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23限目

『お疲れさん』

(ああ、とりあえず医務室だ。見習いの癒し手が研修してないといいな)


 ため息とともに、試験闘技場 トライアルダンジョン入退場名簿の退場記録に記帳する。本当に疲れた。早く休みたいけれど……そもそも鞘を迷宮 ダンジョン内で作る予定が潰れてしまったから、剥き身のままだ。さすがにそのまま医務室に持っていくわけにもいかない。

 一旦部屋に持って帰って置いてくるか、用意してた革の紐で刃を縛るかしないといけないかな。つらつらそんなことを考えていると、にわかに影がかかり何者かが覆いかぶさってきた。

 背中に張り付く気配が、相手が女性であるということを教えてくれる。ただしごりごりの。


「おーっす。暇そうだな」


 極めて良く知った声だった。モディエフ。双子の女戦士の片割れ。

 一応名誉のために言っておくが、俺は別に身長で負けてるわけじゃない。記帳のために少し前かがみになっていただけだ……さほど身長差がない。というのは確かであるけれど。


「なんでお前がいる?」

「んー? お前が試験闘技場 トライアルダンジョン潜ったって噂聞いたから来た」

「……誰から」

オットー

「あいつはどこで聞いたって?」

「いや、聞いたっていうか……見たって」

「お前ら補習じゃなかったのか」


 こうも気安い掛け合いをしていると、はたから見て仲がいいように感じられるかもしれない。けれど実態はそうじゃない。肩の怪我に触れるのが怖くて身動きが取れない俺に、奴は容赦なく体重をかけている。この事実を仲がいいと解釈するなら、それは相当ひねくれた人間だろう。もちろん、こいつは俺が怪我をして肩を庇っていることを見て取ってやっている。生来の弱点看破技能 インサイトオブウィークネスというやつだ。妹は逆に相手の強みを見つけるのが得意だと言っていたか。才能に溢れているようで何よりが、ついに俺の美点は見つからなかったらしい。どやかましいわ。

 一体何が楽しくてそういう真似をするのか試しに問いただしてみたくはあるが、多分まともな答えは返ってこないだろう。なら俺にできるのは、せいぜ早くこいつがいなくなってくれることを祈るくらいか。

 ぜってーとどかねーだろうな。


「補習だぜ? お前は何やってたんだ」

「俺も補習……っていうか補習の補習っていうか」

「いみわかんねえ」


 わかんねえのはこっちだ。結局お前らの補習はどうなったんだよ。そもそもオットーが現れただけで意味わかんなかったのに、今更のようにお前まで出てくるな……というかオットーが見たってどういうことだ。俺を監視でもしてたのか。

 というかぶっちゃけユーティエどうした。


「まあ、あれだ。今日の分の補習、実技はとっくに終わってなぁ? 座学たるいのに、お前を呼ぶように言われたのオットーだろ? だから隙を見て様子見に来た」

「つまりお前もオットーも揃って座学の補習を放棄して逃亡中なんだな」

「そうともいう」

「お前……そんなことしてると班が組めなくなるぞ」


 詳細は知らないけど、ユーティエはきっと真面目に補習を受けていることだろう。俺だって今日補習は終わる予定だしったし、そうするとこいつらだけいつまでたっても補習が終わらないってことになりかねない。

 それでユーティエと二人っきりならまあ歓迎すべき事態だけど、普通に二人だと課外実習に出してもらえない。いきなり見ず知らずの班に放り込まれたりする。しかも二人別々に。それだけは嫌だ。それなら一人の方がましなくらいだ。


「……あれ? 何お前、あんなに散々言っといて、パーティが解散するの嫌なの?」

「別にパーティはどうでもいいけどユーティエが取られるのは癪だ」

「ふーん? へー? ほー?」

「鬱陶しいなぁお前は! っていうか重い、苦しい、痛い。ゴリゴリして全然得な気分がしない!」

「そりゃそうだろ。鎧着てるんだから」

「なんで校内で完全武装してるんだよ!」

「お前本当にわかんないの?」


 ……。


「いや、だってお前補習受けてるんだろ? だったら闘技場 コロッセオの使用許可は下りないはずだ」

「別にそんなん、不真面目なやつが監督やってる時に来ればいいだけだろ」

「……身も蓋もないなおい」


 つまり人が意気揚々と迷宮 ダンジョンに入るのも、ずるずる出てくるのも文字通りすぐ隣で見てたってことか。たまたま俺が入る時に見てたのがオットーで、出てくる時に居合わせたのがモディエフだったと。

 こいつらはいないだろうから一人でここに来たっていうのに。なんてこった。

 いや、警戒してなかった俺の失敗か。もしかしたら迷宮に入る時に剣と話してたのを聞かれてたかもしれない……いや、あの時はもう脳内でしか話してなかっただろうか。ちょっと思い出せないけど一つ分かる。これは良くない流れだ。というかいろいろまずい。


「それでサァ、聞いてる限り迷宮に入る時はお前こんな怪我してなかったらしいんだよなぁ」

「い、ギィッ」


 いきなり肩を掴まれた。めちゃくちゃ痛い。

 すっごい痛い。

 しこもこの女郎、掴んだ手にがんがん体重かけてきやがる。


「なーに面白そうなことしてんだよ? 教えろよ、な?」

読んでくださってありがとうございます。

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