六連撃は七度鳴る
「六、連、撃っ!!」
――風が鳴る。
一撃目。
右手に持った遥のバスターソード——全長170センチ、刃幅50センチの大剣が、大外から面で振るわれた。
空気抵抗? なにそれ美味しいの? とでも言いそうな迅さで、真正面から迫る三人の槍を叩き落とした。
「「えっ!?」」
二撃目。
反応できずにいた松栖流の盾の隙間、首筋へと剣を走らせる。一人目、喉元の突き刺し判定。素早く引き抜いたその手を滑らせ、右手の小指側を起点に持ち手の向きを入れ替え……。
三撃目。返す刀で二人目を斬り付ける。
そのまま腰を沈めた遥は、右足を軸に回転! 右手側、横合いから押し込んできた盾に左足で蹴りを入れる。騎馬戦において、プレイヤーへの直接打撃は禁止だが、盾への直接攻撃は認められている。
「ぐあっ――!」
松栖流の選手が呻く。
四撃目。
その反動を利用して、遥は小さな身体をさらに小さく畳み込む! 角運動量保存の法則が、さらに迅くその身体を回した。左手側、後方に迫っていた別の敵の胴を逆胴方向に盾と槍ごと切り飛ばす。
遥のバスターソードは、本人の身長よりも大きな巨大剣のはずなのに、まるで剣の方が遥に合わせて踊っているようだった。
いや、違う。
剣と遥に、戦場が踊らされている。
そんなよくわからない光景だった。
だが本人は……
「せぇぇい!」
「ぐあっ!」
赤いローションが落ちる。
五撃目。
「そこ!」
「うわっ!?」
もう一つ落ちる。
六撃目。
「もいっちょーっ!」
めっちゃ軽いノリである。
「なんでそんな軽いノリで――ぐえっ!」
そして七撃目。
遥は足を止めた。
止まった、ように見えた。
だが実際には、踏み込みの反動を膝で殺し、腰を沈め、全身をばねみたいに縮めていただけだった。
「ラストォッ!!」
どん、と地面が鳴る。
溜め込んだ力が一気に解放される。
下から上へ。
跳ね上がるような斬撃が、松栖流部隊の最後尾にいた選手の盾を押し上げ、そのまま体勢ごと吹き飛ばした。
「ぐおおおっ!?」
空中で赤いローションが落ちる。
落ちるというより、噴水みたいに弾けた。
「うわ、派手」
遥は自分でやっておいて少し引いた。
横にはみ出していた松栖流の歩兵部隊は、ほんの数十秒で半壊していた。
いや、半壊どころではない。
残っている者たちも、すでに足が止まっている。
遥一人を相手にしているはずなのに、いつの間にか部隊全体が“遥を中心にした戦場”へ引きずり込まれていた。
そこが、恐ろしい。
牛島遥は考えない。
細かい読み合いも、緻密な誘導も、結女ほど得意ではない。
けれど、目の前の空気を力づくで変えることができる。
敵の視線を奪い、足を止め、戦場の流れを自分の方へ捻じ曲げる。
だからこそ、彼女は先頭に立てる。
だからこそ、結女は彼女を迷わず放り込める。
「はるちゃん、戻ってー」
「もういいの!?」
「いいわー。そこはもう止まったものー」
結女は、遠くからでも分かるくらいににこりと笑っていた。
「戻りながら、中央の横腹を軽く撫でてきてー」
「撫でる?」
「そう。優しくねー」
「おっけー! 優しくね!」
遥は元気よく返事をした。
その返事を聞いた松栖流の選手たちは、全員が同時に思った。
絶対に優しくない。
◇
実況席では、羽月鋼が頭を抱えていた。
「牛島選手! 横へ展開していた松栖流部隊をほぼ単騎で停止させました! いや、停止というより、これはもう……」
「交通事故ですね」
「木戸さん!?」
「いえ、競技上はもちろん正当な攻撃です。ただ、絵面としては完全に交通事故です」
「否定できないのがつらい!」
モニターには、バスターソードを担いだまま中央へ戻っていく遥の姿が映っていた。
戻っていく。
ただし、まっすぐ戻るのではない。
中央で郁佳たちを押し込んでいる松栖流長槍隊の斜め後方を、すれすれに通過していく軌道だった。
木戸が目を細める。
「日野選手、上手いですね」
「と言いますと?」
「牛島選手をただ戻すのではなく、戻る途中で中央の敵陣に圧をかけさせています。倒せなくてもいい。反応させるだけでいい。松栖流の長槍隊は整然とした連携が強みですが、逆に言えば、横から異物を差し込まれると一瞬だけ呼吸が乱れます」
「なるほど! つまり今の牛島選手は、戻りながら敵の陣形に嫌がらせをしているわけですね!」
「はい。言い方を選ばなければ」
「選びませんでしたね!」
◇
「行っくぞーーっ!」
遥が走る。
バスターソードを担ぎ、松栖流の中央隊列の外側を駆け抜ける。
「来たぞ!」
「横を警戒!」
「隊列を乱すな!」
松栖流側の指揮が飛ぶ。
さすがに反応が早い。遥が近づいた瞬間、外側の選手たちが盾を向け、槍を少しだけ横へ振った。
だが、その“少し”でよかった。
正面から郁佳へ打ち込まれていた槍の圧が、ほんの一瞬だけ薄れる。
「今!」
郁佳が叫んだ。
瀬戸際側の前列が、同時に半歩前へ出る。
押し返す。
ほんの半歩。
けれど、その半歩が大きかった。
「よし、戻った!」
郁佳が息を吐く。
押し込まれ続けていた防衛線が、ようやく元の位置を取り戻したのだ。
和音が大鉈を構えたまま笑う。
「ふははは! さすがは遥! おかげで流れが戻ったな!」
波理日本隊の差し込みに対し、和音が正面を受け、よしおが横から斬り込む。宇恵井高校仕込みのノリの軽さとは裏腹に、よしおの剣は意外と鋭い。
いや、鋭くなっていた。
結女絡みで暴走した男とは思えないほど、今のよしおは集中している。
「うえーいっ!」
気合いの声だけはいつも通り軽い。
だが、斬撃は軽くない。
踏み込み、切り返し、離脱。
波理日本隊の一人が、反応しきれずに胸部判定を受けた。
「ぐっ!」
赤いローションが落ちる。
「よし!」
よしおが拳を握る。
その瞬間、後ろから結女の声が飛んできた。
「よしおくーん」
「はいっ!?」
声が裏返った。
「調子に乗らないでねー」
「はいっ!!」
返事が早い。
あまりにも早い。
和音が横目で見る。
「……君、さっきまでの勢いはどうした?」
「命は大事にしろって、俺様、今日学んだ」
「実感がこもっているな」
その間にも、戦況は動き続けていた。
遥が側面から戻り、郁佳の防衛線が半歩押し返し、和音とよしおが波理日本隊の差し込みを止める。
崩れかけていた瀬戸際・尼剃根栖連合軍の中央は、ひとまず持ち直した。
だが、それはあくまで“ひとまず”だった。
波理日本隊の奥。
まだ動いていなかった筋肉特戦隊が、ゆっくりと前へ出てきていた。
空気が、濃くなる。
比喩ではない。
たぶん、物理的に濃くなっている。
「……来た」
瑠衣が呟いた。
その声には、ほんの少しだけ温度があった。
警戒。
いや、期待。
どちらにも聞こえる声だった。
前方で、大殿欣二が鎌を肩に担ぎ、艶やかに笑っていた。
「うふふふふ❤ なかなかやるじゃなぁい、小娘ちゃんたち❤」
その隣で、大胸金之助が槍を振り回し、三角近一郎が二本の大剣を担ぎ、僧帽欽也が剣を静かに構える。
筋肉特戦隊。
暑苦しい名前。
暑苦しい見た目。
暑苦しい存在感。
しかし、全国準優勝校の中核を担った本物の実力者たちである。
遥が、戻ってきた足を止めた。
「うわぁ……」
心底嫌そうな声だった。
「濃い」
瑠衣が言った。
「うん、濃いね」
郁佳も言った。
「ウェーイ……なんか、空気がプロテイン味になった気がするぜ」
よしおが嫌そうに呟き、
和音が顔に縦線を入れる。
「プロテイン味の空気とは何だ……?」
だが、誰も否定できなかった。
結女は、その濃すぎる敵影を見つめて、ゆっくりと笑う。
「ようやく出てきたわねー」
待っていた。
最初から。
松栖流を削り、波理日本隊を前に出させ、その奥にいる本命を引きずり出す。
ここから先は、ただ耐えるだけでは勝てない。
相手の強い駒を、どこで、誰に、どうぶつけるか。
盤面の温度が変わる。
結女はタクトを振る。
「瑠衣ちゃん」
「了解」
まだ何も言っていない。
それでも、瑠衣は答えた。
双剣を軽く回す。
遥が太陽なら瑠衣は月なのだろう。硬質とはいえ、発泡スチロール製の小さな刃が、金属でもないのに太陽の光を反射した気がした。
「瑠衣の出番」
その目が、すっと細くなる。
「ファルファル祭り、第二部開幕」
面白い! 続きが気になる!と思ってくれたそこの君っ!
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さて、次回は瑠衣回かな




