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騎馬戦記⭐︎ガールズナイツ  作者: mutsu!


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46/60

機関車筋肉の場合

すみません、調整入ります。

2話同時投稿


先日の投稿エピソード「玉狩り姫と大鎌使い——狩るべきモノ」と「玉狩り姫、右から左」の前に挿入、本日中に移動予定

 同時刻、九時方向。


 波理日本隊の左側面へ、遥の遊撃部隊が食い込もうとしていた。


「さて、と! 見えてきたわね!」


 遥はバスターソードを肩に担ぎ、正面を見据える。


 敵の隊列は分厚い。


 波理日高校本隊。


 全国一位の基礎戦力を持つ、二人騎馬中心の部隊である。


 その側面に、こちらは少数で突っ込む。


 普通に考えれば無茶。


 だが、牛島遥は普通ではなかった。


「行くわよ!!」


「「おおー!」」


 遥の直属部隊が応じる。


 その進路上に、槍を手にした大男が立ちはだかった。


 いや、正確には。


 槍より先に、大胸筋を構えていた。


 大胸金之助。


 筋肉特戦隊の一角。


 こよなく筋肉を愛し、特に己の大胸筋を誇る熱血マッスルである。


「お前ら!」


 大胸金之助が、大胸筋をぴくつかせる。


「電光石火さんのお目見えだ!」


 その胸板が、やたらと存在を主張する。


 いや、実際には胸板でしゃべっているわけではない。


 だが、圧がすごい。


「大胸筋の素晴らしさを見せつけてやれ! 

『胸が無ければ大胸筋を付ければいいじゃない!!』ってなぁ!!」


「おっけーマッソー!!」


 大胸率いる全員が、大胸筋を構えた。


 両腕を寄せ、胸板をこれでもかと膨らませる。


 サイドチェスト。


 いや、戦場でやることではない。


 波理日モブたちが盛り上がる。


 盛り上がってしまった。


 その瞬間——


 遥の足が止まった。


「……」


 いや、空気が止まった。


 遥の周囲だけ、温度が下がった。


 直属部隊の何人かが、無言で半歩下がる。


 それは戦術的判断というより、生存本能だった。


「……全員」


 遥が低く言う。


「ぶっとばす!!」


 空気が爆ぜる。


 全てを置き去りにするような速度!


 遥ちゃん直属部隊も反応が出来ない。


 疾い。


 そして、怒っている。


「来たぞ!」


「この人数相手に一騎駆けとは舐めてくれる!」


「死ね! 電光石火――!」


「女は度胸!!」


 遥のバスターソードが横薙ぎに走る。


「胸じゃない!!」


 槍がまとめて弾かれた。


 大剣というより、もはや壁である。


 広い面で武器を叩き、隊列ごと押し返す。


 その勢いのまま、遥は最前列の一人騎馬へ踏み込んだ。


「邪魔よ!!」


 バスターソードの切っ先が、胸部判定を正確に叩く。


 赤いローションが、どぼん、と落ちた。


「ぐわーっ!」


 一人目。逝く。


「なっ、速――!」


 二人目。逝く。


「止めろ! 横から回り込め!」


「遅い!」


 三人目。逝く。


 死屍累々。


 遥は止まらない。


 左から槍が伸びる。


 遥はバスターソードの腹で受け、押し返し、その反動を使って身体を回す。


 右から来た盾ごと、敵の体勢を崩す。


 直属部隊がその隙間へ突っ込み、波理日本隊の側面をさらに削る。


 形としては一騎駆け。


 だが、完全な単独ではない。


 遥が割り、部隊が広げる。


 遥が崩し、部隊が刈り取る。


 戦術としては正しい。


 絵面としては災害だった。


「なんだあいつ!」


「大剣の振り方じゃねえ!」


「槍が、槍が弾かれる!」


「でやぁああああ!!」


 遥が叫ぶ。


 また一人、ローションを浴びる。


 また一騎、隊列から消える。


 波理日本隊の左側面が、目に見えて削られていく。


 大胸金之助の表情が変わった。


「た、単騎駆けでうちの部隊を一掃だと!?」


 顔に縦線が入る。


「そんな馬鹿な! バグってやがる!」


「ねぇ」


 遥がゆらり、大胸金之助の前でぴたりと足を止めた。金色のオーラが見えそうである。


「ひうっ!」

 根源的な恐怖に息を飲む大胸筋。


 周囲のモブたちは、すでにほとんど崩れている。


 残った数人も、遥と直属部隊の圧に後退していた。


 つまり、大胸金之助への道が開いた。


 遥はバスターソードを肩に担いだまま、にこりと笑う。


 笑っている。


 けれど、目は笑っていない。


「さっき、胸が無いとかなんとか言ったのは、死ぬ準備が出来てるってことよね? あーん?」


「ひっ!」


 大胸金之助の大胸筋が止まった。


 大胸筋が止まる、という表現が正しいのかは分からない。


 だが、止まった。


「胸が無ければ大胸筋を、だって?」


 遥の声が、低くなる。


「それは……」


 バスターソードの柄を握る手に、力がこもる。


「それは、この胸のことか――!」


「ちょっ、なんでそんなに更に戦闘力上がってそうな感じに!?」


 大胸が慌てて槍を構えた。


「あり得ねえだろ!! スタミナ馬鹿になってんのか!?」


「人には」


 遥が一歩踏み込む。


「言ってはいけない言葉があるのよ!」

「くっ!」


 その踏み込みに合わせて、大胸の槍が突き出された。反射行動であった。


 迎撃。


 大胸金之助は、ただの胸筋自慢ではない。


 遥の突進力を正面から受けるのではなく、踏み込んでくる瞬間に槍を合わせたのだ。


 機関車筋肉。


 その二つ名に恥じない、まっすぐで速く、重い突きだった。


「っ!」


 遥は咄嗟にバスターソードを立てる。


 刃ではない。


 腹で受ける。


 激しい衝突音。


 大剣越しに、腕へ重さが響いた。


 数メートル後方へと吹き飛ばされる遥。

 だが、倒れない。

 武器を持たない手を地面につき、側転にも似た地転の動きで身体を逃がす。そのまま低い姿勢で着地し、遥は大胸と睨み合った。


 馬鹿みたいな見た目に反して、大胸の実力は本物だった。

 緊急回避にこそ普段の鍛錬の成果が出るのだ。

「やるじゃない」


 遥が、少しだけ笑った。


 怒りは消えていない。


 むしろ燃えている。


 だが、その目には相手の力を認める光もあった。

 

 距離を稼いだことで、大胸も少し冷静さを取り戻した。胸を張る。

「当然だ! この大胸筋は飾りではない!」


 大胸が再び槍を突き出す。


 連続突き。


 速い。


 重い。


 しかも、しつこい。


「ふんっ! ふんっ! ふんっ!」


「掛け声が暑苦しい!」


 遥はバスターソードの腹で受ける。


 弾く。


 逸らす。


 大剣の広い面を盾のように使い、大胸の突きを押し返す。


 大胸は一歩も引かない。


 槍を短く持ち替え、遥の懐へ入らせない。


 胸筋はうるさい。


 だが、槍は正確だった。


「はっはっは! どうした電光石火! 怒りだけでは俺の大胸筋は貫けんぞ!」


「だから大胸筋は関係ないってば!」


 遥が地面を蹴った。


 正面。


 大胸の槍が、また合わせてくる。


 だが、今度は遥が一瞬だけ横へずれた。


 槍の穂先が、バスターソードの腹をかすめる。


 遥はそのまま大剣を滑らせ、槍の柄へ刃を絡めるように押し込んだ。


「なっ!」


「燃えよ」


 遥の足が、さらに前へ出る。


「バスターソード!」


「待て、何その急に必殺技っぽい――」


「六連撃っ!!」


 一撃目。


 大胸の槍が上へ弾かれる。


 二撃目。


 柄を狙う横薙ぎ。


 三撃目。


 足元を払うような低い軌道。


 四撃目。


 盾ごと押し潰す面の一撃。


 五撃目。


 肩口の判定へ斜めに走る。


 六撃目。


 胸部中心へ、大剣の腹が叩き込まれる。


 六つの衝突音が、ほとんど一つに重なった。


「ぐっ……!」


 だが、大胸金之助は倒れなかった。


 ぎりぎり全て槍で受け切っていた。


「これが電光石火の二つ名の力か……!」


 大胸は苦しげに笑った。


「くっ! だが、全て受け止めたぞ!」


「へぇ」


 遥は感心したように目を細める。


「本当にやるじゃない」


「当然だ! この大胸筋は飾りでは――」


「じゃあ、もう一回ね」


「えっ」


「まだまだぁ!」


 遥がバスターソードを握り直す。


「六連撃!」


「待て」


「重ね掛けぇ!!」


「うっそだろーー!!」


 そこから先は、技というより災害だった。


 一撃。


 二撃。


 三撃。


 四撃。


 五撃。


 六撃。


 そこで終わらない。


 七撃。


 八撃。


 九撃。


 十撃。


「おう! おう! おう! おう! おう! おう! おう! おう! おう! あっはーん!!」


 最後の悲鳴だけ、なぜか艶があった。


 直後。


 チーン。


 妙に澄んだ音が鳴る。


「十連撃じゃねーかーー!!」


 大胸金之助が、全力でツッコみながら崩れ落ちた。


 胸部判定。


 胴部判定。


 肩部判定。


 ついでに精神判定。


 全部まとめて限界だった。


 遥はバスターソードを肩に担ぎ、ふっと遠くを見た。


「またつまらぬものを切ってしまった」


 どぼん。


 赤いローションが落ちる。


 筋肉特戦隊、大胸金之助。


 リタイア。


 

 遥は鼻を鳴らし、バスターソードを軽く振った。


「さあ、次! 左側面、このまま削るわよ!」


「「おおー!」」


 波理日本隊の左翼が、大きく揺らいだ。

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