第48話 実家の自慢
王都から、書状が届いた。差出人は旧知の人間だった。
エドヴァルドは書状を開いて読んだ。
「辺境侯爵家の夫人が領地を大きく変えているというのは本当ですか。クレアモント伯爵が方々で話しているので、真偽を確かめたく。流行病の封鎖をされたとか、食糧倉の管理を一から整えたとか——あれほどの方を娶られたとは、さすがは辺境侯爵閣下というところでしょうか」
読み終えて、しばらく机の上に書状を置いた。
「……クレアモントが」
声の温度が下がった。カルルが少し顔を上げた。
「クレアモント家が、王都で妻の話をしているというのは本当か」
「……噂では、そのようです」とカルルが答えた。「辺境侯爵夫人の話が広まっているのを、クレアモント伯爵家が「うちの娘が」という形で語っているとか」
「うちの娘が」
エドヴァルドが繰り返した。
「はい。娘を見る目があった、というような話で——」
「以前の書状で、娘を引き取ると言ってきたのはいつのことだ」
「……数ヶ月前です」
「娘を引き取ると言って断られ、今度は娘の功績を語っている」
カルルが黙った。
エドヴァルドは書状を再び手に取った。「さすがは辺境侯爵閣下」——その一文が目に入った。
娘を「役立たず」と言って辺境に送った男が。「必要な人間を手放す気はない」と断られた男が。今は方々で娘の話をして、まるで自分の目利きが正しかったかのように語っている。
「妻の功績は、妻のものだ」
静かに言った。
「カルル」
「はい」
「クレアモント家に連絡を取れ。王都の繋がりを通じて。こちらの名前は出さなくていい」
「……どのような内容で」
「辺境侯爵夫人は、クレアモント家の娘ではなく、オルダム侯爵家の夫人だ。その点を、王都に明確にさせたい」
カルルが少し目を細めた。侯爵がこういう動き方をするのは、珍しかった。利害関係ではなく——感情から来る判断、というものを、エドヴァルドが下すことは少ない。
「……かしこまりました」
「それと、王都の知人への返書にはこう書いておけ。「夫人の功績は夫人が積み上げたものであり、いかなる家の話でもない」と」
「……そのまま書きますか」
「多少、読める形にしろ。要旨はそのままだ」
* * *
カルルが出ていってから、エドヴァルドは机の前に座ったままだった。
妻の話をされることへの、この感情は何か。
怒りだ、と分かった。
妻のための怒り、というものを、自分が持っていることは知らなかった。いや——知らなかったのではなく、今まで持つ機会がなかった。
妻の功績を勝手に使わせるわけにはいかない。
それはまず、当然の判断だ。だが——その「当然」の奥に、もう少し何かがある気がした。
エドヴァルドは書状を引き出しの中に入れた。答えは出なかった。
* * *
同じ頃、レティシアは薬品庫で春の補充計画の最終版を仕上げていた。
昼前に届いたクレアモント家の書状の内容はすでに確認していた。父からではなく、次姉からの書状だった。「妹が辺境でよくやっているという話を聞いた。手紙を書いても良いか」という短い一文だった。
次姉のローレンシアが。
私は少し手帳を閉じた。返事をどう書くか、まだ決めていない。後で考えよう、と思って、計画書に目を戻した。




