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「昇級?」
「はい。いかがなさいますか?サクラギ様」
スケルトン・ロードの魔石鑑定から訪れていなかったハルの元に王都冒険者ギルドから昇級の話が振られた。
ハルとしては、暇潰しがてら依頼掲示板を覗こうとしていた中での誘いだ。
「確か昇級には試験があった筈だな」
「はい。その通りでございます。今回の場合、ギルド長の一存によりBランク冒険者へ一気に昇級することができます。ですが、特例でございますので昇級依頼をサクラギ様が選ぶことができません」
(まぁ、それは別にいいかな。長期間拘束されるのは御免だけど。ベルたちのご飯食べたいし)
「追加で今回はサクラギ様単独での依頼達成が必須です。そのためパーティーメンバーを連れて依頼を受けることができません」
(俺の実力を測りたいわけね。ま、問題ないか)
「こちらが依頼内容になります」
(うん?これは⋯⋯⋯)
受付嬢から渡された内容はとある商会の護衛依頼であった。報酬は金貨10枚及び商会を利用する際、ある程度融通を利かせるものであった。
破格の内容だ。裏がないわけがない。ハルもそれは重々承知している。何も準備をしていない状況で受けるはずも───ある。
「受けよう。依頼元へは直接行けばいいのか?」
「はい。今回の依頼は王都内ですのでそのまま向かわれてください」
「わかった」
「お気を付けて」
ハルはそのまま冒険者ギルドを後にした。都内を適当に移動しながら脳を回転させる。考えていることは先程の依頼内容についてだ。
ローヴェン商会からの護衛依頼。王都で有名な商会ということぐらいしか把握していない。だが、大商会であることは確実だ。
「ま、なんにせよ。暇潰しがてら行ってみるかー」
そう言うとハルの姿は王都の人混みへと消えた。
◇
王都冒険者ギルド長執務室。そこではギルド長であるガルドに秘書のカティアが報告を上げていた。
「サクラギは受けたのか」
「はい」
王都の流通を支配していると言っても過言ではないローヴェン商会からの護衛依頼。。正確な事情までは分からない。だが、ただの護衛依頼ではないことだけは、ガルドにも察せられた。
彼の情報筋によると元Aランク冒険者の男が用心棒として居たはずだ。Aランク冒険者と戦うには並大抵の相手では務まらない。そんな戦力を保持している大商会が護衛依頼を出したのだ。ガルドが困惑するのも無理はない。
とはいえ、冒険者ギルドは基本的に依頼発注を断ることはない。依頼主によって取捨選択する組織と噂されれば、信頼が損なわれ依頼発注の数は減り冒険者たちの食い扶持を失うことに繋がる。
(だからこそアイツらに依頼したんだが⋯⋯⋯クソ)
ガルドは先日のことを思い出す。危険性が高いと判断した彼は王都にいるAランク冒険者に依頼を出していた。だが、誰も受けることはなかった。王家から支援金を受けている彼らに依頼を受ける理由が無かったからだ。
このままでは大商会からの依頼を受注することができない。焦ったガルドはAランク冒険者に近い実力者を探している途中、ある人物を思い出した。
『国落とし』と恐怖されるスケルトン・ロードの魔石を持っていた青年───サクラギを。
「大丈夫でしょうか」
カティアが不安げに声を上げた。
「さてな。だが、『国落とし』の戦闘から生き残る実力者だ。今、自由に動かせる戦力で一番頼りになる冒険者だろうな」
ガルドはそう言うと天井を仰ぎ見た。
◇
王都の一等地。貴族の別荘が立ち並ぶ中、勝るとも劣らない存在感を放つ屋敷がある。切れ目の無い石壁に囲まれており外から様子を伺うことができない。
「ここがそうか」
壁沿いに歩き鉄格子の門へと辿り着いたハルは中を見た。戦士と思わしき人間が複数疎らに配置されている。
門前には槍を持つ男が2人。彼らは中の者達とは違い甲冑に鉄剣を腰に下げている。統一感から恐らくローヴェン商会の私兵なのだろう。
そう結論付けるとハルは門兵の側へと近付いた。彼らはハルの姿を確認すると槍を強く握りしめた。
「何者だ」
「冒険者ギルドから依頼を受けてきた」
「確認する」
そう言うと門兵の1人が屋敷へと走って行った。門兵が1人となったが直ぐに代わりの者が現れ再び厳戒態勢へと戻る。
数分もしないうちに、屋敷へと向かった兵士が執事服を身に着けた初老の男を連れて帰ってきた。
「冒険者でございますね。中へどうぞ」
使用人はそう言うと門兵に門を開けさせハルを中へと入れた。
中へと足を踏み入れたハルは戦士の男達から値踏みする目を向けられた。彼らは皆、ハルの実力を測っている。視線を気にすることなくハルは使用人の後を付いていった。
屋敷へと入ると2階へと続く大きな吹き抜けの階段が目に入った。床には深紅に染まったカーペットが敷かれており各部屋まで続いている。階段も同様だ。
使用人は迷うことなく2階へと昇った。ハルも屋敷内を観察しながら昇った。
(うーん、でかい。ニョルズ商会の倍じゃ効かないぐらいでかい。これが王都を牛耳る大商会か)
ローヴェン商会の屋敷に感心していると、使用人の歩みが止まった。
「こちらでございます」
ハルの前には他の部屋とは異なり重要な場所であることを示すかのような装飾が施されたドアがあった。使用人は右手を扉へと近付けると数回ノックした。
「ローヴェン様。冒険者がお見えです」
『通せ』
中へと足を踏み入れたハルを待ち受けていたのは、手元の資料と格闘する中年の男───グスタフ・ローヴェンであった。彼は手元からハルへと視線を移す。ハルの服装は足元まで隠れるほど長いブラウンのローブだ。帯剣している様子が無く隠し武器を持っているのかもしれない。
グスタフは目を細め口を開く。
「貴様がそうか」
「サクラギだ」
「Fランクだと⋯⋯⋯?」
グスタフはFランク冒険者を示す木のプレートを首にさげるハルを訝しむ。
実力を疑われたハルは弁明するように続けた。
「Bランクへの昇級も兼ねた依頼受注になる」
「ほう?」
(Fランクからベテランの域であるBランクへの昇級。ただの冷やかし貴族、だと困るが違うな。王国貴族の顔は覚えている。だがサクラギという名も顔も見たことが無い。ということは、冒険者ギルドに実力を認められたということになるが⋯⋯⋯)
「まぁ、いい。依頼内容は把握しているな?」
「あぁ」
「近日中に私を狙った暗殺者が来る可能性がある。大商会ともなると身に危険が及ぶことは珍しくもないが⋯⋯⋯今回は慎重に護衛を増やそうと思ってな」
グスタフはニョルズ商会への襲撃により主要戦力が消えたことを隠しながらハルへと伝えた。
「強敵か。随分と恨まれているのだな」
「ふっ。大商会の商会長には付き物ということだ。残りの護衛とも顔合わせをしておけ」
「わかった」
話は以上だ、と言わんばかりにグスタフは再度デスクに目を向けた。
ハルはいつの間にか部屋にいた使用人に案内されながら執務室を後にした。




