第47話 日常の会話
昼食を一緒にとるようになって、気づけば習慣になっていた。
毎日ではない。三日に一度、あるいは四日に一度、エドヴァルドが「今日はどうか」と声をかけてくるか、私から執務棟に書類を届ける流れで食事が一緒になる。
その日は私の仕事部屋での昼食だった。
「今日は何をしていたか」
エドヴァルドが食事を始めながら言った。雑談のような言い方だった。
「午前中は帳簿の最終確認と、薬品庫の一月の補充計画を仕上げていました。昼前にヘルダさんから呼ばれて、診療所で話を」
「昼に何を食べたか」
「……ヘルダさんが豆のスープを作ってくださっていて。いただきました」
「城の食事より良かったか」
「……ヘルダさんのスープは、野草をよく使っていて。身体に良い味がします」
エドヴァルドが「そうか」と言った。
「ヘルダとは仲がいいのか」
「仲がいい、というより」と私は考えながら言った。「仕事の話ができる相手は大切ですから。ヘルダさんは医学の知識がありますし、私の記録の話を真剣に聞いてくださいます」
「仕事の話ができる相手、か」
エドヴァルドが繰り返した。食事の手が少し止まっていた。
「……私は」と言いかけて、止まった。
私はエドヴァルドを見た。何を言おうとしたのか、分からなかった。
「侯爵?」
「……なんでもない」
食事を続けた。少し沈黙があった。
「侯爵とは」と私は言った。「仕事がしやすいです」
「……仕事が」
「はい。計算の途中で「条件を変えると」と言ってくださいます。数字を確認してくださいます。私の言っていることを、最後まで聞いてくださいます」
エドヴァルドが少し黙った。
「……そうか」
何かが、その二文字の中に混じっていた気がした。でも何かは分からなかった。
「ヘルダさんや侯爵のような相手が周りにいると、仕事が——楽しくなります」
「楽しく」
「はい」
エドヴァルドが窓の外を少し見た。
「それは良かった」
言い方が少し、ぶっきらぼうだった。でも悪い意味ではない、ということは分かるようになっていた。
* * *
その夜、エドヴァルドは自分の部屋で書類を見ていた。
仕事がしやすい、という言葉が残っていた。
仕事がしやすい。それはもちろん、悪い評価ではない。むしろ。
——もっと別の言葉を、期待していたのかもしれない。
その考えが浮かんで、エドヴァルドは少し止まった。自分でも驚いた。期待していた? 何を?
「……」
書類を手に取った。答えは出なかった。
* * *
翌日の朝、カルルが書状を持ってきた。
「夫人にこちらが届いています。クレアモント家からです」
私は受け取った。封蝋を見た。クレアモント家の紋章だ。
先日の「引き取り」の書状とは、少し違う紋章の押し方だった。差出人が違うのか、用件が違うのか。
封を開けた。




