36限目
寮の前でモディエフと別れて自室に戻ったけど、やっぱりまだ室友 たちは講義に出てるようで誰もいなかった。
「おい剣、ずいぶん静かだったな」
寝台に寝転がってそうこぼし、すっかり存在を忘れかけていた剣を掲げてみる。
見た感じ普通の剣なんだけど。
『まあ、邪魔はされたくないだろ?』
「まあな。けどお前の鞘作るの、忘れちまってた」
『あー、オレも忘れてた』
「自分のことなのに?」
『ああまあ、いろいろあるんだよ。オレにも』
「ふーん?」
喋るんだよなぁ。
「まあ、じゃあ鞘はまた今度な。それでさ、なんか喋ろう」
『なんかってなんだよ』
「なんかは……」
おっと。そういえば声に出さなくても会話はできるんだったな。忘れてた。気をつけないとな。
(なんかだよ。なんか。なんでも良い)
『課題があるんじゃ無かったのか?』
(食ったもんが微妙だったからやる気がわかない。夕飯の後にする)
『ふーん』
肯定とも否定ともとれる曖昧な返事。まあ、悪くは無いんだろう。何の話題を振ろうかな? そうだな、やっぱりこいつに聞くべきことはたくさんあるし……ん。話題思いついたけど、自分で口にするの恥ずかしいぞこれ。
(俺さ、勇者になるらしいじゃん)
『おう、まあ候補だな』
結構覚悟を持って口にしたのにさらっと流されたぞ。
(勇者ってなんなんだ?)
『簡単に言うと』
(簡単に言うと?)
『魔王に対抗できる戦士だな』
(現実感ねーな)
っていうか、魔王いるんだな。
いるんだよな?
俺が勇者ってことは、倒すべき魔王がいるってことでいいんだよな? いてほしくないけど。
でも俺が勇者なのと、魔王がいるのと、俺が魔王と戦わなきゃいけないのと、一番現実感ないのはどこだ。
(というか、簡単に言わないとどうなるんだ?)
『そこはまあ、いろいろだよ』
(いろいろねぇ?)
『例えばこう、《魔剣に選ばれしもの》とか』
(なに? お前俺を選んだの?)
『お前は候補。現段階ではぶっちゃけ微妙。まあ、ありがたい主人ではあるけどな』
(お前を完全な状態にできるから?)
『おう』
そうかい。
……そういえば他にも五人候補がいるわけだよな。
(もしかして俺って、他の候補より6倍有利なのかな?)
『んー? なんで?』
(だってお前6分割されてるんだろ?)
『ああ。でも剣身が半分消えて無くなったことを考えると、今の俺は7分の1くらいだな』
(ってことは単純に考えると7倍有利なのか)
『まあ、オレを基準に考えればそうなるけど……お前、候補者の中で一番選ばれるの遅かったからなぁ』
(……そうなの?)
『しかもおまけで選ばれただけだし』
おまけですか。まあ、正直自分でも勇者の素質っていうと微妙な気はするんだよな。
はっきりいって、弱いし。
『他の候補の中にすっごい奴がいるんだ。別にオレとの相性がいいかっていうと微妙なんだけどな』
(どれくらい強いんだよ?)
『三人いればオレを使ってドラゴンが倒せるくらい』
(……)
『あ、なんだその反応! まさかお前、自分もドラゴン倒したとか思い上がってるんじゃないだろうな!』
(いや、それはないけど。【銀の千嶺】は一人でディザスターブルー倒すんだぞ? ぶっちゃけ三人がかりでドラゴン倒せるくらいって言われても……)
『それはもうそいつが魔王だろ。なんでそいつが勇者候補じゃないんだよ』
(知るか。召喚師だからじゃないか?)
『ふむ、確かにそれは勇者っぽくない』
……勇者に『ぽい』とかあるんだな。なんか複雑な気分になる言葉だよ。




