〈閑話4〉瑠衣先生、鼻血はしまってください
閑話四作目、作者的には閑話の方が描いてて楽しかったりする笑笑
——遥と瑠衣〈Part II〉——
瀬戸際高校騎士部の練習場に、軽やかな風切り音が何度も響いた。
「てぇえい! とぉ! やぁああ! せぇぇえいっ!! どりゃあ!!」
遥は勢いよく剣を振り抜くと、そのままぴたりと動きを止めた。だが次の瞬間、首をかしげて小さく唸る。
「……うーん、何か今一つしっくりこないわねー。みんな武器の使い勝手はどう?」
その問いに、郁佳が自分の武器を軽く持ち上げながら答えた。
「僕の方は問題ないかな。竹刀と同じ長さだし。素材の問題で振った時に少し撓るのが違和感はあるけど、まあこの程度は慣れの範囲ね」
結女も、のんびりとした口調で続ける。
「私の槍も問題ないわー。そもそもー、私自身が武器を持って戦うことが無いようにするのが私の仕事だしねー。そうなった時はたぶんもう負けてる時だと思うよー」
「それもそうね。瑠衣はどう?」
遥に振られた瑠衣は、いつもの無表情のまま小さくうなずいた。
「瑠衣も問題ない。手数で勝負できる二刀の小太刀はとても殺りやすい」
物騒な一言に、遥は苦笑しつつ肩をすくめる。
「いいなー。私はまだ何となくしっくり来てないのよねー」
「そうなの?」
郁佳が不思議そうに聞き返すと、遥は自分の剣と盾を見下ろしながら説明した。
「うん、歩兵の時は今の剣と盾のセットでいいんだけど、騎馬に乗った時には剣だと攻撃出来る範囲が足りないと思うのよ」
「あー。なるほど、確かに騎乗中は普通の剣だとリーチが足りないね。槍とか矛とかに変えたらどう? あとは青龍刀とか。武器の形は創作自由なんでしょ?」
「うーん、それも考えたんだけど、私的に武器の形状としては剣が一番使いやすいんだよねー」
「うーん……どうしようか」
郁佳が腕を組んで考え込む。その空気を、瑠衣の淡々とした声がすっと切り裂いた。
「実は瑠衣、遥ちゃんがそろそろ、そんなことを言うんじゃないかと思って面白いものを持ってきた」
「へ?」
遥が目をぱちくりさせる。
瑠衣は何事もない顔で鞄をごそごそと探り始めた。次の瞬間――。
「……はいこれ、バスターソード。使ってみて」
差し出されたそれを見た遥は、思わず目を見開いた。
「なにこれデカっ! 私の身長より大きいんだけど! ていうか今これどこから出したの!?」
「鞄」
「待って!? こんなおっきいの絶対に入らないよね!?」
「ぶふぁっ!」
「ちょ、瑠衣!? なんで鼻血!?」
「……気にしたら負け」
「えぇっ!」
あまりにも平然とした返答に、遥は全力でツッコんだ。結女はそんな二人を見て、楽しそうに笑っている。
「あははー、るいちゃんねー」
瑠衣は巨大な剣を軽く持ち直しながら、いつも通り抑揚の薄い声で説明した。
「これは瑠衣のお母さんが昔使っていたばすたーそーど。ふぁいなるなんとかってげーむの、七作目の主人公が使ってた幻想武器。それを模したものらしい」
「「瑠香さんとゲームが結びつかない!!」」
遥と郁佳の声が、見事に重なった。
瑠衣の母親である瑠香とは皆、顔馴染みである。瑠衣と似て、表情のあまり動かない、物静かな瑠香が、そんな巨大武器を振り回すゲームに親しんでいたとは到底思えない。二人が同じ衝撃を受けるのも無理はなかった。
だが、当の遥はすぐに気持ちを切り替え、興味津々といった様子でその大剣を受け取る。
「……うん。でも、へー……これは良さそうね!」
遥は両手で柄を握り、試しにぶん、と横に振った。続けてもう一度、さらにもう一度。大きさに反して素材が軽いためか、見た目ほど扱いづらくはないらしい。むしろ騎乗戦を想定するなら、この長さは理にかなっていた。
「おおー! 良い感じじゃない!?」
「気に入ったなら使って」
瑠衣が短く言う。結女も感心したように頷いた。
「確かに騎馬戦ゲーム用の素材なら軽いからこのサイズでも取り扱いが可能ねー」
遥はなおも剣を眺めながら、ふと遠慮がちに尋ねた。
「でもこれ、瑠香さんの思い出の品なんだよね? そんな大切な物を借りていいの?」
「大丈夫、予備に作った分だって言ってた。それと、それは貸すんじゃなくてお母さんからのプレゼント。気に入ったなら譲ってくるように言われてる」
「そうなんだ!」
遥の顔がぱっと明るくなる。
「じゃあ遠慮なく使わせて貰うよ! あ、今日部活終わってから瑠衣んちに行っていい? お礼を言わないと」
「大丈夫、お母さんも大歓迎するはず」
その言葉に、遥は満面の笑みでバスターソードを肩に担いだ。巨大な剣を背負ったその姿は、どこか得意げで、さっきまでの迷いもすっかり消えている。
「よーし! じゃあ張り切って練習しようか」
「「「おー!!」」」
結女、郁佳、瑠衣の声が重なり、練習場に明るく響いた。
新しい武器を手に入れた遥は、さっそく気合十分で大剣を構え直す。風を裂く音は先ほどよりもずっと力強く、どこか嬉しそうに聞こえた。
遥ちゃん、瑠衣にちょっとえっ◯な台詞を言わされる回でした笑笑
次回、本編に戻ります。




