味方もだいぶ濃ゆかった件。
瀬戸際高校側の陣地にも、試合前特有の張り詰めた空気が満ちていた。
冬の冷気は鋭い。だが、それ以上に、これから始まる大一番の気配が肌を刺してくる。
視線の先には、波理日・松栖流の連合軍。人数も圧も、いつもの試合とは比べものにならない。
だがその緊張をぶち破る声が楽しそうに響く。
「あっという間に試合当日ね! 滾ってきた!!」
遥が、ぐっと拳を握って声を上げた。
「瑠衣はいつでもどんな時でもやる女。今日も今日とてファルファル祭り」
瑠衣は真顔のまま、物騒なのかよくわからない決意表明をする。
「はるちゃんと瑠衣ちゃんは、いつもの通り通常運転ねー。頼りにしてるわよー」
結女がくすくすと笑う。
「ふっふ~ん♪」
遥はない胸を張り、
「任せて、いっぱい切り落とす」
瑠衣さんはナニを……いや、なにを?
「……うん。本当に瑠衣が味方でよかったよ……本当に」
何を? とは聞いてはいけない。
和音が顔に縦線を入れたまま、心底から言い、郁佳が苦笑する。
「それにしても……いつもの倍の陣営、壮観ねー」
郁佳の言葉通りだった。
普段の試合なら、まだどこか部活の延長みたいな空気が残る。
だが今日は違う。
並ぶ人数も、構える武器も、立ちのぼる威圧感も、明らかに一段上だ。
その時だった。
背後から、ゆっくりと近づいてくる足音がした。
「そうねぇ。あたしが活躍するまでに負けたりしたら、承知しないわよぉ? 小娘ちゃん❤」
艶っぽい声音に、郁佳がはっと振り返る。
「潔岳校長っ!?」
「ふん。俺もいるぜ? 久しぶりだわね、電光石火」
続いて現れた男を見て、遥が目を丸くした。
「お、お前は!? ……誰だっけ?」
間髪入れずに、ずるっ、と盛大にこける音がした。
「潔岳の元部長だよ!! テンプレなボケをありがとよ!」
「あ、だっさい部長さん」
「だっさい言うなや! ぼけ!」
ぴしゃりと返す潔谷に、遥は悪びれもせず「あはは」と笑った。
御手洗由美はそんなやりとりを楽しそうに眺めてから、改めて郁佳の方へ視線を向ける。
「お久しぶりねぇ、小娘ちゃん❤」
「……どうしてあなたがここに?」
郁佳の問いには、驚きと警戒と困惑が入り混じっていた。しかも……
「私から説明をしよう」
そこへ、さらにもう一つ声が重なった。
「こ、校長先生っ!?」
郁佳の目はもうグルグルだ。
歩み出た瀬戸際校長は、咳払いを一つしてから、いつものように渋い顔を作った。
「以前から、波理日校長が尼剃根栖高校にも接触しているという情報が入っていてな。このまま三校同時に攻められると流石にまずい。そこで、そこの日野くんの提案もあって、彼女たちには尼剃根栖高校へ潜入してもらっていたのだ」
遥がぱちぱちと瞬きをする。
「潜入って……ほんとにそんなことしてたんだ!」
「してたのよぉ❤」
御手洗がふわりと髪を払った。
「条件は悪くなかったもの。来年あたり、瀬戸際高校の学年主任か教頭あたりで迎えるからどうか、ってね❤ 無職は嫌なの」
「うむ。私も職場は守らねばならんからな……」
瀬戸際校長が遠い目をした。
郁佳がじとっと結女を見る。
「……これも結女の差し金?」
結女はにこりと笑うだけだ。
「さあ、どうかしらー?」
「その顔は、そういう顔だよね……」
今度は郁佳の顔に縦線が入る。
御手洗はさらに得意げに胸を張った。
「そういうわけで、私は尼剃根栖高校に二年次編入し、騎士部を手中に収め、この場に戻ってきた、というわけ❤ だから今の私は正真正銘、花の女子高生よ❤」
遥、郁佳、瑠衣、和音の視線が一斉に固まる。
「「えっ!?」」
瑠衣が真顔のまま言った。
「……ロリババア、爆誕」
「誰がロリババアだこら!」
御手洗が食い気味に噛みつく。だが、すぐに咳払いし、何事もなかったかのようにツインテールを揺らした。
「まあいいわ❤ 今の私は貴女たちと同じ、現役花の女子高生❤ 些細なことで怒ったりしないわぁ❤️ ああ、ツインテールなんて、何年ぶりかしら❤」
「潜入して来いとは言ったが、まさかロリババアになるとは予想の斜め上だったがな……」
瀬戸際校長が頭を抱える。ロリババア言うなと全方位に突っ込みを入れる御手洗。
「さすがにこれは予想外だったわねー」
結女も苦笑する。
御手洗は満足そうに頷き、後ろの潔谷を親指で示した。
「それに、もちろん一人じゃないわ。潔谷君も一緒よ❤」
「俺も今は女子高生だ。……無駄に化粧が上手くなっちまったわよ……」
潔谷が死んだ目で言う。
「キャラクターがブレまくってるわね」と結女が言い、遥は「お、おう……」としか返せなかった。
「おい、電光石火? もう少し何かないの?」
「あるにはあるんだけど、どこから何をどう突っ込んだらいいのか分かんないのよ!」
その空気を断ち切るように、結女が手をぱんと叩いた。
「はいはい、その辺はまた今度ねー。今は試合前なんだからー」
そして、尼剃根栖側の二人へ視線を向ける。
「それで、そちらの二人は部隊長の吉津さんと鳴葉さん、で合ってるかしらー?」
「はい」
すっと前に出たのは、背筋の伸びた真面目そうな少女だった。
「吉津涼香です。御手洗お姉さまの未来の為、私の力を存分にお使いください」
言葉にも姿勢にも迷いがない。
真面目で、忠誠心が強く、しかもかなり重い。
「鳴葉楓だよー!」
もう一人は、その隣でぱっと手を振った。
「おぉー! 本物の黒姫ちゃんだ! テレビで見てたから、会えてちょっと感動してる! よろしくねー、由美お姉さまのために頑張るよ!」
こちらは明るい。
だが忠誠心のベクトルは、やはりだいぶ濃かった。
「こちらこそよろしくねー」
結女はにこやかに頷いた。
「二人は郁ちゃんの部隊の外側、少し後ろをキープしてー。合図を出したら、左右に配置した四十人の尼剃根栖高校の歩兵部隊と一緒に、中心へ向かって突撃よー」
「承知しました」
「わかったよー!」
即答だった。
御手洗は満足そうに目を細める。
「んふふふ❤ 吉津と鳴葉も頑張るのよ? 頑張ったら、ちゃーんと、ご褒美をあげるからねぇ❤」
「お姉さまのためなら、どこまでも!」
吉津がきっぱり言い切る。
鳴葉は勢いよく手を挙げた。
「おお! これは頑張らねば! お姉さま! 鳴葉は活躍出来たら、お尻ぺんぺんを希望します! 生が良いです!」
瀬戸際校長が盛大に吹いた。
「ぶふぉっ! 由美、お前どんな教育をしたんだ?」
御手洗は悪びれもせず、肩をすくめる。
「秘密よ❤ 女の園にはいろいろあるのよーん❤」
何を考えているのか、変わらずニコニコふわふわしている結女、相変わらず何を考えてるかわからない瑠衣。和音と遥と郁佳は顔に縦線を入れた。三人仲良く顎が外れそうである。
「……唐突に濃ゆいキャラをぶち込むのはやめて欲しいわ」
郁佳が心底疲れた声で言うと、遥も乾いた笑いを漏らした。
「あ、あはは……そうね……」
そこで、瀬戸際校長が一歩前へ出た。
「うむ。では改めて確認だ。郁佳くんの防衛ラインを軸に前半を受け切る。由美たちアマゾネス部隊は突入のタイミングまで待機。そうだったね? 日野くん」
「はい、間違いないですねー」
「全体指揮を頼む」
「了解でーす」
結女はいつもの調子で返事をしたが、その目はもう盤面を見ていた。
「郁ちゃん。前線はあなたが要よー。まずは損耗を抑えて受け切ること。乱れたら全部終わるから、そこだけは絶対に崩さないでー」
「了解」
「重音先輩とよしお君は、郁ちゃんの後ろ、前線と後方部隊を繋ぐ中間地点でー、主力部隊として直接指示を出していってー」
「了解。田中君、援護を頼むね」
「……ああ」
よしおは短く答えた。
だが、その声音にはどこか沈んだ棘が混じっていた。
和音がわずかに眉をひそめる。
「珍しく今日は大人しいけど、どうかしたのか?」
「……なんでもねーよ」
ぶっきらぼうな返答。
和音は少し引っかかりを覚えたようだったが、それ以上は問わなかった。
「……そうか。ならいいけど」
「はるちゃんと瑠衣ちゃんは遊撃部隊として、いったん後方待機ねー。状況に応じて指示は出すわー」
「おーけー!」
「任せて」
結女は全員を見渡した。すっとその目に冷気が宿る。
「じゃあ、行きましょうかー。きっちり勝って、しーっかり、思い知らせてあげないと、ねー?」
ゆるい声音のままなのに、その言葉は少し冷たかった。
そして視線を遥へ向ける。
「それじゃあ、はるちゃん。締めてもらっていいかしらー?」
「おーけー!」
遥は大きく一歩前へ出た。
「みんな! 闇討ちなんて汚いことをする連中には天誅よ! 絶対、勝つっ! 行くわよぉ! せぇーのっ!」
「「えいえいおー!!」」
声が冬空へ突き抜ける。
その響きに迷いはなく、明るかった。
濃いいぇ_:(´ཀ`」 ∠):
Part2




