29限目
ぶっちゃけ俺はユーティエの手料理なんて食べたことが無い。
何故か? 理由は幾つかあるけれど、一つは寮の自室にはそういった調理のための設備が無いこと。いや食堂がある以上当然あるにはあるのだけど、それは学生が使ってはいけないことになっている。理由はまぁ、好きに入れるようにすると衛生管理上問題があるからだそうだ。実際出入りが自由とされる食堂には時々魔獣の返り血を浴びた奴とか泥まみれの靴 を履いた奴とかが兵器な顔で出入りしてるから、その判断は間違ってないだろうと思う。下手をすれば魔獣の死骸 なんか持ち込む奴が出る可能性だってある。
二つにはまあ、俺らの班 ではそういうの全般が俺の仕事だったからだ。基本的な野営道具の準備、事前の情報収集、食料の買い込みから始まって、実地での野営地 設置、地図作成 、装備の整備 、食事の用意。がさつすぎる双子には当然任せられないし、ユーティエはそんな暇があったら精神力を充溢 させるのが仕事なのだ。教師が監督する実習であったとしても、常に役割は適切に分けられそれぞれの適性にふさわしい動きをできているかどうかが見られる。いや、教師が監督してるからこそ厳格に見られている。当然そこで俺が料理をさぼれば罰があるし、ユーティエが瞑想せずに料理なんぞしていようものならやはり罰がある。
したがって、俺にはユーティエの手料理を食べる機会なんてものは巡ってこない。『はずだった』……と言ってみたいところだが、この馬鹿が妹に出し抜かれたせいで台無しである。ないものは無いで話が終わってしまった。
ただまあ、逆に言えばユーティエの料理なんて誰も食ったことが無いのだ。少なくとも班 の仲間は全員そのはずだ……もしかしてこっそり食ってたんだろうか? だったらうらやましい限りなんだが。
「いや、無いけどさ、期待するだろ? ユーティエだぜ」
「そこには全面的に同意してもいいけどさ」
しかしどうしたものか。ユーティエの手料理という期待感で胃袋が快哉をあげていたのに無いときた。これは確かに何かを食わざるおえない。問題はその何かの当てが無いことなんだが。
「食堂開いてないだろ。敷地内に野生動物は……」
「今から捕まえてさばいてたら先に食堂が開くんじゃ無いか?」
「近所の街まで行くのは?」
「片道1時間。馬使ったらさすがに捕まる」
「食堂のおばちゃんに泣きつく」
「今修羅場だろ。絶対」
「むしろ忍び込んでつまみ食い!」
「無理言うなよ……無理言うなよお前忍び込むとか無理だろ」
「一応狩人の修行してたんだぞ? 弟が生まれるまでは」
「一応って自分で言ってるじゃ無いか」
「じゃあお前なんか案出せよ」
「なんかってなあ」
首をひねる。
「部室棟行ってみるか?」




