第49話 釘を刺す
エドヴァルドは書状を書いた。
王都の、辺境を支持する伯爵家の当主に宛てた書状だ。付き合いが長く、こういった事柄の仲介を頼める間柄だった。
「クレアモント伯爵家に、以下の意を伝えていただけますか。「辺境の当地における実績は、すべてオルダム侯爵家に帰するものです。他家がその功績を代弁されることは、当家として認められません。今後はご配慮いただければ幸いです」」
格式ある文体で書いた。怒りを文字に乗せることなく、事実を淡々と述べた。
署名して、封をした。
「カルル」
「はい」
「これを今日中に送れ」
「かしこまりました」とカルルが受け取った。書状を持ちながら「……侯爵、夫人にはこのことを伝えますか」と聞いた。
「しばらく伝えなくていい」
「……かしこまりました」
* * *
王都のクレアモント伯爵家に、その書状が届いたのは十日後のことだった。
伯爵は仲介者の名前と署名を見て、すぐに出所を理解した。
「……オルダムが、直接来たか」
書状の文面を読んだ。格式ばった、しかし内容は明快な釘だった。「功績を代弁するな」という意が、丁寧に書かれていた。
「しかもこちらの話を、把握されていた……」
王都でどこまで話が伝わっているか、エドヴァルドに筒抜けだということだ。
「……これ以上は危険だ」
伯爵は書状を折り畳んだ。引き出しの中に入れた。
これ以上レティシアの話を自分の慧眼として語れば、オルダム侯爵家から公式に異議が出る。それは、クレアモント家にとって得にならない。
口を閉じるしかない。
* * *
王都のクレアモント家では、長女ローレンシアが父の様子を見ていた。
「お父様、最近レティシアの話をされなくなりましたね」
「……ああ」
「何かあったのですか」
「何もない」
それだけだった。
ローレンシアは答えが得られないと分かって、話題を変えた。でも心の中では「あの夫が動いたのかもしれない」と思っていた。辺境侯爵エドヴァルド・オルダムが、妻のために。
あの地味な妹が——どんな生活を送っているのか。
* * *
辺境では、その変化はしばらく分からなかった。
「夫人、最近実家からの書状が来なくなりましたね」
ミレイが言ったのは、それから数日後のことだった。
「……ええ」と私は答えた。「どうしたのでしょうか」
「次姉様の書状も? あちらから「手紙を書いてもいいか」と聞いてきていたのに」
「そうですね」
次姉のローレンシアからは、一通も来ていない。父からの書状もない。何か変わったことがあったのか、それとも王都が忙しいのか——理由は分からなかった。
「不思議ですね」と私は言った。
「夫人、何か心当たりは?」
「ありません」
分からないことは、今すぐ解決しなくていい。後でいつか、分かることがあるかもしれない。今は目の前の仕事に集中しよう、と思って、帳簿に向き直った。
理由を知るのは、もう少し後のことになった。




