表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎馬戦記⭐︎ガールズナイツ  作者: mutsu!


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
40/63

仕切り直しと遥な災害

 結女は満足そうに立ち上がると、すぐに盤面へ意識を戻した。


 つい数秒前まで、恋愛裁判の被告人みたいに正座させられていた田中よしおなど、もう見ていない。


 いや、正確には見ている。


 見ているが、それは“反省した男の子”としてではなく、“今から使える戦力”として見ていた。


 ひどい。


 だが、戦場とはそういうものだった。


「さぁ、仕切り直しよー!」


 結女の声が、ふわりと飛ぶ。


 その声音だけ聞けば、放課後に「じゃあ次はどこ行くー?」とでも言っているみたいだった。けれど、飛ばされた指示は甘くない。


「まずは重音先輩とよしおくんは、代わりに援護に入ってくれてる校長先生の部隊とチェンジしてー。郁ちゃんの後ろに戻ってちょうだい」


「了解!」


「う、うえーい! りょ、了解っ!」


 和音は即座に大鉈を担ぎ直し、よしおはまだ若干涙目のまま立ち上がった。


 顔面にドロップキックを受けた直後とは思えない回復力である。恋する男子高校生の生命力は、時にゴキ――いや、強い。


「瑠衣ちゃんは、もう少し待機ねー」


「了解。瑠衣は待てる女」


 瑠衣は双剣を逆手に構えたまま、静かに頷いた。


 待機と言われているのに、目だけは完全に獲物を見ている。待てる女ではあるが、待ったあとに何をするかはあまり考えたくない。


「はるちゃんはー」


「はい!」


 遥が元気よく嬉しそうに返事をした。ぶんぶんと振り回す尻尾が見えそうである。


「そろそろ横に張り出してきた敵グループを狩ってきてー」


「おっけー!」


 返事が軽い。


 あまりにも軽い。


 まるで「ちょっとコンビニ行ってきてー」と言われたくらいのノリだった。


 だが、遥の視線の先にいるのはコンビニではない。松栖流高校の長槍隊から横に広がり、瀬戸際側の防衛線を包み込もうとしている複数の歩兵部隊である。


 相手は筋肉のエリート校。


 しかも、ただ暑苦しいだけではない。松栖流は基礎が固い。陣形を崩さず、じわじわと圧をかけ、こちらの隙を見て噛みついてくる。


 普通に強い。


 だからこそ、厄介だった。


「じゃ、行ってくる!」


 遥はバスターソードを肩に担ぎ、にっと笑った。


 次の瞬間――地面が、どん、と鳴った。


 踏み込み。


 たった一歩で、遥の身体が前へ跳ぶ。


 小柄な体格からは想像できない加速だった。いや、そもそも百五十二センチの女子高生が、身の丈に合わない巨大な武器を担いで突っ込んでくる時点で、だいぶ想像の範囲外である。


 松栖流の横展開部隊が、それに気づいた。


「来るぞ!」


「牛島遥だ!」


「電光石火を止めろ!」


 槍が並ぶ。


 横に張り出した部隊が、即座に迎撃態勢を取った。判断は速い。さすが全国上位校。横槍を入れる側でありながら、横からの奇襲にも反応できる。


 だが。


「遅いっ!」


 遥が笑う。


 その笑顔は明るい。健康的で、太陽みたいで、見ているだけなら元気をもらえるタイプの笑顔だ。


 ただし、今その笑顔は、巨大なバスターソードを振りかぶりながら突っ込んできている。


 つまり怖い。


「せぇぇぇえいっ!!」


 轟、と風が鳴った。


 横薙ぎ。左足を大きく前に踏み込んでの一撃。

 アタックファースト。

 ジークンドーのパンチファーストを剣に置き換えたような、踏み込みと斬撃をほぼ同時に叩き込む技術。

 足が地面に着く寸前に振り抜かれた一撃には、突進のスピードと体重がそのまま乗る。

 スポチャン素材の巨大剣が、空気ごとまとめて切り裂いた!


「ぐおっ!?」


「うわっ!」


「重っ――!」


 三人がまとめて後ろへ弾かれた。


 直撃ではない。正確には、盾と槍で受けた。受けたのに、押し飛ばされた。


 それを見た松栖流の一人が、思わず叫ぶ。


「なんだその馬鹿力!」


「失礼ね!」


 遥は右足を畳むように左足へと寄せ、もう一度素早く踏み込む。


「これは馬鹿力じゃなくて、努力と根性と日々の運動量によって培われた健全な身体能力よ!」


「つまり馬鹿力じゃねえか!」


「うるさい!」


 二撃目。


 今度は右斜め下からの切り上げだった。


 槍の穂先を跳ね上げ、盾を浮かせ、体勢を崩す。空中で一回転させた剣先を、敵の浮いた体にさらに一閃!


「どっせい!」


「ぐはっ!」


 判定が入った。某ガッツさんのドラゴン殺しなら体が上下に真っ二つになっているところだ。


 頭上から赤いローションが、どぼん、と落ちる。


 一人リタイア。


 そのすぐ横、別の松栖流部員が槍を突き込んでくる。


 速い。


 鋭い。


 普通の相手なら、ここで足が止まる。むしろ止まらなければ危ない。


 だが遥は止まらない。


 バスターソードごと体を小さくたたみ込み、回転力を上げる。左足を軸に身体をひねり、武器の腹でパーリングしながらギリギリで槍先をかわす。そのままバスターソードの腹で槍を叩き落とした。


「はい、そこ!」


「しまっ――」


「どっかーん!」


 擬音を自分で言いながら、遥は相手の胸部判定へ剣先を叩き込んだ。


 赤いローションが、また落ちる。


「どっかーんって何だよ!」


 落とされた松栖流部員が叫ぶ。


「技名!」


「雑!」


 そのツッコミは正しい。


 だが、ツッコミを入れられる者から戦場を去っていくのがこの競技である。悲しい世界だった。


     ◇


 実況席では、羽月鋼が身を乗り出していた。


「どうやら瀬戸際高校、先ほどのトラブルは解決した模様です! 最前線の部隊を入れ替え、再び前線維持に入っています!」


 その横で、木戸菜月はにこやかに頷く。


 にこやかに頷いてはいるが、目が笑っていない。


「そうですね。田中選手はあとで殺……ごほん、個人的に、じっくり、ねっとり、しっかりと確認するとして――」


「木戸さん?」


「今は試合です」


「木戸さん、今なんだかすごく怖いことを言いかけませんでした?」


「気のせいです」


 気のせいではない。


 しかし羽月は深追いしなかった。実況者にも生存本能はある。


「えー、では戦況に戻りましょう! 現在、松栖流高校の長槍隊は中央で長谷部郁佳選手を軸とする防衛線と激突中! しかし攻めあぐねた一部が横へ張り出し、包囲を狙っていました!」


「そこへ牛島遥選手が単騎で突入。横に広がった松栖流部隊を次々と削っていますね」


 木戸はモニターを見つめながら言った。


「まさに、暴れ牛です」


「牛島選手だけに?」


「牛島選手だけに」


「木戸さん、顔が真面目すぎて逆に怖いです」


 画面の中では、遥がさらに一人を吹き飛ばしていた。


「うりゃああ!」


「ぐふっ!」


 赤いローションが落ちる。


 松栖流の横展開部隊は、遥一人を止めるために足を止めざるを得なくなっていた。


 つまり、それは本来の目的――郁佳の防衛線を側面から崩す動きが止まったということでもある。


 たった一人が横にいるだけで、部隊全体の動きが鈍る。


 それが牛島遥だった。


     ◇


 中央では、郁佳が歯を食いしばっていた。


「右、詰めて! 左は下がらない! 二列目、槍を受けたらすぐ交代!」


 声を飛ばし続ける。


 腕は重い。肩が熱い。何度も受けた衝撃が、骨にまで響いている気がした。


 それでも、崩れない。


 崩せない。


 ここが抜かれれば、後ろにいる結女へ道が開く。


 それだけは絶対に許せなかった。


「ふみちゃん、無理しすぎないでねー」


 後方から結女の声が届く。


「無理しないと止まらないんだよ!」


 郁佳が返す。


「そうねー。じゃあ、無理しすぎない程度に無理してー」


「注文が難しい!」


 ツッコミながら、郁佳は長剣を振るう。


 振り下ろされた槍を受け、流し、隣の味方へ飛んだ追撃を弾く。


 そこへ、背後から足音が近づいた。


「郁佳、戻った!」


 和音の声。


 その横で、よしおも叫ぶ。


「ウエーイ! 俺様も戻ったぜ! さっきはマジですまん!」


「謝罪はあと!」


 郁佳は前を見たまま叫んだ。


「今は右後方! 波理日本隊が差し込んできてる!」


「了解!」


 和音が大鉈を構え、よしおも剣を握り直す。


 さっきまで味方を斬ろうとしていた男とは思えないほど、よしおの目は澄んでいた。


 いや、澄んでいるというより、必死だった。


 結女に嫌われたくない。


 ファルファル祭りの餌食にもなりたくない。


 そしてなにより、嵌められたまま終わるのは――死ぬほど格好悪い。


「重音!」


「なんだ?」


「あとで殴ってくれていい!」


「ふん、もう遥に蹴られていたであろう?」


「あれはあれ! これはこれだ!」


「律儀だな、君は!」


 二人は並ぶ。


 ついさっきまで斬り合っていたのに、今は同じ方向を見ている。


 その様子を後方から見た結女は、ふっと笑った。


「うんうん。男の子は単純で助かるわねー」


「結女ちゃん」


 瑠衣が隣で呟く。


「なあに?」


「今の台詞、かなり悪役」


「そうかしらー?」


「たぶん黒姫」


「失礼ねー」


 そう言いながら、結女はまったく否定しなかった。


 盤面は、まだ苦しい。


 松栖流の中央は固く、波理日本隊は静かに圧を増し、奥には筋肉特戦隊と波理日校長が控えている。


 けれど、先ほどまでの危うい乱れは消えた。


 よしおの復帰。


 和音の再配置。


 遥による側面処理。


 郁佳の防衛線。


 瑠衣の温存。


 ひとつひとつの駒が、ようやく本来の場所へ戻っていく。


 結女は静かに息を吸った。


 まだ、切り札は切らない。


 まだ、焦る時間ではない。


 相手が波理日本隊を前に出してくるなら、こちらはその奥にいる“濃すぎる本命”を引きずり出す必要がある。


 そのためには――。


「はるちゃーん!」


 結女がインカムから音声を飛ばす。


「なにー!?」


 遥はちょうど一人を吹き飛ばしたところだった。


「そっち、あと三十秒で片づけて戻れるー?」


「三十秒!?」


 遥が一瞬だけ目を丸くする。


 そして、すぐに笑った。


「十分!」


 バスターソードを両手で握り直す。


 その先には、まだ数人の松栖流部隊。


 彼らは一斉に身構えた。


 その顔には、明らかな警戒が浮かんでいる。


 無理もない。


 目の前にいるのは、笑顔で突っ込んでくる小柄な災害だった。


「じゃあ、いくわよ!」


 遥の足が地面を蹴る。


「燃えよ、バスターソード!」


 叫びとともに、巨大な剣が振り上がる。


「六連撃ぃぃぃっ!!」


 ——風が、七度鳴った。嘘つきである。

面白いと思って頂けた方、続き書きになると思って頂けた方。

ぜひ評価とコメント、ブックマークをお願いします!


音声ドラマ版はこちら。

https://youtube.com/playlist?list=PLVSUz-V5BkIQMpYQMlyCQSG6MJC7N4Qij&si=ijTxuA7Ubeq8b1oU

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ