本編再開9 本物と偽物と
日付またいでもうた……。
すまんでござる( ; ; )
試合を終え。
瀬戸際高校一行が控え室へと戻る。
女子更衣室で、四人が一息ついていた。
「いやー、勝った勝った!」
遥が両腕を伸ばす。
「初戦から疲れたぁ……」
「はるちゃん、今回はそんなに働いてない」
「働いたよ!?」
「最後いっぱい走ってたわねー」
「結女が走らせたんでしょうが」
「あらー?」
「でも確かに、今回の試合は疲れたけど、波理日の時ほどではなかったね。なんていうか、全員で勝った! ……って感じがする」
「それは、わかる! 結女、どういうこと?」
「あー。それはほらー? 全国大会の先はまだまだ長いでしょー? だから今回は、極力負担は分散させる方向で盤面を組んだわねー」
「そんなことまで考えてたんだ!?」
「そうよー」
「なるほど、理解した。でも少し消化不良気味」
「瑠衣ちゃんねー」
そんな。
いつものやり取りの最中だった。
ガッシャン!
控え室の扉が開いた。
「おーっほっほっほっほ!!」
「…………」
遥が。
止まった。
「……今」
郁佳も止まる。
「ものすごく分かりやすい笑い声が聞こえたよね?」
「聞こえた。縦巻きロールが降臨しそう」
瑠衣が頷く。
「ぶふっ! 瑠衣、さすがにそれはないだろう? アニメじゃあるまい……」
三人が同時に振り返った。
「いた!」
「ほんとねー」
「天然記念物」
「人を絶滅危惧種みたいに言うな」
遥だけが。
振り返らない。
「…………」
「はるちゃんー?」
「帰ろ」
「え?」
「今すぐ帰ろ」
「全国大会中だよ?」
「じゃあ別の控室!」
「遥?」
「聞こえなかったことにしよう!」
「おーっほっほっほっほ!!」
近づいてきた。
「無理だね」
「くっ……!」
遥が歯を食いしばる。
そして。
「相変わらずですわね――遥!」
「やっぱりぃぃぃ!!」
遥が頭を抱えた。
四人の前。
一人の少女が立っていた。
長い髪。
左右に垂れる、見事な縦巻きロール。
腰に手を当て。
胸を張り。
もう片方の手を口元へ。
そして。
胸もある。
尻もある。
「…………」
遥が。
そこだけを。
じっと見た。
「何ですの?」
「……別に」
「相変わらず薄いですわね」
「いまどこ見て言った!?」
「どことは言ってませんわよ?」
「今絶対胸見たでしょ!」
「遥が勝手に胸だと思っただけですわ」
「こいつぅぅぅ!!」
「……知り合い?」
郁佳が訊いた。
「知り合いじゃない」
「まあ!」
「他人」
「遥!」
「赤の他人」
「従姉を他人扱いしないでくださる!?」
「…………」
郁佳。
結女。
瑠衣。
三人が。
一斉に遥を見る。
「従姉?」
「……そう」
遥が。
心底嫌そうに答えた。
「牛島夏華」
「あらー」
結女が軽く驚いて見せた。
「私の従姉」
夏華が。
すっ、と胸を張る。
「改めまして」
右手を口元へ。
「おーっほっほっほ!」
「それ要る!?」
「牛島夏華と申しますわ!」
「普通に名乗れ!」
結女が。
夏華をじっと見る。
「なるほどー、そういうことなんですねー」
「何ですの?」
「夏ねー」
「?」
「はるちゃんが春でー」
結女が遥を見る。
「夏華ちゃんが夏なのねー」
「ええ。よく気づきましたわね」
「分かりやすい」
瑠衣が言った。
「春と夏」
「私は遥だから! 春じゃないから!」
「細かいことですわ」
「名前の話してるんだから細かくない!」
夏華が笑う。
そして。
瀬戸際高校の面々を順番に見た。
「なるほど」
「?」
「この方々が」
にやり。
「遥のお友達ですのね?」
「……何その顔」
「いえ」
夏華は。
嬉しそうに。
もう一度笑った。
「遥にもお友達ができたのだと思いまして」
「昔からいるわ!!」
「まあ」
「何!?」
「成長しましたのね」
「親戚のおばちゃんみたいに言うなぁぁぁ!!」
遥の叫びが。
控え室に響き渡った。
「まあ。失礼ですわね」
夏華が口元に手を添える。
「わたくし、まだ高校生ですわよ?」
「そこじゃない!」
「ではどこですの?」
「全部!」
「あらまあ」
おーっほっほ。
とは笑わなかった。
その代わり。
にやり。
夏華の口元が吊り上がる。
「それにしても」
「何?」
「先ほどの試合」
夏華の視線が。
遥から。
結女へ移った。
「なかなか面白いものを見せていただきましたわ」
「あらー。ありがとうー」
「特にあなた」
「私ー?」
「ええ」
夏華が結女を見る。
じっ。
結女も見る。
にこにこ。
夏華も。
にこにこ。
「…………」
「…………」
「……何、この空気」
遥が小声で言った。
「笑顔と笑顔」
瑠衣が答える。
「怖い」
「瑠衣が言う!?」
「遥」
郁佳が小声で訊く。
「従姉さんって、どういう人なの?」
「めんどくさい人」
「遥?」
「聞こえてるから!」
「聞こえるように言った!」
「まあ!」
夏華が胸に手を当てる。
「幼い頃はあれほど『夏華お姉ちゃん、夏華お姉ちゃん』と――」
「言ってない!!」
「言いましたわ」
「記憶を捏造するな!」
「では『なっちゃん』?」
「それも言ってない!」
「お姉さま?」
「絶対言ってない!!」
「……仲良し」
瑠衣が呟いた。
「どこを見たらそうなるの!?」
「喧嘩するほど」
「喧嘩しかしてない!」
「はるちゃんー」
結女が。
ぽん。
遥の肩に手を置いた。
「な、何?」
「よかったわねー」
「何が!?」
「お姉ちゃんいたのねー」
「結女まで乗るなぁぁぁ!!」
「だって、はるちゃん?」
結女が笑顔のまま徐に夏華に近づいて、スッと背中側に周った。
そのまま脇腹のあたりからシャツに手を入れる。
「「「え?」」」
三者三様の「え?」が出る。
「ちょ、ちょっと!?」
夏華の顔色が変わる。
「何をしてますの!?」
「んー」
「待ちなさい! そこは――!」
「結女!?」
「大胆」
「大胆、じゃないよ! 瑠衣! 冷静に見てないで止めよう!?」
「や、やめなさい! あなた一体何をして――、や、やははははは! くすぐった……やめ」
「あったー」
「え?」
ずるっ。
結女の左手が出てきた。
その指先には何かが一枚……。
挟まっている。
「…………」
遥が瞬きをした。
「それ……」
胸パッドだった。
「…………」
「…………」
「…………」
真っ赤になる夏華。
「か、返して! 返してー!!」
「あらー?」
さらに。
結女の右手が動く。
顔は完全にペコちゃんになっている。
「まだあるわねー」
「あ、やだ! ちょっ! 待ちなさい!! きゃあ!」
「えーい」
二枚。
「え?」
三枚。
「ちょっと!?」
四枚。
「待って待って待って!?」
「まだ出るの!?」
五枚。
「いやぁぁああ!!」
「結女!?」
六枚。
「嘘でしょ!?」
七枚。
「…………」
そして。
八枚。
「…………」
諦めたらしい。
広がる静寂。
結女の手には。
胸パッドが。
八枚。
獲ったどー! のポーズであざとくポーズを決める結女。
「…………」
遥が。
夏華を見る。
その胸を見る。
八枚を見る。
もう一度。
胸を見る。
「……夏華」
「…………何ですの」
ぷるぷるが止まらない。
「さっき」
白目になった遥が問う。
「誰が薄いって?」
「…………」
「……夏華ネエ?」
「…………い、いやぁぁあああああ!!」
夏華がくるりと背を向けた。
「返して!? ね? 返しなさい! 今すぐ返しなさい!!」
くるくると避ける結女。身長差で夏華はパッドを奪い取れない。
「夏華ネエ、八枚も入れてたの!?」
「枚数を数えるなぁぁぁ!!」
「防護具」
瑠衣が呟いた。
「誰が防護具ですの!?」
「八枚あれば防御力高そう」
「用途が違いますわ!!」
「結女……」
遥が振り返る。
「よく分かったね!?」
「んー?」
結女が。
八枚の胸パッドを手にしたまま。
にっこり笑った。
「さっきからー」
「うん」
「ちょっと形が不自然だったからー」
「…………」
遥が結女の胸元を見る。
本物がそこにいた。
夏華を見る。
「……盛ったね」
「盛ってませんわ!」
「八枚!」
「数えるなと言っているでしょう!!」
「八枚は盛ってるわよ!」
「戦略的補強ですわ!!」
「胸に戦略持ち込むな!!」
「…………」
郁佳が。
静かに目を閉じた。
「血は争えないね……」
「一緒にするなぁぁぁ!!」
「はるちゃんの方が薄い?」
「瑠衣ぃぃぃ!!」
「あらー?」
「結女も笑うな!!」
控え室に、遥と夏華の叫び声が。
いつまでも。
響いていた。
夏華、美味しい笑笑




