筋肉と狂戦士たちが膠着していた。


「つまり、日野選手の背後を突くはずのマッスル部隊が動けない!」


「はい。だからこそ、日野選手は挟撃の危険を承知で波理日本陣へ攻勢をを掛けられるんです」


 ◇


 結女は、槍を持ち直した。僧帽欽也の校門(変換間違いではない。きっと)を破壊し、敵本陣へと進軍を始める。なお笑顔である。怖い。


「ラスボスを倒しに行きますかー」


 その声は、いつも通り柔らかい。隣で転がっている地獄は見てはいけない。


 最後尾から、前へ。


 郁佳の部隊は、横列を維持したまま、徐々に11時の方向へずれていく。中央の乱戦と結女たちの間に入っていた。


 横に広がったその列は、防波堤だった。


 中央の乱戦が結女たちの進路へ溢れ出そうとする。

 そこへ、郁佳の部隊が盾と長剣で圧をかける。


 押し返す。

 止める。

 押し込む。


 中央の乱戦を、少しずつ反対側へ圧縮していく。


 同時に、結女たちの進むための細い通路を作っていた。


 列が崩れれば、乱戦が流れ込み、総大将である結女は一瞬で飲まれる。


 だが、郁佳の部隊は崩れない。


 派手さはない。

 遥のような突破力もない。

 瑠衣のような必殺の一撃もない。


 それでも、長谷部郁佳の守備部隊は、確実に戦場の形を変えていた。


「ふみちゃん、左から本陣を叩きに行くわー。中央は混みすぎてるものー」


 郁佳は一瞬だけ目を細め、すぐに理解した。


 中央にはまだ乱戦が残っている。

 そこに結女を突っ込ませれば、どこから攻撃が飛んでくるか分からない。


 ならば、遥が切り開いた左翼側の空間を使う。


 左から外へ。

 そして反時計回りに、波理日本陣へ。


 遠回りに見える。

 だが、結女にとっては一番危険の少ない道だった。


 ただし、背後を取られなければ、の話である。


「後ろは?」


「尼剃根栖が抑えてくれてるわー」


「なるほどね」


 郁佳は短く息を吐いた。


「相変わらず、危ない橋を渡る」


「ふふ。渡れる橋なら問題ないわー」


「落ちたら?」


「その時はその時ねー」


「軽いなぁ」


 そう言いながら、郁佳は自分の部隊へ視線を向けた。


「このまま横列維持! 中央の乱戦をこっちへ流すな! 結女たちの通路を開けて!」


 部隊が応える。


 横列は崩れない。


 防波堤のまま、中央乱戦を押し込み続ける。


 郁佳だけが、その列から離れた。


 守備部隊は残す。

 自分は結女に合流する。


 それが、今の最善だった。


「僕は結女につく。ここは任せた」


「了解!」


 郁佳は長剣を持ち直し、結女の隣へ並んだ。


「さて、行こうか」


「ええー。ふみちゃんが来てくれるなら安心ねー」


「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、あんまり無茶はしないでよ」


「努力するわー」


「それ、しないやつの返事だよね」


 軽口を交わしながら、結女たちは動く。


 中央の乱戦を避け、左翼から回り込む。

 遥が暴れた跡を通り、崩れた敵の横を抜ける。

 足を止めない。

 隊列を崩さない。


 波理日本陣が近づいてくる。


 その前方で、二つの影が待っていた。


 重音和音。

 田中よしお。


 モブ子のデウスでマキナすぎる活躍によって三角近一郎を撃破。消耗少なく抜けてきた二人。


 重音は大鉈を構え、よしおは剣を肩に乗せている。


「結女」


「結女さーん! ウエーイ!」


「重音先輩、よしお君。ちゃんと削ってきたわねー」


「もちろんであろう。ここから先は我らが前に出る」


「俺様もいるぜー! 結女さんの前には、指一本触れさせねぇ!」


「それは頼もしいわねー」


「た、頼もしい! ……っ! 俺様、今なら百人倒せる!」


「田中君、落ち着いて」


「ウエーイ!」


 軽口を叩きながらも、全員の視線は前を向いていた。


 波理日本陣。


 その手前に、近衛兵たちが並ぶ。


 二人騎馬が横に広がる。

 一人騎馬が隙間を埋める。

 後列が半歩下がり、重なるように構える。


 壁。


 誰が見ても、そう見えた。


「波理日高校近衛兵、ここで壁を作ったぁぁぁ!! 瀬戸際高校本体、波理日本陣前で止められるか!?」


 重音が大鉈を構える。


「田中よしお、貴様は右を頼む」


「了解!」


「俺が中央を開ける。日野さんはその後ろを」


「お願いするわー」


 重音が踏み込んだ。


 その瞬間。


 波理日近衛兵が、一斉に左右へ避けた。


「……え?」


 重音の足が、ほんのわずかに止まる。


 壁だったはずの近衛兵たちが、まるで最初からそう決まっていたかのように、さっと割れていく。


 その奥。


 ぽっかり空いた中央。


 そこに、濃い影があった。


「うふん❤」


 声がした。


 低く、太く、艶っぽく。

 そして、圧倒的に暑苦しい声。


「いらっしゃぁい❤」


 次の瞬間。


 波理日校長が、飛び出した。


「な、なんだぁぁぁぁ!? 近衛兵が割れたその奥から、波理日校長本人が飛び出してきたぁぁぁ!!」


 羽月が絶叫する。


「まるで、樽から飛び出す海賊人形みたいな勢いだぁぁぁぁ!!」


「例えはひどいですが、状況はその通りです!」


 木戸菜月も声を強めた。


「近衛兵は壁ではありませんでした! これは、波理日校長を本陣中央から射出するための迎撃陣形です!」


 巨体が迫る。


 速い。


 いや、速いというより、近い。


 見えた時には、もう目の前にいた。


「いい男ねぇ❤」


 重音は反射で大鉈を上げた。


 間に合った。

 受けた。

 受けた、はずだった。


「でも――邪魔❤」


 波理日校長の一撃が、重音の大鉈ごと叩き込まれた。


 衝撃。


 床が鳴る。

 空気が潰れる。

 重音の腕が跳ね、肩が沈み、身体がくの字に折れる。


「ぐっ――!」


 防御の上から、判定が抜けた。


 胴のセンサーが危険値を超える。


 どばり。


 真っ赤なローションが、重音和音の頭上から落ちた。


 一撃。


 ただの一撃だった。


「重音選手、リタイアァァァァ!!」


 羽月の絶叫が、スタジアムに響く。


「ほぼ無傷で本陣前まで到達していた重音和音選手! ここで波理日校長の一撃に沈みました!!」


「これは大きいです。日野選手を守る最大戦力の一駒が、波理日校長本人によって排除されました」


 吹き飛ばされた重音を、よしおは見ていた。


 まともに受けた。防御は間に合っていたのだ。

 だが受けた上で、弾かれた。


 あの重音が、真正面から潰された。


 だったら、受けてはいけない。額を汗が伝った。ぎりりと歯を鳴らす。


 波理日校長が、にたりと笑う。


「あなた達も、ご苦労さま」


「っ!」

「しまっ!」

 轟っ、っと鳴った気がした。


 ドボンっ! リタイアのローションが落ちる。


 巨体が地を這うように駆け抜け、鳴葉楓と吉津鈴香を一撃の下に屠った。重音が一撃でリタイアさせられたのだ。

 彼女たちでは反応することすら許されなかった。


 そして——その視線の先にいるのは、日野結女。


「次は小娘ちゃんねぇ❤」


 太い腕が、もう一度動いた。


 狙いは結女。


 避けられない。


 結女は槍を構える。


 受けられるとも思っていない。


 それでも、何もしないわけにはいかない。


 その瞬間。


「ウエ――イッ!!」


 田中よしおが、結女の前へ飛び込んだ。


「俺の結女さんに、手ぇ出してんじゃねぇぇぇぇえええ!!」


 よしおは剣を構えた。


 ただし、重音のようには受けない。


 剣を斜めに立てる。

 身体を半身にする。

 正面から受け止めるのではなく、剣の裏側に前腕を添えて、軌道を逃がす。


 重音が吹き飛ばされた一撃を見たからこそ、よしおは受け流しを選んだ。


 波理日校長の一撃が、よしおの剣に触れた。


 瞬間、剣が軋む。


「ぐっ……!」


 流す。

 流せ。

 結女から、少しでも軌道を外せ。


 剣が滑る。

 腕が跳ねる。

 衝撃が肩を抜け、胸部センサーへ突き抜ける。


 どばり。


 真っ赤なローションが、よしおの頭上から落ちた。


 田中よしお、リタイア。


 だが、波理日校長の一撃は、結女には届いていない。


 完全に止めたわけではない。


 ただ、逸らした。


 それだけで十分だった。


「よしお君……」


 結女の声が、ほんの少しだけ低くなる。


 よしおは、ローションまみれの顔で笑った。


「へっ……ウエーイ……。俺様、ちょっとは役に立ったっしょ……?」


 結女は、ほんの少しだけ目を細める。


「……ええ。ありがとう、よしお君」


「それ……リタイア前に聞きたかったやつぅ……」


 よしおは、満足そうに笑った。


 そして、そのままずるりと膝をつく。


 重音が落ちた。

 尼剃根栖の部隊長二人が落ちた。

 よしおも落ちた。

 瀬戸際連合はこの一瞬で、金銀桂馬に等しい護衛駒をまとめて失ったのだ。


 結女の前に、今はもう盾はない。


 

面白い。続きが気になる。そう思ってい頂けたそこのあなた!!


あなたはだんだんブックマークと評価をしたくなーるぅ( *´艸`)

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