32限目
部室に扉は無いんだろうか、先輩はなぜか窓から抜けて出てきた。
その身は細くで引き締まっていて、俺より一回り以上大きい。1.05 《1.89》ハード くらいだろうか? まさに弓幹 のようにも見える。
「そういえば名乗ってなかったな。【射手】専行四年、ベスティカだ」
「女みたいな名前だな」
余計なことを言ったモディエフが拳骨を食らった。正直言って俺もそう思うし、剣も同じことを呟いてたけど……声に出しちゃ駄目なところだろ。それは。少なくとも学校に入った時自分でその名前を使うって自分で決めたんだぞ? その先輩が。つまり、気に入ってるか、これしか無いと思って使ってるんだから。
「い、いってぇ……」
「さ、君らのことも教えてくれよ」
「はぁ」
なお、先輩の服装は毛皮の腰巻に草履だけだ。みぐるしくは無いけれど正直あんまり似合ってない。筋肉にもうちょっと量 が欲しいよな。
「いやぁ、似合わないのは知ってるんだけど……」
「弓の弦にでもしたんですか?」
「いや、新しく作った仮漆 の匂いが最悪でさ」
「それが服についたと」
「まぁそんなとこさ」
「それはご愁傷さまです」
「おい騙されんなセイ。こいつは好奇心に負けて服の革に塗りこんだんだ」
……服に? 強度でもあげたかったのか、それともたまたま他に適当な革がなかったのか。好奇心に負けたってモディエフが言ってるところをみると、単に適当な革が近くになかったんだな。
「ふむ、君はセイと言うのか」
「……あんたも大概自己本位 だな。俺の周りはそんなんばっかりか」
「君の周りのことは知らないけど」
「おい、ユーティエの弁当分けてやろうとしただろうが」
「あー、二人で次々に喋らないでくれませんかね」
っていうか空腹が限界なんだが。
「とりあえず燻製作ってるってとこに行って、そこで燻製分けてもらってから話しませんか?」
「ふむ」
「いいのか、セイ? 食中毒で喋れなくなるかもよ」
「その時は縁が無かったでいいだろ」
俺の言葉に二人が少し首をかしげ、そして頷いた。どうやら同意を得られたらしい。先輩が率先して窓を一つ一つ数えながら歩きだす。いや、歩き出したと思ったら四つ目で足を止めた。近いな。ほとんど5歩分くらいだぞ? 建物の大きさがまばらにもほどがあるだろ。煙突はついてるけど……しかしうーん? 煙の匂いはしない。まあ年がら年中魔物の肉を用意して燻してるわけにもいかないだろうし、そんなもんなのかもしれないけど。
|Knock-Knock (コンコン)!!
「おーい、マキシア? いるか?」
先輩が窓を軽く叩く 。
燻製作ってるのはどうやらマキシアさんというらしい。女性っぽい名前だけど、今まさに目の前に女性っぽい名前の男性がいるからなぁ。油断は禁物だ。しばらく黙って窓を見ていると、5分の1 センク 程開いて、一つだけ目玉が覗いた。ちょっと怖い。
「いる」
「おう、いたか。肉分けて欲しいんだけど」
「……物好き」
すごく声小さくて聞き取りづらいけど……女性だな。多分。
そのままなにやら小声でベスティカ先輩と話し始めた。肉の種類とか量の相談だろうか。
「あの先輩……強い」
「あんな目玉一つでわかるのか?」
「あの目玉一つが半端なく高性能だぞ、あの先輩」
「そ、そうか」




