三角近一郎の場合
すみません、調整入ります。
2話同時投稿
先日の投稿エピソード「玉狩り姫と大鎌使い——狩るべきモノ」と「玉狩り姫、右から左」の前に挿入、本日中に移動予定
その頃、三時方向。
中央の乱戦から少し外れた位置で、別の筋肉が唸っていた。
「ふん。貴様が筋肉特戦隊の三角近一郎か」
重音和音が、大鉈を肩に担いで立つ。
騎馬に乗っている時の和音は、いつもの穏やかな先輩ではない。魔王系元部長である。
「聞いていた以上に、無駄な筋肉ばかりの筋肉デブだなぁ! 我が引導を渡してやろう!」
「ぐへへへへ」
三角近一郎は、二本の大剣を担いだまま笑った。
身長一九〇センチ超え。
大剣二刀流。
そして、全身が筋肉。
情報量が多い。
「そういうお前は重音和音だな。ふん、筋肉に無駄なものなどないのだよ? 見よ! この素晴らしい三角筋を!」
三角が肩を見せつける。
見せつけなくていい。
「貴様も漢女神教団に入信すれば、素晴らしい筋肉を手に入れられるぞ?」
「ふははははは! 断る!」
和音は豪快に笑った。
「我はお前のようなデブにはなりたくなどないからなぁ! せいぜい無様にやられるが良い!」
「ぶふふ。よくも我が美しい筋肉に向かってデブなどと……」
三角の両手の大剣が、ぎしりと鳴った。
「クレイモアの餌食にしてくれる!」
「はっはっは! やれるものならやってみるがいい! この、肉ジュバンのデブ野郎!!」
和音が大鉈を構える。
三角が二本の大剣を構える。
巨体同士の衝突。
そう思わせるには十分な空気だった。
「――と言いたいところだが」
「うえーい!!」
背後から声がした。
「死んでろ筋肉デブ!!」
田中よしおだった。
三角の背後から、チャラい声とともに剣が走る。
「なっ! 田中よしお!!」
三角は反射的に片方の大剣を返した。
武器同士が激しくぶつかる。
「ぬううん!」
「さすがは筋肉特戦隊ってか? 今のを受け止めるとはな!」
よしおが笑う。
だが、その笑みは軽いようで、どこか本気だった。
この男は、一度この連中に情緒を破壊されている。
しかも結女絡みで。
恨みは、かなり深い。
「お、おのれ重音和音!」
三角が叫んだ。
「背後からの不意打ちなど! 仮にも主人公クラスの男がやっていい戦い方ではないぞ!」
「ふん」
和音は大鉈を下ろさない。
「うちの生徒を何人も闇討ちした貴様らなんぞに、正々堂々と戦うチャンスすら与えられると思うな!」
「それを作戦っつーんだよ、筋肉デブ!」
よしおが剣を構え直す。
「うちの総大将は黒姫様だぜ? お前らみたいな特記戦力相手に、まともに戦うわけがないだろうが!」
「くそ共がぁ!」
三角の筋肉が膨れ上がる。
いや、実際には膨れていないのかもしれない。
だが、そう見えるくらい怒っていた。
「まとめてぶっ殺してやる!」
その瞬間。
てくてく。てくてく。
場違いな足音がした。
「えいっ」
軽い声。
軽すぎる声。
小さな影が、三角の懐に入っていた。
攻撃音は、ほとんど聞こえなかった。
ただ、センサーが反応した。
胸部中心。
心臓判定。
「……え?」
三角近一郎が、固まる。
和音は大鉈を構えたまま、静かに言った。
「だから言っただろう。正々堂々と戦うチャンスすら与えないと」
三角はゆっくりと、自分の胸元を見下ろした。
そこには、スポチャン素材の短剣を突き当てた女子生徒がいた。
存在感が薄い。
とても薄い。
薄すぎて、三角は今の今までそこにいることに気づかなかった。
「え……君、ダレ?」
女子生徒は、真顔で答えた。
「ここしか出番のない一発屋モブ子です」
「自己紹介が悲しすぎる!」
よしおが思わずツッコんだ。
一発屋モブ子は、まったく気にせず続ける。
「筋肉特戦隊さん。心臓を一突きしました。リタイアですね」
「そ、そんな……」
三角の顔が、じわじわと絶望に染まる。
「そんな終わり方があってたまるか――!!」
次の瞬間。
頭上から赤いローションが、どぼん、と落ちた。
三角近一郎。
リタイア。




