26限目
「……こんな怪我どこでしたの?」
医務室の治療術師の先生の第一声はそれだった。
確かに学内でこんな怪我をする機会はあまり無いだろう。具体的に考えられる例としては、他の学生と全力で喧嘩して戦槌を叩きつけられたと見るのが妥当なところだろうか。実際、先生の目はモディエフの装備に据えられて、上から下まで何一つ見落とさぬと言わぬばかりの目つきである。ちなみにモディエフの装備は今日は短剣が二本だけだ。珍しい。
「えっと、一応試験競技場 ですけど」
「あそこで? 二人で入ったの?」
「いえ、一人です」
「ふうん?」
今度は俺に目が向けられる。明らかに疑っていますという顔だ。
うん、普通はあの場所でこんな怪我するわけ無いもんね。あるとしたら混乱した仲間に武器を叩きつけられるくらいだろうか。単に怪我をしたというだけならまだ何らかの理由で外に出ていた可能性もあるだろうけど、こうして試験闘技場 で、と言ってしまえばその可能性もなくなるわけだ。
「彼女を庇ってるわけじゃなくて?」
「庇う必要がある女に見えますか?」
「それもそうね」
「おい、なんかオレの扱い悪く無いか?」
「気のせいだ」
いまちょっとお前に構ってる暇が無いんだ。
「ええと、まあいいわ。細かいことは後にして治療に専念しましょう」
「宜しくお願いします」
「それと、今後は試験競技場 でも油断せずに装備を整えること。いいわね?」
「心に留めておきます」
「よろしい。さて、どうしたものかしらね……」
先生の手が肩の怪我に触れる。実際痛いのだけど、触り方がモディエフと違って乱暴じゃ無い分許せるというか……まあ、痛いんだけど。
あ、モディエフが後ろからじとっとした目でこちらを見ている。何か言いたいことがあるなら言えばいい。
(っていうかおい、《完全物理耐性》効いてないよな?)
『安心しろ、今は無いはずだ。感じないのか?』
(うーん……もう痛みに慣れちゃったかもしれない)
『いやむしろオレが作る力の流れ的なのとかさ……そうか、そういう特訓するのもいいな?』
「……くん、……てる?」
(そういう特訓て何だよ……またなんか変なことさせられるのか?)
『変なこととは何だ。使い手に上等な使い手になってもらうのは武器の本懐だぞ』
「……ーい、……イくん、……いてる?」
(お前のやり方不穏なんだよ)
『そうかぁ?』
「おーい、聞いてるかねセイ・シヤクカダイユくん」
「へあ?」
いかん、完全に剣との会話に没頭してた。っていうか本当に痛さに慣れちゃってきてるんだな……
「痛さで意識が飛んでた……ってわけでも無いみたいだけど、大丈夫?」
「あ、ああ、すいません。正直ずっと痛かったから慣れてきちゃったみたいで」
正確に言えば、痛いと思ってる自分を体の方に残して、別に作った考え事をする自分を心の奥に放り込むような感触だろうか。痛いものは痛いけど、それはそれで別に置いておけるというか、そんな感じだ。まあ今は関係無いので置いておこう。
先生の目は再びモディエフを捉えている。彼女がここまでいかに粗雑に俺を扱っていたのかがピンときたようだ。ありがとうございます。できれば叱ってやってください。
「まあいいわ、それでこの怪我なんだけど」
「あ、はい」
「切る必要があるわね」
「はい……はい!?」
切るってあれか? この腕はもう使い物にならないとかそういうことか!?
「ああ、安心して? 腕は元どおりになるわ。なるけどそのためにはまず折れた骨を並べなおさないといけないの」
「え、ええと?」
「嵌め絵 の欠片 をばらばらのまま額に入れてもしょうがないだろう? 治療してつなぎ直す前に、正しく繋がるようにしなきゃいけないのさ」
「はー……」
想像するだにえぐい絵面なんですが。大丈夫ですかそれ。
さすがにちょっと怖いな……と思ってるのはどうやら俺だけでは無いようだ。先生が用意した銀盆の上に並べられる刃物の数々を見て、モディエフの顔色がサァッと青くなる。
「あの、それってまさか……切るんですか?」
口調まで変わってもはや別人なんだが。お前こういうの苦手だったのか? とは思っても口に出さない。苦手かと問われれば強がるのが彼女たちの性 である。こういう時の攻め方はもうちょっと違うはずだ。
「以前見たことがあるんですけど、のこぎりを使ったり……?」
「まさか、それはもう完全に使い物にならない時よ。今回はちょっと開いていじるだけだから、そこまでしないわ」
「というか今更だけど、ここまで送ってくれただけで充分だぞ? オットーでも迎えに行ったらどうだ」
そう。今こそこいつを追い払う好機にちがい無い。何でか顔を青ざめさせてるけど、そうであれば後で何を思い立ってかき回されるより前に追い払うのが無難だろう。
「……いい。ここで見てる」
声かぼそっ! というかそれは一体何の意地なのかと。
いつも読んでくださる方、ありがとうございます。
今日も迷走した上に遅刻してます。本当に申し訳有りません。




