31限目
「ここがそうか」
「っていうか、ここの中のどれかがそうって感じかな」
さて、そんな生徒の趣味でしか利用されない施設。当然まともに建設されているはずも無いわけで。見た目は……そうだな、大都市の裏路地にある掘建小屋 の群れに近いものがある。全体の構造がどうなってるのかはよくわからないけれども、手前の広場がどっからどう見てもどうしようも無いくらい完璧な焼け野原になっているのは、昔大量の虫が湧いてどうしようもなくなったことがあり、この建物群を全てまとめて煙で燻したことがあるからだそうだ。
言われてみると全体的に煤けているように見えないことも無いけれど、建物を燻す前に当然いろんな機材とか道具とかを避難させることができるのだから、普通に殺虫剤撒いてもよかったんじゃ無いだろうか。
「なんかちょっと建物からいい匂いがする気がする」
「あー……」
「でも、なんか煤けた匂いの方が強くて食物の匂いなのかどうかわからん。いや、この煤けた匂いがそもそもいい匂いなのか?」
「わかんないけど」
もしかして、建物を燻した時に一緒に燻製作った剛のものがいたりしたんだろうか? それで、燻すための木材を全部りんごの木で揃えたりしたとか。
いや、でも二年以上前の話らしいし、そんなわきゃないか。
「ちなみにこれってどこから入ればいいんだ?」
「さぁ? 下手に突くとそれだけで倒壊しかねない危うさがあるよな」
「するのか?」
「しないといいな」
「流石にねーだろ」
まあ、中に入らないことにはどうしようも無いので、適当な窓を見つけて戸を叩いてみる。
「はーい」
お、当たりだ。俺より一つ二つ上だろうか、少し髭の生えた男性が顔を出した。
「ここは、複合弓 研究部だが……何か用か?」
「ああ、えっと、ここそういう研究部なんすね」
んん? 複合弓 ってなんだ? 弓の一種なのはわかるけど、複合? 弩とかのことだろうかな。まあ、多分食べ物には関係無いだろうから今回は置いておこうかな。若干モディエフが興味がありそうだけど、言葉にちょっと反応しただけだし、本人が何も言わないなら俺が突っ込むのもなんだし。
しかし、腹減ってて食いモン探してるって、ストレートに言うのもなんか恥ずかしいなぁ。
「すいません、ちょっと食べ物探してまして」
「……えー」
「その、昼食べ損ねて、食堂閉まってるから……」
「そういうのは寮の自室に確保しておくものだろ。君新入生かなんか?」
「……二年目です」
「しっかりしろよ後輩」
「面目次第もありません」
課外演習が長引いた時用に寮を空にしてたのが響いたよな。全体的に。
「つまりあれだな、保存食の研究とか、食える植物の栽培とかしてる研究部 を探してるんだな?」
「お、話がわかるなアンタ」
「黙っててくれるかモディエフ」
今まさに話を聞いてくれる先輩をアンタとかいうんじゃ無い。
ちょっと呆れたような顔の先輩に慌てて頭を下げる。ほんともう、モディエフは。
「すいません、なんというか」
「ああ、まあいいよ。君に構ってもらえなくて退屈なんだろう。彼女も」
「いいえこいつはただの阿呆 です」
「そうかい? ともあれあれだ。三つ隣が魔獣の肉の燻製を作ってるよ」
「それって分けてもらえるんですか?」
「時々混じる食中毒を気にしないなら食わせてもらうといい」
時々食中毒混じるんですか。
「おし! 行こうぜセイ!」
「ええ、おま、食中毒怖く無いのかよ……」
「毒食らっても医務室いけばいいじゃん。病気や怪我は直せばいいけど、飢えはどうしようも無いんだぜ?」
「なんだその発想、天才的だな! せっかくだから俺も行くぜ」
「先輩!?」
裏切られた!?
「まあまあ、いいか? 課外学習中に突然食中毒になったら大変だぞ? 医務室に行けばいいという選択肢がある状態で慣れておくのもいいんじゃ無いか?」
「そういうもんですか? 正直慣れる以前にそんな体験一生しない方がいいと思うんですが」
「それは、まああれだ。冒険者目指してる時点で無理だ」
「世知辛い……」
「楽しいぞ?」
「つか楽しめよ、セイ」
ええー……
「……努力はする」
いつも読んでくださってありがとうございます。
遅刻してすいません。




