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騎馬戦記⭐︎ガールズナイツ  作者: mutsu!


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波理日の策略

 波理日高校の一角、夜の冷気さえどこかねっとりと淀んで感じられるその場所で、大殿欣二(だいでんきんじ)は恭しく腰を折っていた。


波理日校長(ぱりぴこうちょう)❤ ミッション、コンプリートしましたわ❤」


 その報告を受けて、ぱちぱちぱち、とわざとらしいくらい満足げな拍手が鳴る。


「素晴らしいわぁ❤ ブーメランパンツがセクシーよーん❤」


 波理日校長は、うっとりと目を細めながらそう言った。


 夜風の中でもびくともしない、ぶっとく長いまつ毛。分厚い、いや、ほとんど積層化された化粧。やたらと艶のある仕草。大仰で、芝居がかっていて、それでいて妙に似合ってしまっているところが厄介だった。


 大殿は胸に手を当て、嬉しそうに首を振る。


「ありがとうございます❤ ですがこれはブーメランパンツではなく、競泳水着でございますわ❤」


「そんなのどっちでも良いわよぉーん❤」


 確かにどっちでもいい。だがどっちがどっちだかわからなくなるのは勘弁してくれ。

 波理日校長は扇を使うみたいな手つきでひらひらと空気を切った。


「とっても素敵だわー❤ 貴方達の筋陀羅袈大学(すじだらけだいがく)への進学は、もう決まったも同然よーん❤」


「「ありがとうございます!!」」


 三角近一郎(みすみきんいちろう)大胸金之助(おおむねきんのすけ)が、ぱあっと顔を輝かせる。


 その様子を見て、波理日校長はますます機嫌を良くしたらしい。

 頬に手を当て、うふ、とうっとり息を吐く。


「それにしても……うっふ~ん❤ イイわねぇ、あふれ出る若さ! 芳しい筋肉と♂の香りっ! はち切れんばかりの張り……じゅるり……あぁ……大胸筋に、ぷりっとした大殿筋! うふん❤ ゾクゾクしちゃう❤」


 その視線はもはや鑑賞というより査定だった。


 大胸金之助が誇らしげに胸を張り、三角近一郎がぐへへへと笑い、僧帽欽也(そうぼうきんや)までもがどこか誇らしそうにござると頷く。

 全員まとめて何かがおかしい。


 大殿欣二は、そんな彼らを代表するように、さらに深く頭を垂れた。


「我らが筋肉の神よ❤ お褒めに預かり光栄にございますぅ❤」


 その瞬間だった。


 波理日校長の笑みが、すっと冷えた。


「ちょっと大殿くん?」


 ぞくり、と場の空気が変わる。


 先ほどまでの甘ったるい声色とは違う。冷えた刃のような響きが、その一言に宿っていた。


「訂正しなさい?」


 大殿の肩がびくりと震えた。


「……は、はい!」


「いいこと? あたしは神なんかじゃないわ?」


 そこで波理日校長は、両腕を大きく広げた。

 まるで舞台の中央に立つスターのように。

 あるいは、自らが世界の中心であると信じて疑わぬ何かのように。


「漢字の(かん)に、女神と書いて――漢女神(おとこめがみ)!!」


 声が、徐々に熱を帯びていく。


「そう! あたしは! 漢女神の化神! そう! オトメガミよ❤」


 神を名乗る奴は大体ヤバい。だが波理日校長はもっとヤバかった。


 それは新興宗教の教祖の演説であり、

 同時に、本人の中ではたぶん一片の曇りもない真理だった。


 筋肉特戦隊は一瞬だけ顔を見合わせ、それから慌てて背筋を伸ばした。


「|Sir! Yes! My Ma’amh!《さー! いえす! まいまむ!》」


 焦りのあまり、何語なのかよくわからない敬礼が飛ぶ。


 だが波理日校長は、そんなことは気にしなかった。

 あるいは、自分に跪く意思さえ感じられれば細部などどうでもよかったのかもしれない。


「よろしい❤」


 再び、ねっとりとした笑みが戻る。


「さぁて……これで種は蒔いたわぁん❤ あとは勝手に芽吹いて、勝手に絡まって、勝手に壊れてくれればいいのよねぇ❤」


 その言い方は、ひどく優雅だった。


 けれど中身は、あまりにも陰湿だった。


 大殿が恭しく問い返す。


「田中よしおは、狙い通り動きますでしょうか❤」


「動くわよぉん❤」


 波理日校長は、確信に満ちた声で言った。


「恋してる子っていうのはねぇ、可愛いくらい簡単に視野が狭くなるものなの❤ しかも相手が、よりにもよって重音和音。そりゃあ面白いくらい燃えるでしょうねぇん❤」


 その言葉に、大殿がくすりと喉を鳴らす。


「なんとも素敵な悪趣味でございますわ❤」


「褒め言葉として受け取っておくわぁん❤」


 波理日校長は満足そうに笑った。


 夜の空気の中、その笑い声だけがやけに粘ついて残る。


「さあ、あとは見物といきましょうか。人の想いがこじれて、信頼が崩れて、盤面が乱れる瞬間って……とっても美しいもの❤」


 それは確かに、策士の顔だった。


 だが同時に。

 ただ勝つためだけではない。

 混乱と感情の破綻そのものを楽しんでいる顔でもあった。


 だからこそ、厄介だった。

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