本編再開20 第三の選択肢はマジシャンを困らせる。
「まだ!」
夏華が右手の薙刀を掲げた。
「まだ終わっていませんわ!!
両翼共に全速前進!!
中央軍の包囲は破棄! 瀬戸際後方へ!!
抜けなさい!!」
『了解!!』
「え?」
遥が目を瞬く。
次の瞬間。
背水乃陣高校。
左右、二枚の翼が。
一斉に前へ走った。
「うおっ!?」
遥ちゃん部隊。
目の前の騎馬が。
そのまま。
横を。
抜ける。
「ちょ、待っ――」
待たない。
待つわけがない。
左翼。
瑠衣。
「逃走?」
「違いますわ!!」
夏華が叫ぶ。
「敗走?」
「前進ですわ!!」
「なら敗北」
瑠衣が無表情のまま、煽る。
「決めつけないで下さいまし!」
背水乃陣高校、両翼が、瀬戸際高校の左右を駆け抜ける。
止まらない。
そのまま。
前へ。
前へ。
瀬戸際縦列陣。
その。
後方へ。
「まさか!」
郁佳が振り返る。
抜けた先。
背水乃陣高校の右翼と左翼。
二つの部隊が、最小半径をもって反転。
その全ての切先を。
瀬戸際高校へ。
向ける。
「両翼!」
夏華が右腕を。
振り下ろす。
「双魚鱗!!」
『了解!!』
ぐっ。
二枚の翼が蠢き、先頭へ。
集まる。
鋭い二つの三角形へとその陣容を変えた。
「後ろ!」
郁佳が叫ぶ。
「来るよ!!」
瀬戸際高校。
縦列陣。
最後尾。
振り返る。
その。
左右斜め後方。
二つの魚鱗。
「突撃ぃぃぃぃ!!」
『おおおおおお!!』
ドンッ!!
魚鱗、第一波。
瀬戸際後方の三分の一が一気に崩される。
ちなみに結女は、最前列から三分の一の場所にいる。
もし後方に配置していれば、そこで詰んでいた。
魚鱗、第二波。
砕けた瀬戸際高校の縦列陣に襲いかかる。
接敵直前、魚鱗が短尺の横陣へと変わる。
瀬戸際縦列陣。
後方へ。
食らいついた。
「うわっ!」
「後ろから!?」
「止めろ!」
「無理、速――」
ズバンッ!!
『瀬戸際高校、三騎リタイア!!』
ドンッ!!
『さらに四騎!!』
第二波がブルドーザーのように瀬戸際高校の選手を押し潰していく。
まさに圧殺。
散り散りになった一人騎馬が、一気に三十騎近く持っていかれる。
「くっ……!」
後方守備へと回った郁佳が。
盾を構えたまま。
攻撃を流す。
理解させられた。
背水乃陣高校は両翼を。
外へ。
逃がしたんじゃない。
突破させた。
そして。
そのまま。
攻撃へ。
繋げたのだ。
「あっぶな! 夏華、やるじゃん」
遥が思わず声を上げた。
「でも……」
そして、にやりと口元を上げる。
◇
一方、その頃の背水乃陣高校の本体。
「本隊!」
夏華が。
さらに。
指示を飛ばす。
「五メートル後退!!」
『了解!!』
「なに?」
最前線にいた和音が目を細める。
背水乃陣高校。
中央。
本隊。
瀬戸際縦列陣との接触を。
切る。
「ウェーイ!? 一体どうしたんだ?」
一歩。
二歩。
三歩。
五メートル。
下がる。
郁佳が訝しむように呟いた。
「退いた!?」
「違うわねー」
結女。
にこっ。
「たぶんー」
「結女?」
「見てれば分かるわよー」
「その言い方怖いんだけど!?」
「本隊!」
夏華が手を右へ。
振る。
「そのまま!!
反時計回り!!
全速移動!!」
『了解!!』
「……!」
郁佳が息を呑む。
本隊が動く。
ただ右へ。
ではない。
円。
瀬戸際高校、後方。
魚鱗が、縦列陣へ突き刺さっているポイント。
その一点を中心に。
半径、約十五メートル。
その円周上を。
背水乃陣高校本隊が。
反時計回りに。
円弧を描く。
「……回ってる」
よしおが呟く。
「なるほど」
和音が察する。
「本隊が」
郁佳。
目を見開く。
「合流地点を動かしてる!」
夏華が。
高らかに笑う。
「おーっほっほっほっほ!!」
「うるさっ!」
「聞こえていますわよ!!」
瀬戸際高校、後方。
背水乃陣高校の二波、波状攻撃。
短尺の横陣は、瀬戸際高校縦列陣中心のあたりで、すぐに魚鱗陣に戻された。
食う。
食う。
食う。
深く。
縦列へ。
突き刺さる。
「押せぇぇぇ!!」
ズバンッ!!
『瀬戸際高校、一騎リタイア!!』
「まだ行けます!」
「抜けなさい!!」
「え?」
「止まるな!!
そのまま突き抜けなさい!!」
『了解!!』
瀬戸際縦列陣。
止まらず。
そのまま。
抜ける。
一騎。
また。
一騎。
瀬戸際高校の列を。
掻き分け。
突き抜ける。
そして。
その先。
既に。
いる。
背水乃陣高校。
二つの魚鱗が、瀬戸際高校を突き抜けたその先へ。
本隊が先回りしていた。
それを横目に、遥は時計回りに旋回する。
「……夏華、強い」
にやり、笑う。
「両翼!!」
夏華はその手に持った武器を高く。
掲げる。
「本隊へ合流!!」
『了解!!』
二つの魚鱗が。
崩れる。
左右へ。
開く。
本隊へ。
吸い込まれる。
一騎。
一騎。
また。
一騎。
散らばっていた。
背水乃陣高校が。
再び。
一つになる。
「……すご」
遥が。
思わず漏らす。
「攻撃した部隊が戻ったんじゃない」
郁佳が。
小さく笑う。
「本隊の方が、出口まで迎えに行った」
「上手い」
反時計回りに旋回する瑠衣。
一言。
瑠衣流の最上の褒め言葉であった。
背水乃陣高校は。
その在り方を証明した。
彼らは止まらない。
陣形変更、突破、反転、突撃、離脱、旋回。
そして合流。
その全てが一つの流れの中に統合されていた。
まるで。
一頭の。
大きな生き物。
「……なるほどね」
郁佳が。
盾を握り直す。
「スターは、いない」
夏華が。
にやり。
「ええ」
「だから」
郁佳も。
笑う。
「全員で戦うんだ」
「当然ですわ!!」
夏華。
薙刀を。
真上へと持ち上げる。
「一人で遥を止められない!!
一人で瑠衣さんを止められない!!
でしたら!!」
くるくるとバトンのように回して、ビシィッと前に振り下ろした。かっこいい。
背水乃陣高校。
再集結。
その決め台詞。
「全員で!!
あなた達を!!
動かせばいいだけですわ!!」
「夏華ちゃん、すごいわー」
結女が。
ぽつり。
「なんですの?」
にこっ。
夏華ちゃん、嫌な予感しかしない。
「かっこいいわねー」
「…………」
夏華。
一瞬。
固まる。
「さすがにしてやられたわー」
「な」
「でもー」
結女。
槍で、ちょん、ちょん、と背水乃陣高校の左後方と右後方を指した。
「後ろー」
「え?」
夏華が。
振り返る。
遥。
「やっほー」
反対。
瑠衣。
「追いついた」
「…………」
夏華。
沈黙。
「速すぎますわよあなた達ぃぃぃぃ!!」
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