表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎馬戦記⭐︎ガールズナイツ  作者: mutsu!


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
44/59

玉狩り姫と大鎌使い——狩るべきモノ

 中央の乱戦は、なおも続いていた。


 尼剃根栖高校の突撃によって、松栖流の長槍隊は確かに揺らいでいる。


 だが、崩れない。


 押されても、絡まれても、槍をずらされても、すぐに別の隊列が穴を埋める。さすが全国準優勝校。暑苦しいだけではなく、基礎の練度が高い。


 御手洗由美は、その様子を見て目を細めた。


「松栖流高校……思ったより固いわねー♡」


 鞭を肩に乗せたまま、周囲の状況を一瞬で確認する。


 尼剃根栖は勢いでは負けていない。


 だが、このまま正面から食い合えば、消耗戦になる。


 消耗戦はまずい。いくら鍛えていても、同じように鍛えた男女では、平均的な筋量や体格差までは埋めきれない。遥みたいなバグは例外なのである。さらに言えば、瑠衣のように技術で体格差を無効化してしまうタイプもいるが、あれはあれで半分漫画だった。


 数で勝っているように見えても、瀬戸際側はすでに守備部隊を下げている。ここで尼剃根栖が削られすぎれば、後の手が足りなくなるだろう。


「……吉津、鳴葉!」


「はい! お姉さま!」


「いつでも!」


「このままじゃ消耗戦に巻き込まれるわ。一旦後退よ! この辺りの敵を一気に殲滅するから、空いたスペースに六人ずつで方円陣を組みなさい!」


「「了解です! お姉さま!!」」


 吉津と鳴葉が即座に応じる。


 御手洗由美は、鞭を軽く鳴らした。


 その姿はどう見ても高校生ではない。


 だが、指揮官としては紛れもなく優秀だった。


「女王様斬りスペシャ――」


「もらったーー!」


 御手洗由美の言葉を遮るように、名もなき松栖流の一人が横合いから飛び込んできた。


 狙いは悪くない。


 御手洗由美が部隊へ指示を飛ばし、大技の予備動作に入った瞬間。そこは確かに隙だった。


「しまっ……」


 御手洗由美の目が見開かれる。


 だが、その間に黒い影が割り込んだ。


「させん!!」


 瀬戸際校長だった。


 腰痛持ちのくせに、こういう時だけやたら速い。


「てりゃぁ!!」


「んなっ!」


 瀬戸際校長こと柔らか剣聖が、松栖流モブの武器を弾く。


 その一瞬後、さらに低い位置から瑠衣が滑り込んだ。


「秘剣」


 双剣が走る。


「玉砕き、爪牙っ!!」


「のはぁわっ!?」


 下段からの掬い上げ、挟み込むように低い位置、上段からの切り落とし! 連続で判定が入った。


 赤いローションが落ちる。


 ちちん。


 どぼん。


 効果音がひどい。


 だが、効果は抜群だった。


 名もなき松栖流は、その場でうずくまって動けない。


「っちぃっ!!」

「くそったれ! 柔らか剣聖に玉狩り姫か!! 邪魔をするな!!」


 さらに二人、続け様に別の松栖流モブが突撃してくる。


 瀬戸際校長は、御手洗由美を背に剣を構え直して笑った。


「そういうわけにもいかんので……なっ!」


 踏み込み。


 柔らか剣が、鋭く相手の腕部判定を連続で叩く。


「せいっ!」


「うわっ!!」

「ぐあっ!!」


 体勢が崩れたところへ、瑠衣が続いた。


 一撃。喉の判定を獲った。


「ぐあっ!」

 だが、瑠衣は止まらない。


「斬り上げ」


 必要もないのに、二撃。


「そして、斬り落とし」


 三撃。いや、惨劇。


「のほーん!」


「旋風牙」

 更にもう一人、双剣による連続アタックが決まる。


「ごっつぁんです!」


 松栖流モブが二人、意味の分からない悲鳴を上げながらローションを浴びた。


 この戦場では、断末魔にも個性が出る。だって名もなきモブにとっては唯一の見せ場だから。


「助かったわ♡」


 御手洗由美が、瀬戸際校長へ視線を向ける。


 瀬戸際校長は、短く首を振った。


「礼は不要だ!」


 そして、乱戦の奥を見る。


 尼剃根栖が乱し、瀬戸際校長と瑠衣が穴を開けた。


 この一瞬を逃せば、また松栖流は固まる。


「松栖流の大将を討つぞ! 乱戦を突っ切る! 力を貸してくれ!」


 瑠衣も同じ方向を見ていた。


 ——大殿欣二、松栖流総大将。


「見えた。わたしのターゲット」


 ◇

 

 この時点で中央の乱戦地帯は、すでに人の流れというより、ぶつかり合う熱の塊になっていた。


 松栖流の長槍隊。


 それに絡みつく尼剃根栖の突撃部隊。


 瀬戸際校長率いる柔らか剣聖部隊。


 御手洗由美率いる尼剃根栖精鋭部隊。


 全員が双剣を装備した悪夢、瑠衣と玉狩精鋭部隊。


 誰が敵で誰が味方なのか分からないほどに入り乱れていた。


 ただ一つ分かるのは、中央がとても暑苦しいということだった。


 瀬戸際校長は、息を整えながら前を見た。


 年齢を考えれば、すでに十分すぎるほど動いている。いや、普通ならとっくに後方でお茶を飲んでいても許される年齢である。


 だが、彼はまだ立っていた。


 柔らかい剣を構え、黒マントを揺らし、腰に若干の不安を抱えながら。


 とても不安だった。


「由美、行けるか?」


 隣で、御手洗由美が鞭を軽く振った。


 マイクロビキニ姿のアラフィフが、戦場の中央で鞭を振っている。


 その立ち姿を高校生というのはキチィ。だいぶキチィ。


 だが、指揮官としては普通に頼もしい。


「当然でしょう? ここまで来て、引くなんてつまらないわぁ♡」


 御手洗由美は笑う。


 その後ろでは、吉津鈴香と鳴葉楓が、それぞれ尼剃根栖の精鋭を引き連れていた。


「私はいつも御手洗お姉さまの横にいるって決めてるんだ!」


 鳴葉が胸を張る。


「お姉さまより先にリタイアはあり得ません。絶対に勝ちます」


 吉津は真面目な声でそう言った。


 方向性は違う。


 熱量は同じだった。


 瑠衣はその二人をちらりと見て、小さく頷く。


「士気は高い」


 御手洗由美は、半拍だけ考えた。


 一旦後退して方円陣を組む。


 それは堅実な手だ。


 だが、目の前には穴がある。


 乱戦の中に、松栖流本隊へ続く細い道が見えている。


 なら、堅実さを捨てる価値はある。


「なるほど♡」


 御手洗由美の笑みが、深くなる。


「尼剃根栖精鋭部隊!! 集まりなさい!!」


 声が飛ぶ。


 吉津と鳴葉が即座に振り返る。


「後退命令は破棄! 玉狩り姫部隊、柔らか剣聖部隊と共に、一気に中央をぶち抜くわよ!! 鳴葉を先頭に楔形陣を! 援護しなさい!」


「「おおーっ!!」」


 尼剃根栖モブたちが叫ぶ。


 吉津と鳴葉も、目を輝かせた。


「どこまでも付いていきます、お姉さま!」


「お姉さまの進む道こそ、私たちの道です!」


「いい子たちねぇ♡」


 御手洗由美がうっとりと笑う。


 瀬戸際校長は少しだけ遠い目をした。


「……濃いのぉ」


「同感」


 瑠衣が短く言った。


 だが、濃くても戦力だった。


 いや、濃いからこそ戦力なのかもしれない。


 中央に生まれた細い突破口へ、鳴葉を先頭に瀬戸際校長、御手洗由美、瑠衣、そして尼剃根栖の精鋭たちが一斉に走り出した。吉津が殿(しんがり)を務める。


 ◇

 

 空いた穴を中央から無理矢理に押し広げ、押し通すような乱戦。

 中央突破を狙う瑠衣たちはその乱戦を抜けた。


 正確には、抜け切ったわけではない。


 生き残ったのは、瀬戸際校長、御手洗由美、瑠衣、吉津、鳴葉、そして尼剃根栖の精鋭数名。

 楔陣は左右の翼のほぼ全てをもがれていた。


 さらに背後では、まだ尼剃根栖と松栖流の部隊がぶつかり合っている。


 犠牲なしでは辿り着けなかった敵陣地最奥に最も近い場所。


 だが、それでも辿り着いた。


 松栖流本隊。


 大将を守る近衛部隊の前へ。


「はぁ、はぁ……」


 瀬戸際校長は深く息を吐く。


「私と由美と瑠衣君、あとは尼剃根栖の部隊長を含む数名。生きて突破できたのは、これだけか」


「はぁ、はぁ……そうねぇ」


 御手洗由美も、さすがに息が上がっていた。


 それでも笑みは崩さない。


「でも、やるしかないんじゃないかしら?」


「ふふ。若かりし頃の血が滾るのぉ……」


「そうねぇ♡」


 二人は顔を見合わせた。

 そこへ——。


「おぉーーっほっほっほっほ❤️」


 前方から野太い高笑いが響いた。


 大殿欣二、松栖流高校総大将。そして波理日の右腕。


 鎌を肩に乗せ、ねっとりとした笑みを浮かべている。その背後には、松栖流の近衛兵と大将騎馬。


 ようやく射程距離に入った本命だった。


「あの乱戦を抜けて、よくここまで辿り着けたわねぇ♡ 褒めてあげるわぁん♡」


「本人のお出まし」


 瑠衣が呟く。


 大殿は、瑠衣を見て嬉しそうに目を細めた。


「これはこれは、玉狩り姫に校長先生方。ようこそ♡ でも、この辺りで仲良くリタイアしていただきましょうか♡」


「寝言はお布団の中で言えばいい」


 瑠衣は双剣を構えた。


「リタイアするのは、そっちの方」


「あらぁん♡ 中々言うわねぇ♡」


 大殿の鎌が、ゆっくりと下がる。


 周囲の松栖流近衛兵たちも、武器を構えた。


 距離は近い。


 数は不利。


 こちらの体力も残っていない。


 それでも、ここを抜けば大将に届く。


 瀬戸際校長は柔らか剣を構え、御手洗由美は鞭を鳴らす。


「生意気な学生には、お仕置きが必要だな。由美!」


「ええ! 吉津、鳴葉! 他のみんなも……ここが勝負所! 気合いよ!!」


「「はいっ!!」」


 尼剃根栖精鋭が応じる。


 瑠衣も、静かに腰を落とした。


 そして、瀬戸際校長と御手洗由美が同時に名乗りを上げようとする。


「柔らか剣聖――」


「西のジャンヌダルク――」


 二人の声が重なる。


「「参……!!」」


 ぐきっ。


 ………………


 ……とても嫌な音がした。


 戦場に、ありえないほど嫌な音がした。


「「ふぐあっ!!」」


 瀬戸際校長と御手洗由美が、同時に腰を押さえて崩れた。


「こ、腰、腰が……!」


「た、たんまたんま! 待って、腰、腰が取れちゃう!」


「お、お姉さま――!!」


 吉津と鳴葉の悲鳴が重なる。


 大殿欣二は、その光景を見て、深いため息をついた。


「……はあ。なんだかデジャヴな幕切れねぇ……」


 大殿は鎌を軽く振る。


「近衛兵の皆。やっておしまいなさい♡ もちろん腰を集中的に、ね♡」


「「ご覚悟!!」」


 松栖流近衛兵たちが、一斉に踏み込んだ。


「ちょっ……ちょっと待って! ね? お願い待って!」


「た、たんま! 本当に今は無理! 腰が! 腰が本当に!」


 瀬戸際校長と御手洗由美は、情けない声を上げながら、それでも必死に武器を構えようとする。


 だが、足が動かない。


 腰が終わっている。


 獲物に群がる蟻のように松栖流の近衛兵たちが止めを刺しに行った。


 その時。


 瑠衣が、静かに言った。


「……皆、今がチャンス」


 吉津が目を見開く。


「へ?」


 鳴葉も固まる。


「でも、お姉さま達が!」


「校長ごと殺ろう(いこう)


「え?」


 瑠衣は無表情のまま続けた。


「負けてもローションを被るだけ。死んだりしない」


 恐ろしく冷静だった。


 あまりにも正論だった。


 そして、あまりにも容赦がなかった。


 鳴葉が一瞬だけ考える。


「あ、そっか」


「鳴葉!?」


 御手洗由美が悲鳴を上げる。


「え? ちょっと鳴葉? あ、そっかって! あ。や、いやぁーーー!!」


「お姉さま! ごめんなさぃい!」


 鳴葉がなんだかちょっと嬉しそうな顔で突っ込む。


 吉津も顔を少し紅潮させながら、盾を構えた。


「ああ! お姉さまーー!」


 尼剃根栖精鋭が、校長ズに群がる松栖流近衛兵へ突っ込む。


 その進路上には、腰を押さえて動けない瀬戸際校長と御手洗由美もいた。


 瑠衣が動く。


 低く、速く、静かに。


「柳流」


 双剣が走る。


「玉砕き」


 松栖流近衛兵の武器を弾く。


 次の一撃で、足を止める。


 三撃目で、判定を取る。


 赤いローションが落ちる。


 同時に、巻き込まれた瀬戸際校長にも判定が入った。


「ぬわぁっ! ま、巻き添えー!?」


 頭上から赤いローションが、どぼん、と落ちる。


 瀬戸際校長、リタイア。


「校長先生!?」


 遠くで遥の声がした気がした。


 だが、瑠衣は止まらない。


「由美お姉さまっ!」


 吉津と鳴葉が叫ぶ。


 御手洗由美は、腰を押さえたまま涙目で笑った。


「いいのよ……行きなさい……でも、あとで慰めなさい……!」


「はいっ!!」


 そして次の瞬間、御手洗由美にもローションが落ちた。


「いや、はぁんっ! 冷たいっ!」


 御手洗由美、リタイア。


 戦場としては合理的。


 人情としては最悪。


 だが、その犠牲で松栖流近衛兵の足は止まった。


 瑠衣は双剣を構え直す。


「吉津ちゃん、鳴葉ちゃん」


「は、はい!」


「他の四人と協力して、残り三騎、五分でいい、持ち堪えて」


 瑠衣の目が、大殿欣二へ向く。


「その間に、総大将は瑠衣がやる」


 吉津は、息を呑んだ。


 鳴葉も、目を見開く。


 自分たちのお姉さまを巻き込んでまで勝ち筋を取りに行く。


 それは冷酷に見えた。


 だが、その判断の速さと迷いのなさは、紛れもなく戦場の強さだった。


「る、瑠衣ちゃん、かっこいい……!」


「これが玉狩り姫……! なんて容赦の無い……素敵……!」


「散って」


「「はい!! 瑠衣お姉さま! 見ててください!!」」


「お姉さまが増えた」


 瑠衣の背筋が少し凍えた気がした。


 たぶん気のせい。


 大殿欣二は、その一部始終を見て、ゆっくりと笑った。


「校長ごと切り伏せるとはねぇ♡ 少し見くびっていたようね♡」


「大丈夫。実際に死ぬわけじゃない」


「うっふーん♡ 四姉妹最速の剣姫、玉狩り姫♡ 相手に不足なし、ねぇ♡」


 大殿の鎌が、弧を描く。


 空気が、ねっとりと重くなる。


「いざ尋常に勝負! よーん♡」


「尋常?」


 瑠衣は首を傾げる。


「この戦場で?」


「言ってみただけよぉ♡」


「ならいい」


 次の瞬間、瑠衣が消えた。


 いや、消えたように見えた。


 大殿の鎌が、反射的に下へ走る。


 発泡スチロール製の軽い素材同士がぶつかっただけの音が戦場に響き渡った。


 けれど、その一撃は、この戦いがクライマックスに近づいていることを示すには十分だった。


 玉狩り姫と、鎌使いのマッスル軍師。


 二人の勝負が、始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ