22限目
俺、今更だけど剣に主導権を取られすぎなんじゃないだろうか。
踏み出した足に噛みつく虎挟みに耐える。耐えるっていうのは痛みをこらえることじゃない。反射的に身を引こうとすること、身が震えることを耐えるんだ。結局俺が一番辛いのは、罠にかかることじゃなく何かしらの衝撃が肩の傷に響くことなんだから。無駄に動いてしまうことや、無駄な力がかかることが苦しいのだ。
しかしなんというか、あれだなぁ。もともと怪我をしない罠に、怪我をしない体の組み合わせってどうなんだろう。何か不毛というか、間違ってる気がする。まあ都合はいいんだけどさ。
『今ので何個目だっけ?』
(さぁ? じゅう……17? とかそれくらいじゃないか)
『幻覚は?』
(狼っぽいのが二匹、熊が一匹、両足振り上げた馬が出た時はさすがに無様を晒したな)
『ひっ!? とか言ってたな。はたから見てて結構面白かった』
(そうかい。俺は辛かったよ……肩から地面に転がる羽目になったからな)
実際のところ、怪我はどうなってんだろうか。
何もしてなくても痛いし、触ればなお痛い。治ってはないのは確かだけど、思ったよりじくじく痛まないというか……怪我自体の痛みはあるし引きずっているけど、怪我を触った時の痛みは本当に触った時しか痛まないのだ。この辺てどういうものが正解なんだろう。普通は触った後しばらく痛みが続くものじゃないのかな。
がっ!? 考え事のせいか振り子の罠に腰を打たれた。体が揺れて肩まで響く。せめて転ばないように堪えろ……!
こういう罠は、試験競技場 の罠は、大まかに分けて二種類ある。発動前に対処できる罠と、発動後にしか対処できない罠だ。発動前に対処できる罠というのは必ずしも解除できるというのではなく、避けられるという意味の場合が多い。つまり発動後にしか対処できないというのは、その多くが発見できない罠だということだ。
それはどういう仕組みで発動する罠なのか。その多くは『他の罠に追従』する。もしくは『時間経過』で。
時間経過の方はえげつないし、大掛かりだしで、この際あまり関係ないから置いとくけど、問題は追従の方だ。なんでだか知らないけれど、追従する罠というのは威力が高い。他の罠の痛み とかで注意力が散漫になっているところを攻撃するのは、なんというか、ちょっと理不尽だと思う。理屈はわかるんだけどな。
でも時々思うんだけど、これって罠に対する注意力が逆になくなったりしないんだろうか。どうせ死なないとか思ってさ。
『あるある。そういうの結構あるぞ。ドラゴンに丸呑みにされても、まあどうせ死なないしな……とか言っちゃう奴がいるんだよ時々』
(経験済みかよ……どんな奴だ)
『んー? お前と似たようなもんだ』
(完全物理耐性?)
『いや、《反位力場結界 》』
それって、確か内側の存在が望んだもの以外、内外の全てを完全に遮断するって奴だよな。召喚魔法で召喚されたものが送還されるか、自分で望まない限り解除されないって奴。
だから召喚魔法で召喚されたものは、基本的に真っ黒な球体か影として現れる。それは、あの日先輩の魔法で何度も見た。契約した相手だと、すぐに結界を解除して生身に近い状態になるらしいけど、場合によっては契約してない相手を召喚することでかべがわりにする召喚師も居るらしい……はっきり言ってディスケロスの障壁 なんかよりよっぽど頑丈で強力な防御手段ではある。
本人が望む望まざるに関わらず、数十秒から数分で送還されてしまうことを考えなければ。
「痛っ!」
っと、案の定追従する罠だ。天井が落ちてきた……さっきの罠で転んでたら全身を潰されてたな。今回はつま先だけで済んだけど。いや、つま先だけでも結構痛いけど、足の小指を箪笥の角にぶつけたときほどじゃないな。しかし釣り天井なんて、いつもと比べたら随分生ぬるい罠だな。しかも若干薄い。とりあえず天井が戻るのを待つか。
(ええと……そうそう、確かにドラゴンに丸呑みにされてもしばらくしたら送還されるから関係ないな……ってことは何? お前の持ち主の中に、何度も召喚されるような人がいたってこと?)
『いや、違うけど……まあ細かいことはおいおいな。それよりもう少し罠に動揺しろよ』
(慣れた。ところで完全物理耐性って、ドラゴンに飲み込まれたらどうなるんだ?)
『蛇で試したらどうだ? あいつは火を吹かないぞ』
(……口の中で焼かれるっていうならそういえばいいだろ。確かに考えが足りなかったけど……あっ!?)
しまった、完全に油断していた。この釣り天井、天井に巻き上げる仕組みが付いてないぞ。これじゃいくら待っても天井はどいてくれない……まあ、普通に足引き抜けるからいいけ……うわぁ……なんかベタベタしてる……なんだこれ、もしかして天井を背負って歩かなきゃいけなくなる罠か? いや、もしくは顔に天井が張り付いて呼吸できなくなる罠……?
『さすがに引っかからなくてよかったと思うな……』
(まあ、これだけ大きな罠がきたんだ。この部屋にはもう罠はないだろうな)
『あとは歩くだけ?』
(時々虎挟みに挟まれながらな)
実際、その後一時間弱で試験闘技場 を抜けることができた。
一回護謨弾に肩を打たれて死ぬほど痛かったけど。
いつも読んでくださってありがとうございます。
更新遅くなって申し訳ありません。




