第45話 ガストンの認定
ガストンが自分の部屋に来たのは、翌日の昼過ぎだった。
扉が叩かれた。ミレイが出て、戻ってきて「ガストン様がご面会を」と言った時、私は少し驚いた。
「……お通しして」
ガストンが入ってきた。いつもの格式張った立ち方ではなく、少し肩が下がっていた。
「夫人、少しよろしいですか」
「どうぞ」
私は立ち上がった。向き合った。
「私は長年この城に仕えてきましたが」とガストンが言った。いつもより声が低かった。「今年の冬の件。流行病の件。帳簿の件……」
少し間があった。
「全て、私が見落としてきたことでした」
「ガストン様は」と私は言った。「長年この城を支えてきた方です。私は来たばかりで、記録をつけただけです」
「いいえ」
ガストンが首を振った。
「夫人」
頭を下げた。白い髪が見えた。
「お見事でした」
私は——言葉が来なかった。ガストンが頭を下げている。この人が。
「私が各所の書類提出を遅らせた時、夫人は抗議をなさらなかった。帳簿室を開けなかった時も。感情で返してこられることが、一度もなかった」
頭を上げた。目が、まっすぐこちらを見ていた。
「その点も、見習うべきことでした」
「……ガストン様」
「はい」
「私が感情で返さなかったのは、相手の方が長くここにいる方だからです」と私は言った。「感情で返せる立場ではないと思っていました。ただ、必要なことを必要な形でやるしかなかった」
「それが……お見事でした」
またそう言った。
私は頭を下げた。
「ありがとうございます。これからも、よろしくお願いします、ガストン様」
顔を上げると、ガストンが少し目を細めた。怒っているのではなく——柔らかい何かだった。
「こちらこそ、よろしくお願いします、夫人」
* * *
ガストンが出ていってから、私はしばらくその場に立っていた。
ミレイが扉の外から飛び込んできた。
「夫人! ガストン様が頭を下げた!」
「見ていたのですか」
「ほんの少しだけ隙間から——すみません!」
私は少し苦笑した。笑いそうになったのを久しぶりに感じた。
「ガストン様が、ここにいる全員に正直な方だということが分かりました」と私は言った。
「どういうことですか?」
「間違ったと思ったら、頭を下げられる方だということです」
ミレイが「……ああ」という顔をした。
「やっと、ここが全員にとって安心できる場所になった気がします」と私は言った。
「夫人も、ですか?」
「私も」
ミレイが静かに笑った。
私も、少しだけ笑った。




