本編再開11 縦巻きロールは伊達じゃ無いっぽい
牛島夏華が去ってから数分後。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
瀬戸際高校女子更衣室。
四人は。
無言であった。
「とりあえず、すごかったわね。遥の従姉妹さん」
「あの高飛車キャラは昔からブレてないわね」
「……面白い人」
「瑠衣」
「何? 郁ちゃん」
「瑠衣も充分、面白いからね?」
「……否定はしない。でも、たぶん、あそこまでじゃない」
「確かに方向性は少し違うね」
そんなくだらないやり取りをしている二人の隣で、遥が結女の方を見る。
結女が何やらスマホを触っている。
「結女?」
「んー?」
「何してるの?」
「はるちゃんの従姉妹さん、どんな戦い方をするのかなーって思って、背水乃陣高校の試合、探してるー」
「切り替え早っ!」
「次の相手だからー」
「さっきまでペコちゃん顔で胸パッド数えてた人とは思えない!」
「結女はそのあたり真面目だよね」
「結女ちゃんらしい」
「でも」
郁佳が。
少しだけ表情を引き締めた。
「僕も気になる」
「夏華が?」
「背水乃陣高校が」
「あ、そっち」
「遥は気にならないの? 従姉さんが部長やってるチーム」
「…………」
遥が。
少し考えた。
「まあ」
「うん」
一言ずつ置いて、全員に向き直る。
「夏華はバカだけど頭はいいから、チェックはした方がいいと思う」
「頭がいいのか悪いのか、それはどっちなのよ?」
「あいつ昔からあんな感じだから」
「あんな感じ?」
「昔から縦巻きロール?」
瑠衣が素で茶々を入れる。
「そこは違う」
「昔から八枚?」
「知らないよ!!」
「成長の記録」
「瑠衣、そこ掘らなくていいから!」
「あったー」
結女が。
スマホを掲げた。
「去年の県大会ー」
「早い」
「準決勝と決勝、両方あるわねー」
「見よう」
郁佳が。
結女の横へ移動する。
「遥も」
「……そうね」
遥も。
仕方なさそうに覗き込む。
瑠衣は。
すでに反対側にいた。
「いつの間に!?」
「有意」
「何が!?」
「再生するわよー」
「うん」
結女が。
画面をタップした。
映像が始まる。
そして。
数十秒後。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
四人の顔から。
少しずつ。
笑いが消えていった。
『背水乃陣高校、前進!!』
映像の中。
夏華が叫ぶ。
おーっほっほ。
ではない。
『第一列、押し込め! 第二列、間隔を詰めなさい!』
真正面。
相手の横陣へ。
背水乃陣高校が。
ぶつかる。
「……普通」
遥が呟いた。
「普通に指揮してる」
「遥、さすがにそれは失礼だよ」
「だって夏華だよ!? 朝学校に来たら、瑠衣だと思ってた瑠衣が満面の笑顔で隣の席の子と話してたら驚くでしょ!?」
「それは確かに驚くね」
「二人ともちょっと失礼」
「それは少し見てみたいわねー」
そんなくだらない会話をしながら画面を食い入るように見る四人。
『左翼、三歩前! 中央は止まるな! 右翼、回り込ませない!』
速い。
号令。
判断。
そして。
何より。
「退かない」
郁佳が。
画面を見ながら言った。
「うんー」
結女が頷く。
背水乃陣高校は。
下がらない。
一騎が崩れても。
その隙間を。
後続が即座に埋める。
二騎抜かれても。
前へ。
三騎削られても。
前へ。
「……名前通りだ」
「背水乃陣」
瑠衣が呟く。
「退路なし」
「いや」
郁佳が。
少し眉を寄せる。
「違う」
「?」
「退路がないんじゃない」
画面を指す。
「退路を使ってない」
「……あ」
「下がれる場面でも、下がってない」
映像の中。
相手チームが。
背水乃陣高校の中央を押し返す。
普通なら。
一度距離を取る。
陣形を整える。
だが。
『止まらない!』
夏華の声。
『一歩でも下がったら、その一歩を取り返すのに二歩必要ですわ!』
「…………」
「…………」
「言ってることは」
遥が。
ぼそり。
「ちょっと暑苦しい」
「そこ?」
『押しなさい!!』
背水乃陣高校が。
さらに前へ出る。
一騎。
また一騎。
リタイア。
それでも。
残った騎馬が。
前進する。
「消耗前提?」
瑠衣。
「そう見える」
郁佳が答える。
「でも単純な特攻じゃない」
「うんー」
結女が。
画面を止めた。
「ここー」
「?」
「見てー」
映像。
相手右翼。
三騎。
背水乃陣高校左翼。
五騎。
「数で押してる?」
「それだけじゃないわねー」
結女が。
指で画面をなぞる。
「前の二騎がー」
「うん」
「わざと速度落としてるー」
「……あ」
郁佳が気づく。
「後ろの一人騎馬、三騎を隠してる」
「そうー」
再生。
前方二騎が。
相手と接触。
その瞬間。
左右へ割れた。
後方。
三騎。
一直線。
「楔」
「簡易的だけどねー」
中央突破。
相手右翼が。
一気に崩れた。
「……ちゃんと考えてる」
遥が少し驚いた顔になる。
「はるちゃんー」
「何?」
「夏華ちゃん」
結女が。
にこにこしたまま。
映像を見る。
「たぶん、結構強いわよー」
「…………」
「指揮官として?」
「うんー」
結女が。
再び再生する。
『中央! 止めなさい!』
夏華が叫ぶ。
直後。
前進していた中央が。
ぴたり。
止まった。
「え?」
遥が。
身を乗り出す。
止まる。
背水乃陣。
その名前に。
反するように。
一切。
前へ出ない。
『今ですわ!』
両翼。
一斉に前進。
「あ」
「包んだ」
中央を囮に。
相手を引き付け。
左右から。
挟む。
「……退かないだけじゃない」
郁佳が。
少し笑う。
「止まれるんだ」
「そこが厄介ねー」
結女が答える。
「ずっと前に出ると思わせてー」
「急に止まる」
「うんー」
「前進そのものが」
郁佳が。
続ける。
「フェイントになる」
「そういうことー」
「…………」
遥が。
画面の中の夏華を見る。
『敵中央、崩れましたわ!』
夏華が。
右手を掲げる。
『ここです! 全騎――』
一拍。
『踏み潰しなさい!!』
背水乃陣高校。
全騎。
前進。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
圧殺。
という言葉が。
一番近かった。
そして。
試合終了。
『勝者、背水乃陣高校!』
映像の中。
歓声。
夏華が。
胸を張る。
『おーっほっほっほっほ!!』
「最後はやるんだ」
「様式美」
「瑠衣、それ気に入った?」
「天丼は大事」
遥が。
小さく息を吐いた。
「……なるほどね」
「どうしたの?」
「いや」
スマホの中。
笑っている夏華を見る。
「ちゃんと強いんだなって」
「はるちゃんー」
「何?」
「少し嬉しそうねー」
「…………」
「従姉が強くてー」
「違うから」
「でも」
遥が少しだけ笑う。
「弱かったら」
「?」
「次、つまんないでしょ」
「…………」
「あらー」
結女が。
笑った。
「そうねー」
「で?」
遥が。
結女を見る。
「どうする?」
「何がー?」
「背水乃陣」
「…………」
結女が。
スマホの画面を見る。
しばらく。
無言。
「前へ出る」
「うん」
「止まる」
「うん」
「押す」
「うん」
「包む」
「うん」
「それでー」
結女が。
にっこり。
「一番嫌なのはー」
「?」
「前に出させてもらえないこと、でしょうねー」
「…………」
郁佳が。
結女を見る。
「結女」
「なあにー?」
「今」
「うんー」
「すごく嫌な顔してる」
「あらー?」
「笑ってるけど」
「いつも通り」
瑠衣が言った。
「それが怖いんだよ」
「じゃあー」
結女が。
スマホを置く。
「次はー」
一拍。
「背水乃陣から」
にっこり。
「水を抜きましょうかー」
「…………」
「…………」
「…………」
遥が苦笑いをする。
「絶対ろくでもないこと考えてる時の顔よね? それ」
「……」
そして郁佳が引き笑いをし、
「結女ちゃん、猫の着ぐるみがとれてる」
瑠衣が指摘した。
当の結女はにこにこしたまま。
「にゃー」
猫の手をつくって、あざとく笑うのだった。




