表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎馬戦記⭐︎ガールズナイツ  作者: mutsu!


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/59

六連撃は七度鳴る

「六、連、撃っ!!」


 ――風が鳴る。


 一撃目。


 右手に持った遥のバスターソード——全長170センチ、刃幅50センチの大剣が、大外から面で振るわれた。

 空気抵抗? なにそれ美味しいの? とでも言いそうな(はや)さで、真正面から迫る三人の槍を(はた)き落とした。


「「えっ!?」」


 二撃目。


 反応できずにいた松栖流の盾の隙間、首筋へと剣を走らせる。一人目、喉元の突き刺し判定。素早く引き抜いたその手を滑らせ、右手の小指側を起点に持ち手の向きを入れ替え……。


 三撃目。返す刀で二人目を斬り付ける。


 そのまま腰を沈めた遥は、右足を軸に回転! 右手側、横合いから押し込んできた盾に左足で蹴りを入れる。騎馬戦(ナイツゲーム)において、プレイヤーへの直接打撃は禁止だが、盾への直接攻撃は認められている。


「ぐあっ――!」

 松栖流の選手が呻く。


 四撃目。


 その反動を利用して、遥は小さな身体をさらに小さく畳み込む! 角運動量保存の法則が、さらに(はや)くその身体を回した。左手側、後方に迫っていた別の敵の胴を逆胴方向に盾と槍ごと切り飛ばす。

 遥のバスターソードは、本人の身長よりも大きな巨大剣のはずなのに、まるで剣の方が遥に合わせて踊っているようだった。


 いや、違う。


 剣と遥に、戦場が踊らされている。


 そんなよくわからない光景だった。

 だが本人は……


「せぇぇい!」


「ぐあっ!」


 赤いローションが落ちる。


 五撃目。


「そこ!」


「うわっ!?」


 もう一つ落ちる。


 六撃目。


「もいっちょーっ!」


 めっちゃ軽いノリである。


「なんでそんな軽いノリで――ぐえっ!」


 そして七撃目。


 遥は足を止めた。


 止まった、ように見えた。


 だが実際には、踏み込みの反動を膝で殺し、腰を沈め、全身をばねみたいに縮めていただけだった。


「ラストォッ!!」


 どん、と地面が鳴る。


 溜め込んだ力が一気に解放される。


 下から上へ。


 跳ね上がるような斬撃が、松栖流部隊の最後尾にいた選手の盾を押し上げ、そのまま体勢ごと吹き飛ばした。


「ぐおおおっ!?」


 空中で赤いローションが落ちる。


 落ちるというより、噴水みたいに弾けた。


「うわ、派手」


 遥は自分でやっておいて少し引いた。


 横にはみ出していた松栖流の歩兵部隊は、ほんの数十秒で半壊していた。


 いや、半壊どころではない。


 残っている者たちも、すでに足が止まっている。


 遥一人を相手にしているはずなのに、いつの間にか部隊全体が“遥を中心にした戦場”へ引きずり込まれていた。


 そこが、恐ろしい。


 牛島遥は考えない。


 細かい読み合いも、緻密な誘導も、結女ほど得意ではない。


 けれど、目の前の空気を力づくで変えることができる。


 敵の視線を奪い、足を止め、戦場の流れを自分の方へ捻じ曲げる。


 だからこそ、彼女は先頭に立てる。


 だからこそ、結女は彼女を迷わず放り込める。


「はるちゃん、戻ってー」


「もういいの!?」


「いいわー。そこはもう止まったものー」


 結女は、遠くからでも分かるくらいににこりと笑っていた。


「戻りながら、中央の横腹を軽く撫でてきてー」


「撫でる?」


「そう。優しくねー」


「おっけー! 優しくね!」


 遥は元気よく返事をした。


 その返事を聞いた松栖流の選手たちは、全員が同時に思った。


 絶対に優しくない。


     ◇


 実況席では、羽月鋼が頭を抱えていた。


「牛島選手! 横へ展開していた松栖流部隊をほぼ単騎で停止させました! いや、停止というより、これはもう……」


「交通事故ですね」


「木戸さん!?」


「いえ、競技上はもちろん正当な攻撃です。ただ、絵面としては完全に交通事故です」


「否定できないのがつらい!」


 モニターには、バスターソードを担いだまま中央へ戻っていく遥の姿が映っていた。


 戻っていく。


 ただし、まっすぐ戻るのではない。


 中央で郁佳たちを押し込んでいる松栖流長槍隊の斜め後方を、すれすれに通過していく軌道だった。


 木戸が目を細める。


「日野選手、上手いですね」


「と言いますと?」


「牛島選手をただ戻すのではなく、戻る途中で中央の敵陣に圧をかけさせています。倒せなくてもいい。反応させるだけでいい。松栖流の長槍隊は整然とした連携が強みですが、逆に言えば、横から異物を差し込まれると一瞬だけ呼吸が乱れます」


「なるほど! つまり今の牛島選手は、戻りながら敵の陣形に嫌がらせをしているわけですね!」


「はい。言い方を選ばなければ」


「選びませんでしたね!」


     ◇


「行っくぞーーっ!」


 遥が走る。


 バスターソードを担ぎ、松栖流の中央隊列の外側を駆け抜ける。


「来たぞ!」


「横を警戒!」


「隊列を乱すな!」


 松栖流側の指揮が飛ぶ。


 さすがに反応が早い。遥が近づいた瞬間、外側の選手たちが盾を向け、槍を少しだけ横へ振った。


 だが、その“少し”でよかった。


 正面から郁佳へ打ち込まれていた槍の圧が、ほんの一瞬だけ薄れる。


「今!」


 郁佳が叫んだ。


 瀬戸際側の前列が、同時に半歩前へ出る。


 押し返す。


 ほんの半歩。


 けれど、その半歩が大きかった。


「よし、戻った!」


 郁佳が息を吐く。


 押し込まれ続けていた防衛線が、ようやく元の位置を取り戻したのだ。


 和音が大鉈を構えたまま笑う。


「ふははは! さすがは遥! おかげで流れが戻ったな!」


 波理日本隊の差し込みに対し、和音が正面を受け、よしおが横から斬り込む。宇恵井高校仕込みのノリの軽さとは裏腹に、よしおの剣は意外と鋭い。


 いや、鋭くなっていた。


 結女絡みで暴走した男とは思えないほど、今のよしおは集中している。


「うえーいっ!」


 気合いの声だけはいつも通り軽い。


 だが、斬撃は軽くない。


 踏み込み、切り返し、離脱。


 波理日本隊の一人が、反応しきれずに胸部判定を受けた。


「ぐっ!」


 赤いローションが落ちる。


「よし!」


 よしおが拳を握る。


 その瞬間、後ろから結女の声が飛んできた。


「よしおくーん」


「はいっ!?」


 声が裏返った。


「調子に乗らないでねー」


「はいっ!!」


 返事が早い。


 あまりにも早い。


 和音が横目で見る。


「……君、さっきまでの勢いはどうした?」


「命は大事にしろって、俺様、今日学んだ」


「実感がこもっているな」


 その間にも、戦況は動き続けていた。


 遥が側面から戻り、郁佳の防衛線が半歩押し返し、和音とよしおが波理日本隊の差し込みを止める。


 崩れかけていた瀬戸際・尼剃根栖連合軍の中央は、ひとまず持ち直した。


 だが、それはあくまで“ひとまず”だった。


 波理日本隊の奥。


 まだ動いていなかった筋肉特戦隊が、ゆっくりと前へ出てきていた。


 空気が、濃くなる。


 比喩ではない。


 たぶん、物理的に濃くなっている。


「……来た」


 瑠衣が呟いた。


 その声には、ほんの少しだけ温度があった。


 警戒。


 いや、期待。


 どちらにも聞こえる声だった。


 前方で、大殿欣二が鎌を肩に担ぎ、艶やかに笑っていた。


「うふふふふ❤ なかなかやるじゃなぁい、小娘ちゃんたち❤」


 その隣で、大胸金之助が槍を振り回し、三角近一郎が二本の大剣を担ぎ、僧帽欽也が剣を静かに構える。


 筋肉特戦隊。


 暑苦しい名前。


 暑苦しい見た目。


 暑苦しい存在感。


 しかし、全国準優勝校の中核を担った本物の実力者たちである。


 遥が、戻ってきた足を止めた。


「うわぁ……」


 心底嫌そうな声だった。


「濃い」


 瑠衣が言った。


「うん、濃いね」


 郁佳も言った。


「ウェーイ……なんか、空気がプロテイン味になった気がするぜ」


 よしおが嫌そうに呟き、

 和音が顔に縦線を入れる。


「プロテイン味の空気とは何だ……?」


 だが、誰も否定できなかった。


 結女は、その濃すぎる敵影を見つめて、ゆっくりと笑う。


「ようやく出てきたわねー」


 待っていた。


 最初から。


 松栖流を削り、波理日本隊を前に出させ、その奥にいる本命を引きずり出す。


 ここから先は、ただ耐えるだけでは勝てない。


 相手の強い駒を、どこで、誰に、どうぶつけるか。


 盤面の温度が変わる。


 結女はタクトを振る。


「瑠衣ちゃん」


「了解」


 まだ何も言っていない。


 それでも、瑠衣は答えた。


 双剣を軽く回す。


 遥が太陽なら瑠衣は月なのだろう。硬質とはいえ、発泡スチロール製の小さな刃が、金属でもないのに太陽の光を反射した気がした。


「瑠衣の出番」


 その目が、すっと細くなる。


「ファルファル祭り、第二部開幕」

面白い! 続きが気になる!と思ってくれたそこの君っ!

評価ボタンとブックマークを押すのだ⭐︎


さて、次回は瑠衣回かな



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ