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騎馬戦記⭐︎ガールズナイツ  作者: mutsu!


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それでもパフェは鎮座する。

  よしおが膝から崩れ落ち、波理日校長が高笑いをしていたその頃——


「お待たせしました。こちらが長い名前のパフェです」


 店員さんはその名を呼んではくれないらしい。

 運ばれてきたパフェは、写真で見た時よりもさらに大きかった。


 お椀のような丸く膨らんだガラスの器(金魚鉢の方が近い)の上に、これでもかというほど盛られた生クリームは、お皿にまではみ出ている。そして色とりどりのフルーツ。サボテンの棘のようにぐるりと刺された無数のポッキー。その上にショートケーキとチョコレートケーキとロールケーキが危ういバランスで積み上げられ、周囲に飾られた焼き菓子やチョコレート、そして積み上げられたマシュマロはまるで石垣のよう……。もはやスイーツというより、小さな城か塔である。


 遥はスプーンを持ったまま、思わず声を漏らした。


「……なにこれ?」


 顔に縦線が入る。


 向かい側では対照的に、二人がぱぁっと笑顔を輝かせ、お目々までキラキラしちゃっている。


「長い名前のパフェなだけあるわねー」

「期待通り」


 結女がいつものふわふわした調子で言い、瑠衣がいつもの低体温のまま呟く。


 遥の隣では郁佳が、崩したら大惨事になりそうなその造形を慎重に観察していた。もちろん顔の縦線はデフォである。


「これ、どこから手を付けるのが正解なんだろう……」


「頂上から攻めると崩落の危険がある」


 瑠衣が真顔で分析する。


「パフェを戦場みたいに言わないで?」


 遥がつっこむと、瑠衣はわずかに首を傾げた。


「でも、これはかなり危険な構造をしている」


「見た目は綺麗だけど、確かにちょっと危険だよね……どうしよう」


 そんなやり取りをしながら、四人はようやくスプーンを入れ始めた。


 冷たいアイスと柔らかなクリーム、果物の酸味と甘いソースが混ざり合う。見た目のインパクトに負けず、味もちゃんと美味しい。


「んー! おいしー!」


 遥が素直に顔をほころばせる。


「このお店、当たりねー」


 結女も満足そうに頷いた。


 しばらくは、パフェそのものを楽しむ時間が続いた。甘いものを前にすると、さすがの四姉妹も少しだけ無防備になる。


 だが、次の試合のことをまったく考えていないわけではない。


 遥はスプーンでアイスをすくいながら、ふと思い出したように言った。


「そういえばさ、尼剃根栖(あまぞねす)高校ってどんなチームなの??」


 結女はグラスの縁に添えた指をそのままに、んー、と少しだけ考える素振りを見せた。


「んー、重音先輩に直接聞いたほうが早いわねー。電話で聞いちゃいましょー」


 あまりにも自然に出たその提案に、遥の手が止まる。


「へ? いつの間に電話番号の交換なんかしたの?」


 結女は悪びれもせず、パフェの上の苺をつつきながら答えた。


「んー? あー、こないだ、たまたまねー」


「へー……えぇっ!?」


 郁佳が思わず大きな声を出しかけ、慌てて口元を押さえる。


「うそ!」


「これは……恋の予感!」


 瑠衣まで、さらりとそんなことを言った。


 結女は三人の反応を面白がるように、ふわりと笑う。


「さぁてー? それはどうかしらー」


 その含みのある言い方に、遥はますます目を丸くした。


「いやいやいや、そこはちゃんと否定してよ!?」


 だが結女は答えず、スマホを取り出すと慣れた手つきで発信した。


 テーブルの上に、呼び出し音が小さく響く。


 数秒後。


『もしもし、あれ? 結女さんじゃないか。電話なんて珍しいね。どうしたんだい?』


 聞こえてきたのは、落ち着いた、それでいてどこか柔らかな重音和音の声だった。


 遥はすぐさま身を乗り出す。


「私達もいるわよー!」


『ん? その声は遥か。という事は他の二人も一緒なのかな?』


「いる」


 瑠衣が短く答える。


「先輩お疲れ様です」


 郁佳もきちんと挨拶した。


『二人ともお疲れ様』


 和音はいつもの穏やかな口調で返し、それから本題を促すように言った。


『それで、今日はどうしたんだい?』


「先輩、今、少しだけ大丈夫ですかー? 尼剃根栖高校の事をお聞きしたかったんですけどー」


『あー、あの学校かぁ……』


 和音の声音が少しだけ変わる。


 その微妙な間に、遥はなんとなく嫌な予感を覚えた。


『あそこは端的に言って狂戦士(バーサーカー)の一族、だね』


「バ、狂戦士(バーサーカー)の一族!?」


 思わず声が裏返る。


 隣の席の客がちらりとこちらを見た気がして、遥は慌てて肩をすくめた。


『うん。写真を送るから見た方が早いかな』


 その直後、結女のスマホがぴろんと鳴った。


「あ、きた」


 四人が揃って画面を覗き込む。


 そして。


「「ぶっ!」」


 遥と郁佳と瑠衣が、見事なくらい同時に吹いた。


「なにこれ!? 火の着いた松明とかくるくる回してそうなんだけど!?」


 遥が思わず言う。


 写真に映っていたのは、女子高のチームというより、どこかの戦闘民族の集団だった。分厚い首、がっしりした肩、獲物を狙う獣みたいな目つき。集合写真のはずなのに圧が強すぎる。


「とても同世代には見えない」


 瑠衣が真顔で呟く。


『レスリングの大会なんかでも上位入賞の常連校だしね。スポーツ特待生を多くとっている事でも有名な学校だよ』


「うっ……わぁ~……あからさまに強そう」


 遥はパフェの甘さが一瞬で飛ぶような気分になった。


『女子高だけど騎士部も強くて、昨年の大会では七位だったはずだ。もし戦うとしたら僕達にとってはかなり相性の悪い相手かも知れないね』


「相性が悪い、ですかー?」


 結女が問い返す。


 和音は小さく笑う気配をにじませながら言った。


『うん。想像してみるといい。陣形もクソもなく、ただひたすら突撃してくる百人以上の……遥だ』


 一瞬、遥は意味が分からなかった。


 だが次の瞬間。


「「ぶっ!」」


 今度は郁佳と瑠衣が盛大に吹いた。


「え?」


「うわぁ……」


 郁佳が心底嫌そうな声を出す。


「ちょっと!? みんな!? なんでそうなるの!?」


「……うん、それはとても大変」


 瑠衣が妙に納得した顔で頷いた。


「戦術の立てようが無いわねー」


 結女がさらりと言う。


「結女まで!?」


 遥の抗議が飛ぶ。


 すると瑠衣が、パフェを一口食べてから静かに続けた。


「本物の遥ちゃんが百人なら可愛いからいろいろ(はかど)るけど、それはキツイ」


「瑠衣は瑠衣で捗るとか捗らないとか、一体何を口走ってるの!?」


「あ……今のはちょっと失言だった」


「る、瑠衣!?」


「ん? 秘密……」


 遥の顔に縦線が入る。額には大きな汗も描かれる。


 受話口の向こうで、和音の笑い声が聞こえた。


『あはは。せめてもの救いは、流石に本物の狂戦士(はるか)ほどの戦闘力はないってことだろうね』


「重音先輩? 今、変な文字にあたしの名前のルビ振らなかった!? ねぇ? 振ったよね!?」


『ん? 振ったけど?』


「隠す気すらない!?」


 その時だった。


 和音の向こうで、ぴこん、と小さな着信音が鳴った気がした。


『ん? あ、ごめん、メールが来たみたい……』


 何気ない一言だった。


 けれど次の瞬間、受話口の向こうで息を呑む音が聞こえた。空気が一変する。

 

『……なっ!?』


 さっきまでの柔らかな声が、一気に張りつめた。


 遥の手から、危うくスプーンが落ちそうになる。


「へ? どうしたの?」


『校長先生からのメールで、縦島君と元副部長が何者かに襲われたらしい!!』


「「えっ!?」」


 四姉妹全員の声が重なった。


 店の中のざわめきが、遠くなる。

 さっきまで目の前にあった巨大パフェが、急に場違いなものに見えた。


『それと! 第三学区に対して二つの敵校から同時に宣戦布告をされたみたいだ! とりあえず詳細を聞いてくるから、また明日学校で話そう! 一旦電話は切るね! じゃあまた!』


「先輩待っ……あっ」


 通話は一方的に切れた。


 遥はスマホを見つめたまま、しばらく固まる。


 甘い匂いの漂う店内で、そこだけ妙に空気が冷えていた。


「……縦島君たちが襲われた?」


 ぽつりと遥が言う。


 結女はさっきまでの柔らかい表情を消し、テーブルの上に置かれたスマホをじっと見つめていた。


「んー、これはちょっと想定外ねー。もしかしたら……?」


「結女?」


 遥が不安そうに呼ぶ。


 だが結女はすぐに首を横に振った。


「……ううん、情報が少なすぎて迂闊に判断は出来ないわー。明日の説明を待ちましょう」


 いつもの間延びした口調だった。

 けれどその声の奥には、はっきりとした警戒があった。


 さっきまで笑いながら食べていたパフェは、まだ半分以上残っている。


 なのにもう、誰もその甘さを素直に楽しめる気分ではなかった。……二人を除いて。

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