本編再開12 不退転
翌日。
全国大会。
二回戦。
『これより――瀬戸際高校対、背水乃陣高校の試合を開始します!』
場内にアナウンスが響き渡る。
両校が整列し、向かい合った。
「両者、礼っ!」
審判の号令。
両校が一斉に会釈する。
その直後。
「おーっほっほっほっほ!!」
「…………」
遥が眉間の辺りを押さえた。
「試合始まる前からうるさい」
「何ですって!?」
向かい側。
背水乃陣高校。
列の先頭に立つのは。
牛島夏華である。
今日も縦巻きロール。
胸もある。
尻もある。
そして。
「…………」
遥が。
夏華の胸を見る。
「…………っ!」
夏華が両腕で、ささっと胸元を隠した。
「何ですの?」
「いや」
「言いなさい」
「戻ってるなーって」
「どこを見て言ってますのぉぉぉ!!」
「今日は六枚くらい?」
「試合前から数えるなぁぁぁ!!」
「おそらく機動力を優先した」
瑠衣が夏華の胸元を見ながら呟く。
「そのために枚数を減らしたと思われる。万全の布陣」
「…………っ!?」
夏華のこめかみが。
ぴきっ。
と動いた。
「あなたたち!」
「何よ!」
びしっ。
夏華が遥を指差す。
「昨日からの非礼の数々!」
「昨日のは、だいたい結女じゃない?」
「あ」
「あらー?」
「…………って!」
夏華が我に返る。
「今もディスってたでしょ! 瑠衣ちゃんと一緒に!」
「不必要な防具は動きを妨げる」
瑠衣は真顔で答える。
「瑠衣は戦力を見ているだけ。ディスってなんかいない」
「……っこのー!」
夏華が。
むきーっ! と地団駄を踏んだ。
踏むだけ。
だって瑠衣は本当のことを言っているだけだから。
夏華が結女を見る。
「…………」
結女は。
にこにこ。
余裕の笑み。
巨乳の余裕なのだろうか?
「……ともかく!」
「ごまかした」
「うるさいですわ!!」
夏華が咳払いをする。
「コホン」
そして。
表情が。
変わった。
「今日は」
「…………」
「敵ですわ」
遥も。
ほんの少しだけ。
笑った。
「知ってる」
「手加減は」
「したら怒る」
「…………」
夏華が。
一瞬だけ。
目を丸くした。
そして。
にやり。
「言うようになりましたわね」
「そっちこそ」
『両校、配置についてください!』
「では」
夏華が踵を返す。
「盤上で勝敗を決めましょう」
「あらー?」
結女が首を傾げる。
「盤はないわよー?」
「比喩ですわ!!」
「知ってるー」
「試合前からぁぁぁ!!」
「夏華」
「今度は何ですの!?」
振り返った夏華に。
遥が言う。
「結女に付き合ってたら疲れるよ?」
「先に言いなさい!!」
叫びながら。
夏華が自陣へ戻っていった。
「……元気だね」
遠い目をした郁佳が呟いた。
両校がそれぞれの自陣へと向かう。
◇
背水乃陣高校。
その最大の特徴は。
速さ。
速攻。
そして。
正面突破。
使用する騎馬は。
四十騎全て。
二人騎馬。
機動力を最優先した編成である。
そのうち。
三十六騎が。
中央へ集まる。
最前列。
一騎。
二列目。
二騎。
三列目。
三騎。
そこから一列ごとに騎数を増やし。
最後尾、八列目、八騎。
合計、三十六騎。
巨大な三角形。
……いや、騎馬同士の横間隔を詰め、列間を広く取った。
前後に長い、鋭角の二等辺三角形。
その先端は、鋭く。
敵陣中央へ向けられている。
そして、その後方には残る四騎——
中央に総大将。
牛島夏華。
両サイド、そして後方に、夏華を囲うように三騎が配置される。
突撃する三十六騎。
後方から全体を指揮する夏華。
そして。
夏華を守る三騎。
四十騎全てが。
ただ。
ひとつの目的のために組まれていた。
敵陣中央。
正面突破。
「来たね」
郁佳が目を細める。
「うんー」
結女が頷いた。
先頭を鋭く尖らせ。
後方へ向かうほど。
分厚くなる。
巨大な。
三角形。
「魚鱗?」
遥が訊く。
「違う」
瑠衣が答えた。
「楔」
「楔、ね」
遥が軽く肩を回す。
背水乃陣高校。
楔形陣。
目的は唯一つ。
正面突破。
奇策ではない。
搦め手でもない。
相手に読ませないための陣でもない。
むしろ見れば誰にでも分かる。
何をするのか。
どこを狙うのか。
全て。
分かる。
それでも。
止められるものなら。
——止めてみろ!
そう言わんばかりの。
巨大な。
矢尻であった。




