法螺貝、吹いた!
すみません、遅くなりました(⌒-⌒; )
実況席のモニターには、潔岳高校の陣形が大写しになっていた。
瀬戸際高校の狙いは、中央突破からの攪乱。
それを見越したように、潔岳高校は変形三人騎馬を横一列に並べ、まるで巨大な門のような陣形を敷いている。
羽月が、身を乗り出すようにして叫んだ。
「おっと、これはまずいですねぇ。どうやら潔岳高校に瀬戸際高校の狙いはバレているようです!! 一体どんな展開になるのでしょうか!?」
その横で、木戸も興奮を隠しきれない様子で頷く。
「そうですね! ですが瀬戸際高校の指揮を執っている日野選手は相当頭が切れますから、もしかしたら味方すら謀っているかもしれませんよ!? どのような戦いになるのかワクワクしますね!!」
「確かに! 四姉妹日野選手の二つ名は腹黒ふわふわ姫ですからね! 略して黒姫。味方すら手玉に取っている可能性は捨てきれません!」
「ぶふっ!」
木戸がたまらずマイクに向かって吹いた。法螺貝より先に……。
「腹黒ふわふわ姫って……すごい二つ名ですね。……ちなみにほかの四姉妹にも何か、二つ名なんてつけられているんですか?」
「はい。牛島遥選手は電光石火、長谷部郁佳選手は鉄壁、瑠衣たん選手は玉狩り姫ですね」
「た…玉狩り姫……?」
「まあ……狩りまくってましたから……僕のも狩られてみたいものです」
木戸はこめかみを押さえた。
「ダメだ、コイツはもうダメだ……」
咳払いをひとつして、仕切り直す。
「えっと、試合が始まりそうですね、カメラさーん!」
◇
両軍の先頭が、ゆっくりと前に進み出る。
審判の張り上げた声が、広い会場に響いた。
「両者、礼!!」
瀬戸際高校の先頭に立つ遥が、まっすぐ前を見たまま言う。
「よろしくお願いします」
対する潔岳部長は、鼻で笑った。
「ふん! 貴様が電光石火などと呼ばれている新部長か?」
「二つ名とかメチャクチャ恥ずいからやめて貰いたいとこだけど、評価してくれるのは素直に嬉しいわ。試合には勝たせてもらうわよ」
「ふん! 貴様も当然知っていると思うが、この試合に全校区が掛かっている。俺様も負けるわけにはいかないからな! 潔の名に掛けて勝たせてもらうぜ! お手柔らかにな、小学生部長!」
「んなっ! また!? ちゃんと152センチはあるんだけど!?」
そのやり取りのすぐ横で、黒マントの怪しい影が低く呼吸した。
「コーホー、コーホー……むっ? お前は……!」
すると潔岳側、仮面をつけた赤いマントの女もぴくりと反応する。
「あら、その声は……!」
しかし互いにそれ以上を言う間もなく、審判が開始を告げた。
「それでは両者開始位置について下さい。……騎馬戦ゲーム潔岳高校対瀬戸際高校! ……始め!」
次の瞬間、法螺貝の音が高らかに鳴り響いた。
◇
「みんな! この一戦に私たちの未来が掛かってるわ! 絶対勝つわよ!!」
遥の声に、郁佳、結女、瑠衣、重音が一斉に応じる。
「「おーっ!!」」
その横で、田中よしおが獰猛に笑った。
「ウエーイ! 野郎ども! 行くぞオラー!!」
「「ウエ――イ!!」」
瀬戸際陣営の一角、元宇恵井高校の部隊が一斉に地を蹴る。
待ち構える潔岳の罠。
田中よしお——
バカだが、元全国四位・宇恵井高校部長の実力は本物だ。
自らを先頭に、後続は細い縦列で続く。
狙いは正面突破ではない。潔岳が中央を割って誘い込む、その瞬間を逆用し、開いた通路を全速で駆け抜け、十一時方向へ流れ出るための隊形だ。
観音開きの罠ごと、置き去りにするつもりだった。
実況席の木戸が、身を乗り出した。
「おおっと! 瀬戸際高校! 元宇恵井高校部長の田中よしお選手が突撃だ――!! 対する潔岳高校は横一列になってまっすぐに前進っ!! そして! ぉおおっ! 扉が奥に開くように潔岳高校真ん中で割れる! よしお選手を誘い込んでそのまま左右からの挟み撃ちだぁぁっ!!」
「潔岳高校上手いです! あの特殊三人騎馬は構造的に後退がなかなか難しいのですが、綺麗に誘い込みました!! 田中よしお選手さっそくピンチです!」
前進していたはずの潔岳高校中央部隊が、観音開きのように左右へ割れ、その隙間へよしお隊を吸い込む。
だが、よしお隊は止まらない。先頭の田中が奥へ踏み込んだ瞬間、進路をわずかに左へ切る。
そこへ左右から三人騎馬と歩兵が殺到した。
「ウエーイ! やっぱ読まれていやがったか!! 総員防御態勢を取れ!! 予定通り11時の方向に抜けるぞ!!」
「「おおっ!!!」」
両陣営が衝突する。
柔らかい武器同士がぶつかる乾いた音が、連続して弾けた。
「結女!! やばいよ!! よしおくん誘い込まれちゃった!! サンドイッチにされてる!?」
遥の叫びに、結女は落ち着いたまま前線を見ていた。
「やっぱ読まれてたかー。でもまあ予想通りよ―。ほら、重音先輩の部隊が歩兵部隊を蹴散らして敵の裏側に回ったわー。よし今だ! るいちゃん出陣―。手前の歩兵部隊から全滅させてー」
「了解。全員全速で突撃、ファルファル祭り」
「「おお――!!」」
瑠衣の部隊が、鋭く横へ広がる。
田中よしおの隊を包囲しようと動いた潔岳中央部隊、その後端へ喰らいつき、本陣へ至るルートをこじ開ける役割だ。
全員、女子。しかも二刀流。狙うは常に約束の地。容赦はない。男子達にとっては最悪のアサシン部隊だった。
結女は続けざまに指示を飛ばした。
「はるちゃん! はるちゃんは、るいちゃんの後ろから時間差で突っ込むと見せかけて、直前で左に回り込んで潔岳本隊に急襲よ―。そのまま総大将の首取ってきてー」
「おーけー!!」
遥が地を蹴る。
だが、潔岳部長もまた、それを読んでいた。
「ふん、甘いな! 偽装はお前達だけの十八番と思うなよ!! A部隊B部隊C部隊! 今だ! 行け!! 瀬戸際の総大将を獲ってこい! 秘密兵器さんもお願いします!」
「「オオッ!」」
「オオ―ッほっほっほ! 任せなさい? 蹴散らしてあげるわ!!」
瀬戸際側の後方。
結女の守備隊へ向けて、三人騎馬三部隊と歩兵、それに謎の一人が一斉に突っ込んでくる。
「来たわねー。ふみちゃん、踏ん張りどころだよー」
「まさか歩兵で突っ込んで来るとは思わなかったけど……ふん! 全員潰す! 守備隊っ! 気合入れてくぞ!!」
「「おおっ!!」」
再び実況席。
「おっと潔岳サイド!! ここにきて三人騎馬三部隊! いや! 偽装を解いた12人プラス謎の1人が瀬戸際高校総大将に向けて突撃だ――!! 大混戦になっています!! ここから戦況はどう転ぶのでしょうか??」
羽月が目を凝らす。
「それよりも少し気になっているのが瀬戸際高校の選手におっさんが一人混じってませんか??」
「は? それはいったいどういう……?」
「後方部隊の歩兵の中に『コー、ホー』とか言いそうなコスプレしてる選手がいるでしょ!! あの選手だけ動きがオッサンなんですよ!!」
「ほんとですね! 気づきませんでした!!」
「いや、気づけよ! それに潔岳高校の謎の1人も何だあれ? 赤いマスクにマントの中が……マ、マイクロビキニの水着? 一体何者なんでしょうか!?」
◇
「くっ! こいつら……! 強い!!」
郁佳が歯を食いしばる。
守備隊へ突っ込んできた潔岳の精鋭は、速度も圧力も桁違いだった。
「オオ―ッほっほっほ!! 少年達、私にひれ伏しなさい!!」
「僕は女だ!!」
赤いマントの怪人――いや、怪しい助っ人は、甲高い笑い声をあげながら鞭型の武器を振るう。連続女王様斬りとでも呼ぶべきめちゃくちゃな連撃が、しかし妙に鋭い。
「ぐああっ!」
「っきゃあ!!」
味方が吹き飛ばされ、郁佳も体勢を崩しかけた。
「郁佳さん! 危ない! でりゃああああっ!」
縦島が飛び込み、横合いから一撃を叩き込む。
「っはぁはぁ! 縦島君、ナイスフォロー!!」
「へへっ! どういたしまして」
結女はその様子を見て、少しだけ眉を寄せた。
「むー、こっちに精鋭部隊を集めてきたみたいねー。よーし、秘密兵器さーん、出番ですよー」
結女が指笛を鳴らす。
次の瞬間、黒いマントがばさりと翻った。
「ふははは! よもや、またこの場に立つことになろうとは思ってもみなかったぞ」
「ちょっと! え、えぇえっ!? 変な人がいるな、とは思ってたけど! まさかの校長先生!?」
「ふふ、若き頃の血が滾るのう」
瀬戸際校長だった。
しかも、やたら乗り気である。
向こうでも同じように、赤いマントが翻った。
均整の取れたマイクロビキニの素肌が現れる。
色々やばい。
「やはり貴方だったのね? 瀬戸際校長」
スタジアム全体の空気が凍った。心なしかBGMすら止まった気がする。沈黙を破ったのは瀬戸際校長であった。
「ふん、気づいておったか由美よ! いや潔岳校長!」
「えぇえっ!?」
郁佳の絶叫が、戦場に響く。
実況席では、木戸が立ち上がりかけていた。
「おおっとー!! 両校ともの選手の中にまさかの校長だ――!! 校長先生が混じっていた―――!!」
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