表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰の役にも立たないと言われて嫁いだ先で、私はようやく普通に仕事ができるようになりました  作者: ヲワ・おわり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/70

第45話 ガストンの認定

 ガストンが自分の部屋に来たのは、翌日の昼過ぎだった。


 扉が叩かれた。ミレイが出て、戻ってきて「ガストン様がご面会を」と言った時、私は少し驚いた。


「……お通しして」


 ガストンが入ってきた。いつもの格式張った立ち方ではなく、少し肩が下がっていた。


「夫人、少しよろしいですか」


「どうぞ」


 私は立ち上がった。向き合った。


「私は長年この城に仕えてきましたが」とガストンが言った。いつもより声が低かった。「今年の冬の件。流行病の件。帳簿の件……」


 少し間があった。


「全て、私が見落としてきたことでした」


「ガストン様は」と私は言った。「長年この城を支えてきた方です。私は来たばかりで、記録をつけただけです」


「いいえ」


 ガストンが首を振った。


「夫人」


 頭を下げた。白い髪が見えた。


「お見事でした」


 私は——言葉が来なかった。ガストンが頭を下げている。この人が。


「私が各所の書類提出を遅らせた時、夫人は抗議をなさらなかった。帳簿室を開けなかった時も。感情で返してこられることが、一度もなかった」


 頭を上げた。目が、まっすぐこちらを見ていた。


「その点も、見習うべきことでした」


「……ガストン様」


「はい」


「私が感情で返さなかったのは、相手の方が長くここにいる方だからです」と私は言った。「感情で返せる立場ではないと思っていました。ただ、必要なことを必要な形でやるしかなかった」


「それが……お見事でした」


 またそう言った。


 私は頭を下げた。


「ありがとうございます。これからも、よろしくお願いします、ガストン様」


 顔を上げると、ガストンが少し目を細めた。怒っているのではなく——柔らかい何かだった。


「こちらこそ、よろしくお願いします、夫人」


* * *


 ガストンが出ていってから、私はしばらくその場に立っていた。


 ミレイが扉の外から飛び込んできた。


「夫人! ガストン様が頭を下げた!」


「見ていたのですか」


「ほんの少しだけ隙間から——すみません!」


 私は少し苦笑した。笑いそうになったのを久しぶりに感じた。


「ガストン様が、ここにいる全員に正直な方だということが分かりました」と私は言った。


「どういうことですか?」


「間違ったと思ったら、頭を下げられる方だということです」


 ミレイが「……ああ」という顔をした。


「やっと、ここが全員にとって安心できる場所になった気がします」と私は言った。


「夫人も、ですか?」


「私も」


 ミレイが静かに笑った。


 私も、少しだけ笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ