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〈閑話1〉——遥と瑠衣の日常——

閑話、4連作の一つ目

 引き戸を開ける音がして、部室に遥が入ってきた。


「ふー。やっとホームルームと終礼終わったわー」


 肩を回しながら、いかにも「一仕事終えました」という顔で部屋を見回す。

 だが、いつもの顔ぶれが二人ほど足りないことに気づいて、遥は首を傾げた。


「あれ? 郁佳と結女はまだ来てないの?」


 部室の隅で静かに座っていた瑠衣が、いつもの平坦な声で答える。


「二人ともお手洗いへ行った」


「あ、そうなんだ」


 遥は納得したように頷いた。

 そして次の瞬間、思い出したように瑠衣のそばへ詰め寄る。


「ってか、ちょっと聞いてよ瑠衣。なんか、私のお母さん、昔、騎馬戦ゲームの選手だったらしいの」


 瑠衣は一拍置いてから、静かに言った。


「遥子さんなら納得」


 あまりにも納得感のある返答だった。


「でしょ? こないだ私たちの試合をテレビで見てさ、“血が滾る!!”とか言ってたのよ。しかも、瑠衣のお母さんともよくコンビを組んでたらしいわよ?」


「へ?」


 瑠衣の目が、ほんの少しだけ見開かれる。

 珍しく、はっきりと驚いた顔だった。


「……それは初耳。私のお母さんも選手だった?」


「そうみたいね。帰ってから聞いたら教えてくれるんじゃない?」


 瑠衣はしばらく黙ったあと、小さく頷く。


「……そうする。お母さんの若い頃の話聞きたい」


 そして、そのままの流れで、今度は瑠衣が思い出したように言った。


「そういえば結女ちゃんが田中くんに告白されたらしい」


 遥の時間が一瞬止まる。


「ぶっ! まじで!? やるなぁ、田中よしおめ。結果はどうなったの?」


 瑠衣は淡々と答えた。


「撃沈」


「……うえーい」


 遥は遠い目をした。


「だよねー。結女は固いわー」


「それと私も吉田君と岩井君に告白された。あと何人かにでえとに誘われた」


「ぶふっ!」


 今度は遥が本格的に吹いた。


「ま、まさか瑠衣!?」


 驚愕のあまり、半歩後ずさる。

 だが瑠衣はいたって平常運転だった。


「しかたがないから全員ファルファルした」


 さらっと物騒なことを言ってのける。


 遥の顔が、もはや女子高生としてどうなのか分からない方向へ崩れた。

 白目である。


 それを見た瑠衣が、わずかに首を傾げる。


「……? はるちゃん、それは女子高生がしていい表情じゃない。白眼はやりすぎ」


「わ、私には誰も来ないのに!」


 遥はがばっと両手を上げて叫んだ。

 そこには告白された友人を祝う余裕も、日常会話の落ち着きもない。ただただ素直な嘆きだけがあった。


 瑠衣はそんな遥を見つめ、それから静かに言う。


「大丈夫、私がいる」


「瑠衣――っ!」


 遥は感極まったように瑠衣へ飛びついた。


 瑠衣は特に抵抗もせず、そのまま遥の頭をぽんぽんと撫でる。


「よしよし」


 その光景だけを見れば、落ち込んだ女の子を慰める優しい恋人そのものだった。

 実際は、告白すらされていない段階で勝手に傷ついているだけなのだが。


 瑠衣の口元が、ほんの少しだけ緩んでいるように見えた。

うっかり「尊い」とか言い出しそうな顔である。


 ともあれ、部室には今日もゆるい空気が流れていた。

 戦場ではあれほど無茶苦茶な彼女たちも、こうしているとただの仲良し四人組に見えるのだから、不思議なものである。

面白いと思っていただけたそこのあなた!

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