戦いの法螺貝、息吸ったよ?
戦いの前の空気感
スタジアムの空気が、ざわざわと波のように揺れていた。
観客席はすでに満員だ。各校の校章が入った旗や団扇があちこちで振られ、応援の声が重なってひとつのうねりになっている。これだけ客が入っていれば、興行収入も相当なものだろう。めっちゃ稼げてそう。大人汚い。
フィールド中央には、騎馬戦ゲーム用に整えられた広大な戦場。白線で区切られた陣地の向こう側に、二つの高校の選手たちが整列し始めていた。
その光景を見下ろす実況席。
マイクを握った男が、身を乗り出す。
「こんばんは! 実況の羽月鋼です! 間もなく始まりますね! 学校対抗騎馬戦ゲームッ!!」
場内のスピーカーを通して、勢いのある声がスタジアムに響いた。
「出場校は以前、格上の宇恵井高校を相手にとんでもない立ち回りを見せてくれた瀬戸際高校と、昨年、全国大会ベストフォーの潔岳高校となっています!! これは見逃せない一戦になりそうです!!」
隣の席で、女性キャスターが穏やかに頷く。
木戸菜月だ。
「こんばんは! 木戸菜月です!! 本当に楽しみですね。瀬戸際高校は宇恵井高校を傘下に収めた後のち、その勢いを持って周辺校をことごとく撃破!!」
彼女は資料を軽くめくる。
「陣営の人数も最大の120人まで増やし、既に潔岳高校に対して数の不利はなくなりました!」
その言葉に、瀬戸際高校側の応援席から歓声が上がる。
この数ヶ月で急激に勢力を伸ばした新興勢力――瀬戸際高校。
もはや大会のダークホースではない。強豪校の一角だ。
羽月は大きく頷いた。
「瀬戸際高校の中心メンバーである四人には四姉妹の呼び名と、それぞれ二つ名までつけられて人気も急上昇中です! 重音選手もホワイトナイトと呼ばれ、今では下手なアイドルより人気があります!」
そう言いながら、彼は突然机の下から団扇を取り出した。
バッ! ババッ!
そして嬉しそうに開く。
そこにはデフォルメされた女子生徒のイラストと、派手な文字。
『瑠衣たん最高!!』
羽月はそれを掲げて叫ぶ。
「そして私の推しは瑠衣たん!! あぁっ! そのジト目で私を見下して!!」
「うわっ! ひくわー……いい年したおっさんが“たん”とか……キんっモっ!」
即座に横からツッコミが飛んだ。
さっきまでのたおやかさはどこへやら。まるで、道端で死んでる虫かカエルでも見たかのような冷ややかな声だった。いや、玄関に産みつけられた虫の卵でも見たような声だった。
羽月はぴたりと止まり、ゆっくり振り向く。
「……何か言いましたか?」
「いえ、なにも。とりあえずドMさんその推し団扇は仕舞ってください!」
木戸の冷たい視線に、羽月はしぶしぶ団扇を机の下へ戻す。
「お固いなぁ」
ぼやきながらも、すぐに表情を引き締めた。
「そんなことよりも、今日の試合は特別な試合だと聞いているんですが、瀬戸際高校と潔岳高校の全校区をベットしているって本当なんですか?」
その瞬間、スタジアムのざわめきが一段大きくなる。
木戸は少しだけ声のトーンを落とした。
「はい、事実の様ですね。潔岳高校側が持ち掛けて、瀬戸際高校がそれを受けたとのことです」
観客席の一部からどよめきが起こる。
「今日負けた側の学校は消滅することになります。ちなみに潔岳高校が勝利した場合、入学条件は緩和するとのことです」
羽月は眉をひそめた。
「そりゃ名前に潔が入っていないと入学できないとか、ぶっちゃけイミフですもんね……」
「そうですね」
木戸は小さく笑った。
「まあ、とにかく今日の試合がかなり特別なものになることは間違いないです。注目の一戦となることでしょう」
実況席のモニターが切り替わる。
フィールドの両端に、二つの陣営が整列していく。
瀬戸際高校。
潔岳高校。
騎馬を組み始める選手たちの姿が映し出され、観客席の期待がさらに高まる。
羽月が大きく手を振った。
「それでは会場の方へ! カメラさん」
カメラがゆっくりとフィールドへズームする。
巨大なスタジアムの中心。
これから始まるのは、ただの試合ではない。
―― ふたつの歴史ある学校が、その存亡を賭けてぶつかる騎馬戦である。
決戦の幕が、いま上がろうとしていた。
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